第20話 黒板のない誕生日
いつも私の名前は黒板には書かれなかった。
それどころか、きっとこのクラスの誰も私の誕生日なんて知らないのだろう。スクールカースト上位の彼らは仲間内の誰かが誕生日の時だけ、いつもより早起きして、学校に来て、黒板に「おめでとう」とか身内ネタのジョークや、へたくそな似顔絵を書き連ねる。
主人公は遅れてやってくる。だけど程よく多くのクラスメイトに祝われる程度の時間を選んでやってくる。わかりきった祝福を受け、彼らだけが楽しいだけの朝。
それどころか無関係の人にすら認知させるのだから、それは一種の才能と言えなくもない。チャイムの音が鳴って授業が始まっても、あえて黒板は消されることがない。優しく気楽な教師が入ってくるまで待つのだ。
「おう、安井、今日は誕生日なのか」
「そうでーす!」
「おめでとう。でも黒版は消しておけ」
クスクスと笑いあいながら消されていく「おめでとう」の言葉。それでも先生ひとりがわかっていれば、後はどうとでも伝わっていく。今日はなにかと先生たちからおめでとうと言われる日になるのだから。まったく計算高いことだ。
私はこれまで黒板を賑やかしたことはない。そして朝から誕生日を祝ってくれる友達もいなかった。
しかし大人になってからは、自分から誕生日だと気軽に言えるだけのプラットフォームができた。色とりどりの風船が飛び立つ。その写真を見て顔も知らない人たちが、簡易な祝福の言葉をくれる。それが心を満たしていく。
黒板なんてもう必要なかった。
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