第11話 おかえりなさい

今日は私たちの結婚記念日。


長年連れ添った私たちには今更特別な企画はない。最初の数年間は頑張っていろんなところに出かけて、旅行したり素敵なレストランに行ったりしたものだけど、いつしかとても簡素なやり取りだけで済ませるようになっていた。


毎日指につけている指輪を外して、互いに渡してクリーナーで磨く。これ以上ないくらい丁寧に磨きあげる。そしてきれいになった指輪を、まるではじめての時みたいにお互いの指につけあって「これからもよろしくね」といってキスをする。


少し膨らんだ指は窮屈そうで、それでもすっぽりと馴染む肉が愛想をはらんでいる。本当は、あなたが外で何をしているのか、私は知ってるの。だけど笑顔でこの家に帰ってきてくれて、笑顔で私を抱きしめてくれるなら、もうそれでいいって諦めているのよ。だから今年も気づかなくていいの。愛してる。今年もよろしくね。

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