シェアハウスの相手は幼馴染みの三姉妹。そしてその姉が実は元カノ。
もちお
第1話 プロローグ
「いやっ! あたしはぜぇーーーったいこんな奴と一緒に寝たくないっ!!」
話し合い開始5秒後。
まるで日本刀のように鋭い怒声が、俺の鼓膜を切り裂いた。
「もう、あや姉べつにええやんか。ウチは全然オッケーやで」
「何言ってるの
そう言って、今度こそ本当に刃で俺のことを突き刺してくるんじゃないかってぐらい鋭い睨みを利かしてくる彼女の名前は、
猫目のパッチリ二重に、最近染めたばかりだという栗色セミロングの髪。そのウェーブがかかっている髪以上にこいつの性格が捻くれていることは物心ついた時から知っている。
そしてあの当時と今とで違う点があるとすれば、じゃじゃ馬娘な性格はそのままに外見だけはやっかいなことに美少女と呼べるほどの容姿を手に入れてしまったことだろう……以上。
まるで走馬灯ともいえるようなスピードでそんなことを考えて現実逃避を試みる俺。
だだっ広いリビングの一角でデカいリュックを背負ったまま呆然と突っ立ていると、今度は慣れない関西弁が再び耳を叩く。
「えーでもウチらのオトンはボディガードになるからちょうどいいやんって喜んでたで。それにあや姉だって昔はこの四人でよく遊んでたやん」
なあまさ兄! と今度はいきなりキラーパスのように俺に同意を求めてきたのは、人懐っこいくるりとした大きな瞳と、少し日焼けした小麦色の肌が印象的な女の子。
ショートカットの髪はそんな彼女の快活さをよく表していて、歳は俺よりも一つ若く、未だ中学生という蕾の時期を過ごしているこの少女の名は、
ちなみにコイツの存在も物心ついた時から知っているのだが、当時の記憶と違う点があるとすれば、口調が標準語からいつの間にか大阪弁になっていることと、ぺったんこだったはずの胸元が知らぬ間に立派なことになっていることだろう……以上。
などとどうでもいいことを考えつつ、ここで深呼吸を一つ。
とりあえず状況を整理しよう。
いや、整理できる余裕も思考もないが、現状だけまとめよう。
ここは新しい家となるマンション、場所は大阪。
目の前にいるのは幼馴染の姉妹たち。
そんな彼女たちとこれからこの家で始まるのは、『シェアハウス』。
叫びたい……この意味不明な状況に心の底から、「なんでやねんッ!」と。
現状を羅列するだけでもカオス極まりないことは確かなのだが、俺にとって最大最凶にして、最悪の問題点はそこではない。
そう、なぜなら……
恐怖と共にゴクリと唾を飲み込むと、俺はゆっくりと視線を目の前の二人から右へ右へとスライドさせていく。
すると自分の視線が目標に辿り着くよりも早く、心晴の声が先に相手へと届いた。
「このメンバーで住んだらぜったいオモロいって! まり姉もそう思うやんな⁉」
「…………」
瀕死にも近い俺の心境など一切知らない陽気な声がリビングに響く。
そしてその言葉を受け取った相手はしばし無言を貫いた後、ぼそりと言う。
「私は……別に……」
囁くように、静かに呟かれた言葉。
けれどもその瞬間だけはまるで時間が止まってしまったかのように感じてしまうほどの、美しい声。
否、美しいのは声だけじゃない。
まるで雪を欺くような白い肌に、シルクにも似た艶やかな黒髪。
他の二人と同じく大きな瞳には心を吸い寄せる輝きが詰まっていて、一寸の狂いもない均整の取れた顔立ちとプロポーションはまさに神が与えた黄金比。
そのすべてがあまりにも整い過ぎていて、美しすぎて、俺は呼吸することさえ一瞬忘れてしまう。
神嶋家三姉妹の長女にして、清楚な美しさと尊さを極めたかのような二つ歳上の美少女。
そしてそんな聖母マリアのような彼女は、俺にとって人生初となる――
『元カノ』である。
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