日本人気

@nichiyouringo

第1話

兎に角、緊張しすぎておかしくなりそうだ。


勇気を出したはずが、空港の税関あたりから、後悔の方が強くしゃしゃってきて、英語の単語一つでさえ、アヤシイ。

サイトシーンとか、なんか、喋らないといけないのだけど、どうにも緊張の具合がどぎつすぎて、声さえかすれる。

信じられないくらいの無様な一人旅は、こうしてスタートをきった。


黒い直毛の髪の毛に、濃く黒い瞳に添う切れ長の吊り上がる目、中肉中背でなで肩、日焼けした黄色肌の日本人が、私の容姿だ。

混血児が多い学校では、中国人に間違われることはあっても、ヨーロッパ大陸の人種に見られることはない。


日本で生活をすると、日本語で話しかけられる。

急ぐと、おかしなバランジング会話になるのだが、わたし、かんだ程度に勘違いされる。


サラリと出ない日本語の言葉に苛立ちながら暮らすうちに、自虐的な自分が生まれてくる。

「自分が、ナニモノなのか。わからなくなるよ。」


日本語は勉強した言語、英語も習った会話、母国語は家の外では、もう、ほとんど使うことが無くなった。

仕事や生活のために、母国を捨てて日本国を選んだ家族の為にも、このままじゃいけない。

二十歳を過ぎたら、日本企業で就労することを考えても、今しか、異国語を受け入れる準備期間はない、と息巻いて荒療治に出るわけだ。


南国の、カラフルな太陽熱が、やたらときつい観光地は、日本人に人気のあるリゾートアイランドだった。

治安が良く、飛行機の運航便がやたら多く、ポピュラーな外国旅行地として、親族が勧めてくれた島だった。

母国と真逆な土地柄に、場違いが過ぎて、陰気にしかなれない己を、ちょっとだけ悲しんだ。


「みやこちゃん。みやこちゃんでしょう。」

記憶にまったくないご婦人が、どかどかと足音をたてて、私に向かってきた。

「みやこちゃん、会いたかったのよ。大きくなったわね。」

体を抱え込むように抱きしめられると、声を上げて名前を連呼したまま、盛大に泣かれることになった。


人生の内、ひと月ほど、一緒に暮らしたことのある、叔母である、女性だった。







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