事故物件ありますか!? ~ブラック企業をリタイアして専門学生に戻った私が、貧乏事故物件動画配信者として成功した理由~
書峰颯@『幼馴染』12月25日3巻発売!
第1話 事故物件ありますか!?
本日から投稿したします、宜しくお願いいたします。
本日は20時にも投稿いたしますので、二話目もお楽しみいただければ幸いです。
☆――――――☆
とあるゲーム動画配信者が、自身の動画年収についてを暴露していた。それによると登録者数八万五千人、毎日十分程度の動画を投稿し、五秒CM二本付けて再生回数が一万程度。
『みんな僕のこと金持ち言ってますけど、これで大体サラリーマンの平均年収位しか稼いでませんから! どこの誰が勘違いしたのか知りませんけどねぇ! 夢見ちゃダメよこんなんで!』
顔出しもしていない、声だけのゲーム実況でサラリーマンの平均年収が稼げる。これは高卒と同時に就職するも、退職理由に『人間関係』と書いて退職し、二年間で貯めた貯金を使って理容の専門学校に通う
「え、ちょっと待って、サラリーマンの平均年収って四百万円でしょ!?」
第二新卒として就職活動をする選択肢もあったのだが、実家が床屋な良心の両親は『手に職があった方がええ、それに理容を目指す女の子は少ない、大輪の薔薇よりも野原に咲く一輪の花の方が価値があるでぇ』と良心を諭し、娘を自分達と同じ理容の道へと引きずり込んだのだ。
専門学校に通っている間は食費の面倒もみる、というのも良心が決心した条件の一つでもあったのだが、蓋を開けてみたらまさかの現物支給。毎月送られてくるレトルトに舌鼓しつつも、目減りしていく貯金額を見ると意気消沈していく良心。
専門学校に掛かる費用も馬鹿にならない、入学金は両親が払ってくれたが、理容で使う道具は全て自腹で支払わないといけなかった。ハサミやコーム、ゴムや剃刀、入学時に貰えた道具をいつまでも使う訳にはいかず。
皆が新品に買い替えているのを羨望の眼差しで指を咥えて見ている良心だったのだが、休日に横になりながら適当に見ていた動画配信者の実情を知り、ベッドから飛び起きたという訳だ。
「使ってる機材もスマホだけでいけるみたいだし……ちょっと、やってみようかな!」
動画配信者の間口は広い、老若男女、老いも若きも誰でもウェルカムな世界だ。各分野にはそれぞれスペシャリストが存在し、各々個性を発揮しながら再生回数に評価という、目に見える数字を積み重ねながらそれを金に換えていく世界。
よし、ちょっとやってみよう! なんて甘い考えで挑む者も受け入れるのが、動画配信者の世界だ。そして思い知るのだ、この世界が甘くないという現実に。
『……えっと、動画配信、始めます。宜しくお願いします。って、私誰に対してお願いしてるんだろうね、たはは……それじゃあ、私が普段から遊んでいるスマホアプリをやっていきたいと思います。今のランクは――』
思い付きから始めて機材も何もないままに、ゲーム画面と音声のみの十分動画。とりあえずで投稿するも再生回数が伸びるはずもなく、ついたコメントは「声が可愛いね」のみ。
けれども登録者数は『三』となり、それを見た良心は「あれ? 結構ちょろいんじゃ?」と、一人薄い唇に手をあてて、どこかのお代官様の様にほくそ笑むのだが。
次に撮影したのはファッション系、けれども、それは投稿する前に良心自らが削除した。
「む、ムリムリムリ、こんなブランドものでも露出もしてないのなんて需要ないでしょ。あっぶなかった~、世間様にとんでもない物をお見せしちゃうところだったよ」
その後も詩の朗読や集めていたペナントを紹介したりと、目的もなく撮影しては投稿を繰り返していたのだが、結果は付いてこず。登録者数は相変わらずの三人のまま、再生回数も二桁行けば良い方という状態だった。
「ぜっっっっっんぜん再生回数伸びない! 収益化とか無理じゃんもー!」
「あはは、その世界はよっぽどの天才かよっぽどの馬鹿じゃないと、生きていけないっすよ」
専門学校の教室でスマホを見ながら愚痴をぶーたれている良心を見て、隣の席に座る
「天才でも馬鹿でもないからなぁ、せめて人気配信者みたいにエロい身体でもしてれば良かったんだけど、どうにもこうにも」
「なに言ってるんすか、良心さんは十分にエロい身体してますから。爆乳……とまではいかないですけど、巨乳ではありますよ?」
「えぇ? そうかなぁ……いやいや、他の配信者様と比べたら私なんかとほほだよ」
両手でぐっと寄せると、良心の着る理容専用の薄茶色の制服はそれなりに小高い山が出来てはいる。それを羨ましそうに眺める瑠香は「ちっ」と眉間にシワを寄せて良心に聞こえない様に舌打ちした。
「普通にバイトすればいいんじゃないんですか? 何も動画配信者にこだわらなくても」
瑠香の言葉を受けて、机に突っ伏したまま良心は首を横に振った。
「バイトはね、稼げても月数万なんだよね。時間も四時間とか取られちゃうしさ、夏の店舗実習の時とかには一度退職しないといけないじゃん? それに私、あまり人付き合い良くない方だからさ、前の会社の人達との連絡とか一切取ってないし。出来たら自己完結する仕事の方が良いんだ」
どの職業よりも人目に触れなくもないが、良心から見て動画配信者はそういう職業に見えているらしい。そもそもそんな人間がサービス業である理容を目指すのもどうかと思うが。
「ふむ……難しいっすね。とりあえず先人の知恵を授かるのがいいと思うんすよね。ほら、この元巨大掲示板の管理者さんが語ってる動画とか、参考にしたらどうです?」
特に返事はしないままに、良心はつっぷしたまま瑠香の差し出してきた動画へと目をみやる。適当に流れるショート動画の数々を見ている中で、一つだけ良心の大きな胸に響く動画があったようだ。
『事故物件ってお得ですよね、まず家賃が安い、それに適当に動画撮影して何かが映ったら儲けものですよね。結構伸びるんですよ、心霊系って。目に見えない同居人とか気にしない人なら、事故物件って本当にお得だと思います』
「こ、これだーーッ!」
瑠香のスマートフォンを奪い取る様にして、良心は教室である事も忘れて叫んだ。
「え、良心さん、まさか」
「瑠香ちゃん! 私いま住んでる所の家賃くっそ高いって思ってたんだよね! 毎月七万五千円も掛かるの! 駅から近くて便利だけど、事故物件に住むんならその費用も抑えられるし、この配信者の言う通り! お化けが撮影出来たら私有名配信者になれるよね!?」
腰まで届く長い黒髪を揺らしながら、良心は目を輝かせながら叫んだ。
「私! 事故物件に引っ越す! 家賃も下がるし収益化も夢じゃない! win-winだよ!」
誰と誰がwin-winなのかは不明だが、良心はその日の学校が終わると、瑠香が何十回も「やめよう」と引き留めたにも関わらず、その足で不動産へと向かい、そしてこう言ったのだ。
「事故物件ありますか!?」
――
次話「あ、これ、マジですね。」
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