第14話

 大学の授業が始まって二週間。ようやく今の生活に慣れ始めてきた今日このごろ。


 「おはよ〜」


 「おう」


 今日も沙耶香と合流して、一緒に大学へと向かっていた。

 

 「サークルとか決めた?」


 「一応は」


 と、言いつつ実は何も決めてないのだが。


 「沙耶香は?」


 「私はまだかなぁ……運動系でもいいけど、高校の時あんま動いてなかったし……」


 沙耶香が運動……なんか見てみたい。


 「運動か。いいんじゃないか?」


 「そういう新谷くんはどうなのよ。何に入るの?」


 「………」


 俺はそう聞かれて思わず顔を背けてしまった。


 「あっ!?まさか、まだ決めてないんでしょ!嘘ついたなぁ!」


 「………すんません」


 「素直でよろしい。罰として、明日サークル選びに付き合ってね?」


 「い、いや………………はい」


 圧が、笑顔の圧が……強すぎる。

 俺は従うしかなかった。 

 まぁでも俺も何のサークルに入ろうか悩んでいたからその誘いは丁度良かった。


 「色々見ようね?」


 「おう」


 こうして今日の放課後の予定は決まったのだった。

 でも俺今日の講義って1限と2限しかないけど、対して沙耶香は1限から4限までびっしりだったような……俺、果たして待てるのだろうか?


 「あっ……」


 どうやらそのことに沙耶香も気がついたようだ。そして申し訳なさそうにこちらを見てくる。


 「……適当に時間潰してるさ」


 「……本当にごめんね?」


 「気にすんなよ。俺は大丈夫だから」


 ……時間、何して潰そうかしら。あ、そうだ。


 「待ってる間、研究室でも見てこよっかな」


 俺が所属している学部は理工学で、学科は物理科だ。つまり、研究室がある。俺らが通っているこの大学には確か、自由に研究室を見学できるというものがあった気がする。それも、新入生限定で。

 各々決めた研究室に入るのは四年生で卒業論文を書く際だが、先を見通すのは大事という観点の下、気になった研究室はそこの教授の許可が降りた時に限り自由に見学可能になるという感じの説明を前に受けた。だから問題ない……と思いたい。

 ちなみに沙耶香は文学部の史学科だ。なので、俺とは完全に真逆となる。一緒に授業を受けたかったがしょうがない。

 ……というか、普通理系である俺の方が忙しくなるはずなのに。おかしいな。


 「いいの?」


 「多分。教授とかに聞いてみるさ」


 俺が見たい研究室はいくつかある。そのうちの2つの研究室の教授は授業でお世話になっている人で、互いに見知っているから問題ないはず。最悪その2つの研究室で時間を潰せばいい。

 しかし、これはチャンスでもある。時間を潰しつつ、今後自分が何をしたいのか、どの道に進むべきなのか。そう言ったことを見つめ直せる機会になりえる。

 時間潰しだからといって手を抜いていいわけではない。それは先生たちに失礼極まりない行為だ。とにかく、できるだけ、一つでも自分のために吸収する。

 

 「それじゃあ、私、あっちだから」


 「おう、そんじゃまた昼にな」


 「うんっ!」


 俺たちが通っているキャンパスには文系と理系で建物が異なる。沙耶香が行っている文系は西棟に固まっており、俺が行っている理系は東棟に固まっている。そして北棟にはゼミが、南棟には研究室が入っている。

 

 俺たちは正反対の方向へと向かった。

 さて、今日も頑張ろう。


 

 

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