アイディア出し10分で書く三題噺

旦開野

12月8日 『不思議な写真屋』

 お題: 野菜 写真屋 男の子




とある住宅街。どこかに向かって元気に歩く男の子の姿がありました。名前は山下しんごくん。小学校に上がったばかりの1年生です。しんごくんは今日、お母さんに頼まれて初めてのおつかいに向かう最中。夕飯の材料を切らしてしまったので買いに行って欲しいとのことでした。すっかりお兄さん気分のしんごくんはズンズンズンズン歩いていきます。

 そんなしんごくんの歩みが突然止まりました。さっきとは様子が違いあたりをキョロキョロと見渡しています。

「あれれ……」

 どうやらしんごくん、道に迷ってしまったようです。お母さんからは道に迷ったらすぐに警察の人や、お店の人に道を聞くんだよ、そう言われています。しんごくんはどうやらお店を探しているようです。

「あ、ここなら大丈夫かも」

 しんごくんの視線の先には「土田写真館」という看板がかかっていました。どうやら写真屋さんのようです。少し薄暗くて年季の入ったとても古い建物です。しんごくんはまじまじと建物の様子を見て少し不気味だなと思いましたが、他にお店は見当たりません。どうすることもできないので、勇気を振り絞って写真館に入ってみることにしました。

 リンリンリン。扉にかかっていたベルがなります。

「あの……すみません……」

 しんごくんの振り絞った声はガタガタ揺れています。お店の中からは返事はありません。しんごくんはもう一度声を出します。

「すみません!誰かいませんか? 」

 さっきよりも大きな声で叫びます。すると、暗くなっていた奥の方の電気がパチっとつきました。

「おやおや、お客さんかね」

 そう言って出てきたのは腰の曲がったおじいさんでした。

「うーん、お客さんにしては随分と小さいね」

 おじいさんはかけていたメガネをクイっと直して、しんごくんの方をまじまじと見ました。

「え、えーと。僕はお客さんじゃないんだけど……」

 しんごくんは道に迷ったことを言おうとしますが、

「じゃあ早速撮影しようか」

 おじいさんは早速カメラの準備を始めてしまいました。その姿にしんごくんはどうしたらいいかわかりませんでした。しんごくんは準備を始めるおじいさんに何度も話しかけますが、あーだこーだ言ってあしらわれてしまいます。いつの間にかおじいさんはカメラの準備を済ませ、しんごくんをカメラの前に立たせました。

「はーい笑って笑って」

 その優しい声に釣られて、しんごくんは思わずピースします。

「あ、そうだ」

 ふと何かを思い出したかのようにおじいさんがいいます。

「このカメラは、不思議なカメラでね。その人の考えていることも写し出してしまうんだよ」

「え? 」

 しんごくんがおじいさんの言葉にびっくりしている間に、おじいさんはカメラのシャッターを切りました。

ジジジジジ……

 カメラから今撮ったばかりの写真が2枚出てきました。おじいさんはその2枚を手に取り、目を細めながら眺めます。

「ほうほう……そうかそうか。君はおつかいの途中で迷子になっちゃったんだね。引き留めたりして悪かったよ。スーパーならこの店を出て右に行って、突き当たりを左に行けばあるよ」

 あれだけ説明を聞かなかったおじいさんが写真を見た途端に、しんごくんの言いたいことを言い当ててしまいました。しんごくんは呆然としています。

「お詫びと言ってはなんだがこの写真は君にあげよう。一枚は君の姿が、そしてもう一枚には君の魂の姿が映っているよ」

 そう言っておじいさんは手に持っていた写真をしんごくんにくれました。

「あ、ありがとうございます」

 しんごくんは混乱しながらも写真屋のおじいさんにお礼を言います。

「あ、そうそう」

 おじいさんは思い出したかのようにしんごくんに話しかけました。

「写真に写っているもの、しっかり食べるんだよ」

 そう言っておじいさんは店の中に引っ込んでしまいました。

 しんごくんの手元に残った写真にはしんごくんが驚いている姿と、大きなピーマンの姿が写っていました。

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