幼児期編 5話
「あそこに薬局があってな、ヒロポン売っとったわ」
「あそこは闇市の跡やな」
「シンガポール陥落ーとかいって授業休みになった日もあったな」
そんな会話が日常だった。そりゃズレるわ。
我が家に来る大人の中で最も穏やかな方は母方の祖父だった。畑仕事を手伝ったり一緒にそら豆をむいたり、 色々なことを教えてくれた中学に上がる前に癌で亡くなってしまった。
我が家に最も多く訪ねてきたのは鬼のような叔母だった。
週に一度は我が家に来て悪口を一方的にまくし立てる。
会社でこんなことが起こった。あいつは常識がない。親戚の誰誰が気に入らん。ずっとずっと延々延々 。
鬼おばが帰る頃には母はぐったりとしていた。
誰だって興味のない奴の悪口を一方的に4時間も聞かされたら疲れるに決まっている。寝込むことすらあった。
幼い頃の俺は「おばさんもう聞きたくない止めて」と泣きついたこともあった。「大人になったらわかるわ」俺はおじさんになったが一切わからない。
子供の前で延々と罵倒表現を聞かせるのは今なら虐待にあたるだろう。
「私は絶対悪くない!!」系の謝ったら死ぬ病気の鬼叔母だった。
俺が高校生になるころには2か月に一回程度に頻度は少なくなっていたが、それでも迷惑な話だ。
母方の祖母は激しい人だった。
嫁いびりをして何人も泣かせている。鬼叔母が来てからは 大人しくなったという。
「より強い鬼」が来たからだ。
一応擁護しておくがこの叔母は、車を持っていなかった我が家に何度もドライブを誘ってくれるようなところもあった。鬼叔父は何もしてくれていない。
俺は激しく我の強い大人たち、 遠慮のない子供たちに囲まれて育った。
多く語れば「生意気」と言われ、言葉少なければ「無知」と侮られる。
当時の俺には過ごしにくい場所だった。
当時、変質者もいた。「もっさん」と子供達の間でも噂になるような人だった。人の家の庭先まで行ってなぜかションベンをしている。子供達も警戒していた。面白がっている子達もいた。
ある日、幼い頃の俺はもっさんに声をかけられた。「ねぇ君一緒に立ちションしてくれたら500円あげるよ」意味が分かんなかった。
明らかに異常な性犯罪者だ。今なら知識があるからわかるが、当時は頭のおかしい人だなーとしか思わなかった。何も聞かなかったふりをして、そのまま立ち去ることにした。吠えてくる犬と同じで刺激を与えずにそのまま去る方が良いと考えた。ねえねえと聞こえてくる、そのまま去る。いつでも走れるようにして。
このもっさんもいつのまにかいなくなった。噂では頭の具合が悪化して精神病院に入ったということだ。本当かどうかは分からない。
あまり良い環境で育ったとは言えなかった。 いや俺が運が悪いだけなのか?
わからない。
自販機でナタデココ入り炭酸ブドウジュースを買ったらホットででてきたこともある。うーん、わからない。
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