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コトっ……。ワイングラスの底をコースターの上に綺麗に重なる様に置いたリリが、眉を少し上げ、意味ありげにクリスの瞳を見つめた。
魔女
「………それで、どうしたの?OKした?」
ミイラ男
「する訳ないだろ!俺はゲイじゃない!」
「まさか!」その言葉を強調するようにクリスが手の平でテーブルの上をダンっと叩いた。そんな彼の必死な主張をさらりと受け流し、魔女のリリは絡まった自分のまつ毛を指で梳かしながら言った。
魔女
「私達みたいな怪物は長過ぎるっつー位長生きするんだから、同性だけじゃ飽きちゃうじゃない。ちなみに私はルックスが良ければどっちでもOK。」
ミイラ男
「……魔女っぽいセリフだね。」
ドラキュラ
「俺も一緒に、いい?」
ガタっ……。隣の席から勝手に椅子を一脚掴み、クリスの隣に並んで座った。急な声掛けに若干戸惑ったはものの、ジョシュアが窮屈にならないように自分の椅子を少し横にずらしてスペースを開けてあげた。クリスと並んで座るジョシュアに、面食いなリリがすかさず詰め寄る。
魔女
「あーら、いい男じゃないクリス!どこに隠してたの?お名前は?」
ミイラ男
「ジョシュだよ。」
ドラキュラ
「どうも、ジョシュアだよ、初めまして魔女さん。」
そう言ってニッコリ微笑み、魔女に手を差し出した。
ミイラ男
「俺らもこの前知り合ったばっかだよ、ね?」
少しだけ首をかしげ、目を合わせてそう言ったクリスがどうしようもなく可愛く思え、不意打ちをつかれたジョシュアは咄嗟に目を反らした。
ドラキュラ
「あ、うん、そうそう。」
魔女
「彼女はいるの??」
ドラキュラ
「いないよ。」
ミイラ男
「え!いないの?お前絶対モテてるっしょ!背高いし、イケメンだし!」
意外にもクリスから見て自分は好印象らしい。それを聞いたジョシュアは、この想いもそこまで脈が無い訳でもないのでは……?と考えを改め始める。
魔女
「何なら私と付き合ってみる?退屈はさせないわよ~!」
ドラキュラ
「恋人はしばらくいいかな。」
肩をすくめてそう言うと、隣を通り過ぎようとしたウェイターにドリンクを注文をする。
魔女
「な~に?大失恋でもしたの?」
ドラキュラ
「……まぁね。」
ミイラ男
「俺も彼女欲し~い!」
そう嘆きながらテーブルに顔を伏せるクリスの耳元で、ジョシュアがそっと囁いた……。
ドラキュラ
「……じゃあ、俺と付き合ってみる?」
ミイラ男
「……………!!!」
その声は魔女には聞こえてなかったらしく、相変わらず他の席のイケメンを探している。片方だけほんの少し開いた包帯の隙間から見えるクリスの目が驚いてまん丸に開いている。魔女には聞こえない声量で、それでも驚きは隠せぬままクリスは言った。
ミイラ男
「お前、何言ってんの……?!」
ドラキュラ
「いいじゃん、お互いに初めての経験ってことで。」
へへっと軽い口調でとんでもない事を言うジョシュアの肩を、包帯に巻かれた手でゴスっと殴った。
ミイラ男
「馬鹿じゃねぇのお前、全然面白くねぇよ!」
ドラキュラ
「別に、冗談で言ってるわけじゃないけどね。」
運ばれてきた赤ワインのグラスを口に当て、上に傾けながらクリスを見下ろすその顔がとてつもなく色っぽく見える。「馬鹿らしい」と言いながらパっと目を反らしたクリスは、ほんの一瞬でもドキっとしてしまった自分への恥じをビールと共に流し込んだ。
魔女
「まだ夕暮れ前だからあんまり人が居ないわね~……あれ?噂をすれば、あれってポールじゃない?」
ミイラ男
「………!!」
その名前を聞いた瞬間、クリスの体がビクっと反応した。。……どうする?逃げる?どこに?隠れる場所は?
慌てて逃げ場所を探し始めるクリス。もうすぐそこまで来てしまっている……そして彼はジョシュアを見つめ、慌てた口調で言った。
ミイラ男
「やばい!……俺ちょっと隠れるわ!!」
ドラキュラ
「………?」
そう言ってサッとジョシュアの後ろに隠れるクリス。何事かと不思議そうにそんな彼をジョシュアが見つめる。
ドラキュラ
「誰?」
魔女
「さっきクリスのことを口説いたミイラ男。一緒に歩いてたらいきなりキスされたんだってさ。攻めるわよね~!ミイラって見かけによらず結構Sっ気があるのかしら?」
ドラキュラ
「付き合ってみれば?」
魔女
「Sは別に嫌いじゃないけど……ミイラっつのがちょっとねぇ……引くのよねぇ~……」
ドラキュラ
「こいつだってミイラじゃん。」
ジョシュアがそう言って自分の背後に隠れているクリスを親指で指差した。
魔女
「クリスはほら、あんまりミイラっぽくないじゃない?一緒に居て、つい忘れちゃうくらい人間っぽいでしょ。」
そう返事をするリリも同じく、ジョシュアの後ろで息を潜めているクリスを指差した。
ミイラ男
「……俺一応隠れてるんだけど、もうちょっと協力してくれる?(怒)」
魔女の話し声を聞いて、ポールがこちらに向かって来る。そしてジョシュアの後ろにしゃがんで隠れているクリスを見付けると、名前を呼んだ。
ポール
「クリス、ちょっといい?」
クリス
「………あぁ~……うん。」
観念したクリスが立ち上がり、テーブルの向かいに立つポールの元へと歩こうとした時、ジョシュアがその手を掴んだ。
クリス
「………?」
ドラキュラ
「こいつに何の用?」
ポール
「お前確か……ジョシュアって言ったっけ?ターナー家の息子だろ?」
ドラキュラ
「だったら?」
ポール
「パパの後を継ぐのが嫌で家出てきたんだろ?寝てばっかりの寝坊助ヴァンパイアさんよ(笑)」
ポールがそう言ってハハっと笑うと、連れの連中も一緒になって笑った。そんなポールを睨みつける魔女の背後から、クリスがポールを殴り飛ばした。
ドラキュラ
「…………!!」
ポール
「いってぇな……何の真似だクリス?」
クリス
「ダチのことを悪く言われて腹が立っただけだよ。ってかその冗談、ミイラのお前らが言うとか笑うわ。寝てばっかりなのはどっちだよ。」
魔女
「あはは!確かに(笑)」
チっ…と舌打ちをしてクリスの顎を掴み、唇が付きそうなほど顔を近付けて言った。
ポール
「………夜道には気をつけな。」
それだけ言うと、ポールと仲間の連中は無表情のままバーを去って行った。
ドラキュラ
「……しばらくの間はヴァンパイアの用心棒が必要みたいだね、クリス君。」
スラーっと長い足を組み、片ひじをテーブルについて偉そうにそう言った。
ミイラ男
「……要らねぇよ、そんなの。」
女扱いされて腹が立ったクリスは、ムスっとした表情でジョシュアに背を向けて座った。
魔女
「ポールってさ、お偉いさんのとこの一人息子なんでしょ?」
ミイラ男
「……だから何?」
魔女
「なのにゲイじゃ、跡取りはどうするのかしらね?」
ミイラ男
「どうだっていいよ、そんな事!」
ドラキュラ
「玉の輿を狙ってみれば?」
ワイングラスを揺らしながら横目でクリスを見つめ、嫌味ったらしくそう言った。
ミイラ男
「……もうお前、嫌い!(怒)」
ゴクゴクとビールを飲み干し、ガタン!っとジョッキをテーブルに置くと、クリスは席を立ちバーを出て行った。
魔女
「あ~あ、拗ねちゃった……ちょっと、あんた責任取りなさいよ。」
ドラキュラ
「あんなに怒んなくったっていいのに」
ミイラ男
「結構ショックだったみたいよ?俺はポールに女みたいに見られたんだ。って……あの子ああ見えて結構プライド高いっていうか、男らしく生きたいみたいでね。」
ドラキュラ
「へぇ~……。」
魔女
「……でもさぁ、たまにめっっちゃ可愛い事言ったり、そういう仕草をしたりするのよね~!女の私でもたまに襲いたくなっちゃうもん……ポールの気持ちも分からなくもないわ。」
ドラキュラ
「俺、ちょっと話してみるわ。」
魔女
「あんまり怒らすような事言うとあんたも殴られるわよ~。」
ドラキュラ
「はいはい。」
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