第22話 決勝戦-延長戦③-



光は今日最後になるであろう打席に向かっていった。


表立って感情は出さないが、なにかの間違いでも勝負してくれないかと思っていた。



敬遠されると分かっていても、失投が来る可能性もあるので気を抜かないようにしていた。



ここまで徹底的に敬遠されると、打席の中でも余計なことを考えたり集中力も落ちる。




ゆっくりと打席に入る。



軸となる左足で強めに5度踏み込んで足場を固める。



愛用の黒いバットでホームベースを2回コンコンと叩き、1回バットをゆっくりとくるりと回して構える。



だが、キャッチャーは立ち上がって完全に敬遠の体勢に入っていた。



そして、一球目完全に外してボール。



昨日の試合から合わせると9打席連続敬遠。



2試合で1度もバットを振ることなく、ただ打席に立っているだけだった。




カランッ



光の視界に普段グランドには無いものが転がっていた。


ジュースの空き缶が投げ込まれていた。



それを皮切りに、勝負しろという怒号と共にグランドに物が次々と投げこまれていた。




「タ、タイム!!」



慌てて審判がタイムをかけたが、その怒号も止まることもなく物を投げ入れてくる人も減る様子もなかった。




「!!!」



弟の龍は光のことを必死に応援するあまり、光の立つ左打席に近いところまで走っていた。



グランドの光は4打席目よりも酷い光景に、自分が責められている訳じゃないと分かっていながらも呆然としていた。




「やめろー!いじめるなー!」



龍は姉がいじめられてると思い、フェンスにしがみつきながら、おねぇちゃんのことをいじめるなと大声で叫び続けていた。



野次馬の観客たちが後ろから押し寄せてきたので、龍はあっさりと押しつぶされそうになり、その場に転んでしまった。




唖然として周りの様子を見ていた光だったが、たまたま龍が転んだのを見てしまった。



道具を大切にしている光だったがバットを放り投げ、龍がいたはずの観客席にかなり慌てて駆け寄ってきた。



「私の弟に何するの!!!子供を転ばしてまでなにをそんなに熱くなってんの!?馬鹿じゃないの!」




光よりも全然年上の大人に対して本気で怒っていた。


声を荒らげ、敬語を完全に忘れていた。




「私がいつ敬遠されたくないとか言った?試合をしてるのは私達なのに勝手にキレて、ゴミまでグランドに投げ込むなんて、野球を汚してバカにしてるのはあんた達だ!」



光は少し年の離れた弟の事をいつも大切にしていた。



その弟が揉みくちゃにされ、それをたまたま見つけた光が試合とか関係なく助けてくれた。



急に大声で観客に怒り出したのを見て、それに気づいた人達が少しずつ大人しくなっていった。





「弟を…。転んでる弟を早く助けて……。」




転んでから起き上がってこない龍の事を心配して、涙が零れるのを我慢しながら、フェンスに張り付くように龍のことを探していた。



「おねーちゃん!大丈夫??」



龍のことを助けに来た父親に起こされて、目の前で動揺していた光に龍が声をかけた。



「りゅー。大丈夫そうでよかった。」




「おねぇちゃん、がんばって!約束通り最後まで応援してる!がんばって!」



光はその言葉を聞くと、目に溜め込んだ涙を誰にも見せないように拭い、笑顔で弟の方に振り返った。




「おねぇちゃん、頑張ってくるね!」



あんなに騒がしかった球場も、いつの間にか光の周りから広がるように静かになっていった。



投げ入れられたゴミをベンチの1年生を呼んで、ゴミを率先して片付け始めた。



それを必死に大会運営の大人達が止めていた。


大人から止めても気にせず、自分たちのベンチ前だけでも片付けをしていた。



プレーが開始されると城西ナインと光に対して、観客達は甲子園中に鳴り響く、賞賛の拍手が送られていた。



だが、花蓮女学院は最後の最後まで徹底して光との勝負を避けた。



藤沢さんは帽子をとり、光がファーストベースに着くまで深々と頭を下げていた。




『藤沢さんいい人だろうけど、絶対に変人だと思うんだよね。』




あの場面でバント失敗して悪びれる様子もなかったし、彼女が悪い訳でもないのに今も頭を下げ続けているのを見ると、中々憎めない奴なのではと思うのであった。





「2番キャッチャー天見香織さん。」




天見さんはさっき出来事で真っ先に光に近づいて心配するものだと思っていた。



しかし、心配するような様子だけで、ネクストバッターズサークルでじっと相手の投手を見ていた。



光が敬遠されることはわかっていた。


ここまでどうにかポテンヒットを1本打ったが、さっきの打席はダブルプレー。


この打席もヒット1本打てれば、東奈光という投手は必ず抑えてくれるという確信があった。




「ファール!!」



ノーボールツーストライクに追い込まれた。



そこから5球ファールを打ち、ツーボールツーストライクまで粘っていた。




「ぼ、ボール!!」



かなり際どいアウトコースのストレートを見逃して、スリーボールツーストライクまでどうにか食らいついていた。



天見さんは基本的には冷静で周りの様子をよく観察しているが、この打席だけは違った。



サインを出す監督の方を一切見ることも無く、自分の打席に集中している。



どのみちこの場面で打つ以外の選択肢が無いから、問題ないといえば問題なかった。




粘りに粘り、フルカウントになっての11球目。





カキィィーン!!




外に逃げていくスライダーを上手く流し打ちした。



右中間方向に鋭い当たりが飛んでいく。



今日の花蓮のスタメンは特に俊足と堅守の選手が守っている。


センターライト共に一切迷いなく、一直線で打球へ走っている。





「抜けろぉぉおおおお!!!」



打った天見さんは大声を上げて祈るように一塁へ走っていた。



打たれた藤沢さんも打球の行方をじっと見つめていた。



一塁ランナーの光でさえ、本当はホームを狙って走らないといけないのに、打球の行方をゆっくりと走りながら眺めていた。




ライトが打球を捕るために頭から飛び込んで、必死にグローブをつけた左手を伸ばす。




「うおおおおぉーーー!!!」




観客席から大歓声が上がる。

あまりの大きな声に審判のコールが聞こえない。




「……。」







「アウトオオオ!!!」




ライトの超ファインプレーで、この回もスコアボードに0の文字が刻まれた。




バタッ




「香織!!!」




天見さんは一塁ベースを蹴ってすぐの所で、膝を地面について倒れていた。




「香織!大丈夫!?」



「だ、だいじょうぶです…。ちょっ、とショックで…クラっと来てしまって…。」



外に逃げるスライダーをほぼ完璧に右打ちした。


間違いなく3点タイムリーと思われた打球が、超ファインプレーに阻まれた。



ショックは思ったよりも大きく、思わず天見さんの膝を折らせた。




光が手を貸して、どうにか立ち上がった天見さんだったが、流石に精神的ショックも大きいようだ。



「香織、大丈夫。まだ試合は終わってないし、負けてる訳じゃないから心が折れるのは流石に早くない?」



光は完全に慰めるわけでなく、少し煽るような言い方をした。



「ふふふ…。誰も心を折ってませんよ? 最後まで光さんのボールを受けれるのは私しかいませんしね。」



微かに残る心の奥の希望を絞り出して、笑顔で光に応えた。




精神的にも肉体的にも限界を迎えつつも、11回裏の守備につく城西ナイン。



延長戦は最大でも12回までで、勝っても負けてもこの回と次の回で試合は終わる。


もし引き分けだった場合は、明日再試合となる。



花蓮は2番から始まる好打順。


2.3番もバントをしようと試みたが、一球目ファールになるとバントを諦めてヒッティングに切り替えてきた。



それでも結局手も足も出ずに連続三振となった。




「4番サード樫本恭子さん。」





「この実況席でも一切触れていませんが、東奈さんは11回まで完全試合中ですよね?」




「そう…ですね。こういうのは口に出すと急に打たれ始めたりするので言わないようにしてたのですが…。」



あまりその話題に触れないようにしていたが、振られてしまうと話さざるを得なくなっていた。




「ヒット自体も昨日の準決勝の3回から9回まで1本も打たれてないですね。昨日から合わせると18回ノーヒットです。普通の男子野球の試合でも2試合ノーヒットノーランを達成してますね。」




「完璧な投球を披露していますが、樫本さんも4打席目です。この勝負どうなると思いますか?」



「そうですね。私個人の見解としましては東奈さんが有利だと思いますね。今の東奈さんを見ているといくら樫本さんでもそう簡単に打てるとは思えません。」




解説の意見とは裏腹に、この打席の樫本さんはかなりしぶとかった。



インコース、アウトコースギリギリを攻めいるが、際どいボール球はきっちりと見逃してきた。



打ってもヒットにならなそうなストライクゾーンギリギリの球には、必死に食らいついてファールにしてきた。



フルカウントのまま3球ファールにされ、次が9球目になった。



光はさっきの天見さんの打席を思い出していた。



ちょうどこのような場面で、アウトコース低めのスライダーを右中間に持って行っていた。


サインはアウトコース低めのナックルカーブ。



光は一瞬迷った。



スライダーとナックルカーブは落ちるという点では同じだが、全く違う変化球だ。



そもそも右投げの藤沢さんと左投げの光じゃ全然違うのだが、この球を投げるのは嫌な予感がした。




「タイムお願いします!」



光は自らタイムを取り、天見さんをマウンドまで呼んだ。



「光さんどうしました?タイムを自ら取るのって珍しくないですか?」




「まぁね。香織はナックルカーブ要求だけど、ナックルカーブじゃないなら次は何を要求する?」



光に急に変なことを聞かれ、すぐに答えを出せずに少しだけ考え込んでいる。




「うーん…。どちらかといえばストレートですかね?けど、ナックルカーブなら三振取れると思うんですよね。なにか不味い事でもありました?」




「いや、それがね。香織がスライダーを打って、右中間の打球の場面を思い出したんだよね。

外角に変化球投げたらさっきみたいに、流し打ちされそうな予感がしただけなんだけど…。」



天見さんは光の直感を聞いて、少し考えるように俯いた。



「参考になるか分からないけど、去年の夏の決勝戦も延長戦で齋藤さんがカーブを満塁ホームランにされてたよね? それならいっその事ストレートでもいかなと思って。」




天見さんは疲れで、あまり働かない頭を必死に動かして考えた。




『光さんはこう言ってるけど、今日のナックルカーブは打たれる気がしない。

ツーストライク取った時もナックルカーブにあっさり空振りしてたし、ここはナックルカーブでいいと思う。

けどはっきり言ってしまえば、光さんの天才の直感っていうのを信じてしまえば1番楽だよね…。

だったら、ストレート投げてもらうのが後腐れない感じもするけど…。』



心の中でずっと自分の決めたサインと、光の直感を信じてしまおうという心の弱さと格闘していた。





「光さん、ナックルカーブで行きましょう。」



「おっけー。ナックルカーブで行こう。」





あっさりと天見さんのサインに従うことにした。





「本当にナックルカーブでいいんですね?」




「ん。問題ない。香織の口からサインを聞きたかっただけだから。」




そうあっさりと答えるとマウンドをならし始めた。



その姿を見て天見さんはホームベースに戻っていった。




「プレイ!!」




もちろん投げる球はナックルカーブ。


ツーアウト且つフルカウントなので、ランナーは投手が投げた瞬間スタートする。



一瞬ランナーを横目で見て、天見さんの構える外角低めにナックルカーブを投げ込んだ。




9球目の勝負球に選んだのはナックルカーブ。



光が足を上げた瞬間、一塁ランナーと二塁ランナーは自動的にスタート。



光の指から放たれたナックルカーブは、バッテリーどちらも納得の完璧なナックルカーブだった。




しかし、樫本さんもナックルカーブを狙っていた。



ストレートを捨てて、ナックルカーブにタイミングを合わせてスイングしてきた。




それを見た天見さんは一瞬打たれたと思った。





ブンッッ!!




狙っていたはずのナックルカーブを樫本さんが豪快に空振り。


それほどに今日のナックルカーブは、抜群のキレとかなり落差があった。



高校No1打者の樫本さんでもバットに当てることも出来なかった。



その驚異的な落ちをしたナックルカーブにバットが空を切り、天見さんの前にワンバウンド。



ワンバウンドした球を体で止めて、打席で体勢を崩していた樫本さんにタッチをすれば、11回も終わろうとしていた。




だが、ワンバウンドしたナックルカーブはあらぬ方向に跳ね上がってしまった。



目の前で跳ね上がるボールを、天見さんは体で止めに行くのは無理と判断した。



グラブを出しても届かない。



それならとグラブをしていない右手でボールを捕球しに行った。



それを嘲笑うかのように右手の横をボールがすり抜けていく。




天見さんは一瞬目の前が真っ黒になりかけた。



これまで必死に練習してきた成果なのか体が勝手に反応していた。



キャッチャーのマスクを脱ぎ捨て、ボールが転がった方を確認。



一塁側のファールゾーンを転々とするボールに自分の120%の力を振り絞ってダッシュ。





「香織!!!バックホーム!!」




天見さんはファールゾーンを転々としたボールを追いながら、背中の方から大きな声で光の声が聞こえていた。



ボールはかなり大きく跳ねて、ボールがやたら遠くまで転がっているように感じられた。




あれだけ遠くに感じられたボールにやっと追いつき、ボールを拾い上げホームで待つ光に送球しようと振り返った。




『ヤバっ…。ランナーがもうあんな位置まで来てる。』




「香織!!!」




天見さんはすぐにホームベース上で待つ光に送球した。



ボールは少しだけ高めに浮いてしまった。



難なくそれを捕球して、3塁から突っ込んでくるランナーに素早くタッチしに行く。




3塁ランナーはヘッドスライディングでホームに滑り込んでくる。





『よしっ!これはアウトだ!』




相当際どいタイミングだったが、ランナーの手よりも先に、ほんの僅かに光のタッチが間に合った。



一瞬肝を冷やしたが、どうにかこの回も0を並べることが出来た。







「セ、セ、セーフ!!!」






このセーフコールはこの試合が終わったことを意味していた。




相手がホームベースを触れるほんの僅か手前でタッチした自信があった。




それでも審判のジャッジはセーフだった。




セーフのコールがされた瞬間に、花蓮女学院のベンチから選手達が勢いよく飛び出してきた。



ホームインしたランナーに駆け寄ってきて、その選手は全員に揉みくちゃにされていた。



三振した樫本さんも振り逃げでファーストベースを踏んで、ダッシュでホームまで戻ってきて、サヨナラのホームを踏んだ2塁ランナーを抱きかかえていた。



花蓮女学院の選手全員がこの苦しい試合を勝利し、夏の甲子園大会3連覇を成し遂げたことで、重圧から解放され喜びを爆発させていた。





対照的に城西高校の選手達は完全に燃え尽きていた。



ショートの川越さんはその場でただただ呆然としていた。



セカンドの西さんは声も出さず大粒の涙を流していた。


ベンチにいる監督はガックリと項垂れていた。




天見さんは11回表でアウトになった時よりも更に膝がその場で折れ、下を向いてピクリとも動かなくなってしまった。



乾いた甲子園の黒土が、まばらにゆっくりと更に濃い黒に変わっていった。




ホームベース付近にいた光は、近くで喜びを爆発させている花蓮の選手たちを少しだけ見ていた。



花蓮から目を離して、光は土が被っていないホームベースをじっと見つめていた。



流石にいつもの笑顔はなかったが、涙があるわけでもなかった。




『ほんの少しの甲子園の土が私達の勝利の鍵だったんだね。』




スクイズ失敗の時の姉のホーム突入の時は土がホームベースにかかっていた。



だが、今は綺麗なホームベースがそこにあった。




光はここまで誰よりも頑張ってきた。



だが、今日は最後の最後まで勝利の女神に見放されていた。



勝負の女神を睨むように一瞬だけ厳しい顔をした光だったが、すぐに諦めたように一息ついた。



自分のグラブの中にあった花蓮女学院の優勝ボールを主審に渡した。



すぐに天見さんに近寄ってなにも声を掛けずに、天見さんの右腕を引っ張りあげて、そのまま腕を肩に掛け無理矢理引きずるようにホームベースまで連れていった。



城西の選手達はすぐにホームに集合することが出来なかった。


それを早くしろと急かすような無粋な者はいなかった。



ゆっくりとホームベースまで天見さんを連れて行っている間に、動けるメンバーが動けないメンバーをホームまで連れてきていた。




「香織。10秒だけでいいから自分の足で立ちなさい。そして、この決勝を戦った相手に最大の敬意を持って挨拶しなさい。負けたからこそ、ちゃんと挨拶をしないとだめ。じゃないと後悔するよ?」



光から最後に強い言葉で諭された。


フラフラとしながらも天見さんは最後の力を振り絞り自分の力で立ち上がった。




「1ー0で花蓮女学院高校の勝利。礼!」




「ありがとうございました!!!」




お互いの挨拶と同時に球場にサイレンが響き渡った。




延長戦11回という長い試合が終わったことを、城西の選手達は改めて実感することになった。



ここまで泣いていなかったメンバーも大粒の涙を流した。



最後にお互いに握手を交わした。



光は目の前にいた樫本さんと握手をする為に利き手の左手を出したが、握手を通り越し抱きついてきた。



「おいおい。なんで私達だけは抱き合ってる?」



急なハグに姉は恥ずかしさとなんとも言えない気持ちのせいで、冗談っぽく茶化すような言い方しか出来なかった。




「本当に凄い選手だった。ここまで1人の選手に苦しめられるとは思わなかった。そして、また言わせて欲しい、勝負できなくて本当に申し訳ない。」




「まぁそれは仕方ないよ。勝つためだからね。けどもし私と勝負してたら7回で試合終了してたと思うよ。」



光は皆に聞こえるように堂々と言い放った。



普通なら負け惜しみにしか聞こえないかとしれないが、多分光と全打席勝負していたら勝者として喜んでいたのは城西の方だったと誰もが思っていた。




「天見さん。再来年、いや来年でもまた勝負しよ!また甲子園で待ってるからね!」



隣の天見さんは、相手の1年投手の前橋さんと握手をしていた。



それまで完全に呆然としていた天見さんだが、前橋さんの力強い握手に少しずつ意識がハッキリしてきた。



「う、うん!絶対にまたここに来るよ!また甲子園で試合しよう!」



光からは隣の将来有望な2人の1年生をみて少し羨ましくなっていた。


今ところは天見さんよりも前橋さんの方が大分先にいる。



それでもお互いに認め合えるライバルがいることと、それが後2年続いていくこと。



2人の将来が楽しみでもあり羨ましくもあった。




お互いの健闘をしたところで、光は一塁ベンチへ戻ってきた。



ここまでずっと応援してくれた龍を見つけると、笑顔で何度も手を振った。



龍は光が試合に負けたことは分かっていたけど、あれだけの笑顔を見せてくれた姉を見て、子供ながら光の強さがよく分かったようだ。




「おねーちゃん!頑張ったね!」




「りゅーもいつかここに立てるといいね!頑張ってここまでおいで!」



1年生達は甲子園の土を、自分のスパイクやグラブを入れる袋にかき集めていた。



光はというと片手で持てるくらいの土を手にして、それをじっと見つめその土をパラパラと地面に戻した。




その行為が一体何かは誰にもわからなかったが、光は何か満足したような顔をしてベンチ裏に消えていった。




こうして東奈光の女子野球部として最初で最後の夏が終わった。




東奈光の嘘のような本当の伝説は何十年先までずっと語り継がれていくのであった。



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