第2話 叔母さんの死

「え、またバイト始めたの? またすぐやめるんじゃないの?」

 楠木雅恵は呆れたように言って、宏にカレーの皿を渡した。

「今度は絶対にやめないよ」

 宏が雅恵の差し出した皿を受け取った瞬間、リビングの電話が鳴った。

「あら、こんな時間に誰かしら。お父さんからはさっき残業だって電話があったばっかりだし……」

 雅恵は訝しそうにリビングに向かった。宏が雅恵の後ろ姿を見送った後、リビングから雅恵の叫び声が響いた。

「えっ!! まさか! 本当ですか!?」

 ただ事ではない雰囲気に宏は思わず皿を持ったままリビングへ駆けつけた。

「お母さん、どうしたの!?」

 雅恵はまだ受話器を持ったまま深刻な顔で話し込んでいた。

「……はい。はい、分かりました。それじゃあ」

 雅恵は受話器を置いた後、宏に向き直った。

「何かあったの……まさかお父さんに……」

 雅恵の蒼白の顔を見て宏は内心緊張しながら聞いた。

 雅恵の目は赤く充血し、涙が浮かんでいた。

「……美果子が、死んだって」

「えっ……美果子叔母さんが……?」

 雅恵は涙を拭きながら頷いた。


「すみません、勤め始めて早々に休んじゃって」

 宏は生花店の店内でブーケを作っている彩花に向かって頭を下げた。

「いいのよ。お葬式なら仕方ないもの。大変だったわね……確か亡くなったのって」

「母の妹です」

「ご家族の方も辛いわよね。特にお子さんは」

「いえ、美果子叔母さんは独身でしたから。若い時に一度結婚した事はあるんですけどすぐ離婚して、その後は仕事一筋っていうか、仕事が生きがいみたいな感じでした。美容関係の仕事だったんですけど……でもまさかこんなに早く死んじゃうなんて……今でも何だか信じられません」

「あの、もしかして……美果子さんって、倉本美果子さんの事かしら。美容研究家の」

「あ、そうです。ご存じなんですか」

「ご存じも何も、すごい有名人じゃない。テレビにもよく出てたし。あの人が楠木君の叔母さんだったなんて……何かびっくり」

「美果子叔母さんってそんなに有名なんですか……知らなかった。僕、テレビあんまり見ないんで」

 彩花はブーケから顔を上げて宏を見た。

「今の若い子はテレビを見ないって本当なのね。じゃあ……もしかしてあの事も知らないの?」

「あの事?」

「……倉本美果子さんが亡くなった原因」

「え……あの、確か自殺だったって」

 宏は雅恵に聞いた話を思い出しながら答えた。美果子叔母さんは一人暮らしのマンションのの八階の部屋のベランダから転落して亡くなった。まずは飲酒による事故が疑われたが、遺体からアルコールは検出されなかった。部屋の玄関は鍵がかかっていたため、他殺の可能性は薄く、自殺の可能性が高いという事。

「二つの可能性があるってテレビでは言ってたわよ」

「……」

「自殺と、他殺の可能性」

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