律儀で運のない鶴の恩返し

"お爺さんが山で芝刈りをした帰りに、沼の近くで猟師の罠にかかって苦しんでいる鶴を見つけ、罠をはずしました。するとその夜、旅の途中で道に迷ったと言ってかわいい娘がやって来た"

ここまでが原作通り。布を折るために部屋に入るところからスタートです。


「おじいさん機織りしますので絶対に覗かないでください」

「わかったが…どうしてだい?」

「恥ずかしいんです。では失礼します」

私は障子を閉じました。

「あぁ疲れた。この家見つけるの大変だったわ」

大変だったのは本当です。罠から助けて貰ったのはありがたいのですが、巣に帰ると母に

「助けてもらったなら恩を返してきなさい。そんな非常識な鶴に育ててません」

と言われてしまいました。そこまで言われると恩返ししないと帰れません。ですが、真の大変さはここからです。皆様わかると思いますが、季節は冬であり、雪が降っていたわけなのです。そんな視界不良で寒い中特定のおじいさんを探すなんてただの苦行です。1軒1軒窓から覗いてやっと見つけたのですが、何回も家主達に驚かれましたし猟銃で撃たれかけもしたので、本当に疲れました。

「機織りがあるからそれで布をおるけど…これ…使えんの?」

ボロいの一言でつきる代物です。早く良質な布を織ってとっとと帰る予定ですが、これはなかなか苦労しそうです。実際に織ってから考えるとします。

「あ、一応使えるな」

織れるのであれば文句は言いません。機織りの腕はいいので余裕です。糸もしっかりと家から用意してきました。巷では鶴は自分の羽で機織りするとか聞いた事ありますが、そんな痛いことしません。身を削って機織りしてたらこっちの身は持ちませんしやる気は無くなります。噂は噂ということで…


「ガッタン、ガッタン」

手際よく機織りを使いこなしていますが、なんせ古いので慣れない工程もあります。使い始めは手間取りましたが、30分経てば慣れました。

少し疲れたので休憩です。朝までに完成すればいい。つまり、余裕はありそうなので、休憩中少し部屋を散策してみることにしました。あまり人様の家を物色するのはいけないことですが、まぁ暇なので。

物置程度の部屋だったらしく、生活感のあるものは対してないので面白く無いという感想になりますね。ふと気になってタンスを開けてみると

「うお、春画じゃん。じいさん…元気だな」

見てはいけないものを見てしまいました…

「機織り再開しよ…」

罪悪感が強いとそれに比例して作業効率は上がるので、2時間程度で仕上がってしまいました。

「寝よ…」

朝提出さえすればいいので寝ます。


翌朝布をおじいさん達に差し上げたところかなり喜んでいました。おじいさんはそれをどうやら町まで売りに行くようです。恥ずかしいですが自分の織った布がいくらになるかワクワクします。


帰宅するとおじいさんは満面の笑みとともに大量の金貨を手にしてました。

「高額で売れたぞあの良質な布!」

それはよかった。

「また織ってくれんかのぉ」

(金儲けの道具にする気か)

「おじいさんそれはやめてあげてください。可哀想ですよ」

(ばあさんナイスフォロー)

「わかっておる。だが、」

(ん?)

「おじいさんそれは言ってわいけません」

「なんせ貧乏だからなぁ。明日生きていくので精一杯じゃ」

「私達でどうにかしましょう。大丈夫よ」

「ばあさん」

もう恩返ししたので帰っていいのですが、こんなこと聞かされては帰れません。詰んでます。

(機織りしてやるわぁぁぁ!)

「私機織りするよ。糸買ってくる」

そこから私は急いで糸を買い、部屋に篭もりました。できる限り多くの布を作って置いていきます。あれで見捨てたら流石の私でも罪悪感に苛まれて一生後悔します多分。


それから一生懸命に布を織っていましたが等々問題が発生しました。機織り機が壊れたのです。

「クソが!ボロかったけど壊れたらもう作れないかな。ん?」

製造元と住所が側面に記載されています。よく読むとどうやら近くの町にあるそうです。おじいさん達にはバレたくない。

「行くしかない」

一旦鶴の姿に戻りそこの店までひとっ飛び。近くの林に降り立ち再び人間の姿へ。

「おっちゃん。機織り壊れた」

「いらっしゃい。どの型ですか」

「これ、糸の部分が巻かなくなった」

「古いですねぇ。部品あるんで買ってきます?」

「買うよ」

「取り付けしましょうか」

「自分で付けます」

「難しいですよ」

「金ないんで」

「あ、そう」

お小遣い全て持参し購入。急いで家に戻り交換作業をしました。ですが

「難しすぎるだろ」

説明書あるとしても素人には訳が分かりません。結局それで半日使いました。


頑張って機織りしてると部屋の外から声が聞こえました。

「本当に頑張って機織りしてるわい」

「大丈夫かしらねぇ」

「あの子ならやってくれるさ大丈夫」

他人事のように話しています。流石にこの精神状態でそれを言われるとフラストレーション溜まります。

(野郎ぶっ○してやる)

危ない危ない。女の子が使う言葉ではないですね。

次は糸が無くなりました。かなりの数作りましたがあと少しで完成の布があるので少しだけでも糸は欲しいです。

「やるしかないか…巷の噂…自分の羽」

「お菓子食べる?あ、」

おじいさんがとんでもないタイミングで入ってきました。しょうもない理由で開けるなと言った障子を開けました。ちょうど鶴になって羽抜こうとした時に。

「あ、いや、食べないです」



その後鶴は罠にかかったのは自分だと告げ、空へ旅立っていきました。めでたしめでたし。

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