第48話 海辺で童心に帰って遊ぶアキラと美代 💑

 今は父が家族を捨てて未だ行方知れず。自分も大学を中退せざるを得ない状況に追い込まれアルバイを続けながら大学に通い続けたが無理だった。なんとか就職出来たのも束の間、不景気風に見舞われ、クビ同然に追いだされたのだ。

 「山城さん? どうかなさったの」

 「ああ、いいえ家族と来た時の記憶を思い出していたのですが、殆どおぼろげで、思いだせないですよ」

 「無理もありませんわ、私も小学二年生くらいでしょうか、大きな大仏を見て凄いなぁと思った事くらいです」

 「せっかくですから、取り敢えず由比ガ浜の方に行きましょうか」


季節は師走に入り寒さも厳しい季節となるが、それでも海を訪れる人が多い。

 その代表的な遊びはサーフィンを楽しむ者達だ。彼らには寒さは無縁のようだ。

 由比ガ浜より少し先の片瀬海岸ではサーフィンスクールがあり二万円前後で一通り指導してくれるそうだ。やがて海岸近くの駐車場に車を停めて由比ガ浜の海岸へ下りて行った。

 「わあ、やっぱり海は気持ちがいいわね」

 「本当ですね。決して綺麗な海ではないけど都会のより視界が広くて爽快ですね」

 二人は砂浜を歩いた。時折り大きな波が打ち上げて来る。その都度、美代はキャアキャアとはしゃぐ。まるで子供のように、あの知的な美代が童心に返ったように波打ち際で戯れている。ついには靴を脱いで走り出した。アキラはどう対応して良いか分からない。この冷たい砂浜を裸足で走ると驚きだ。真冬なのにこの二人は寒さを感じないのだろうか? 恋には寒さなんて関係ないようだ

 自分も一緒になってはしゃぐべきなのか、しかしこの身体そんな事をやったら誰もが白けてしまいそうだ。

 「ねえ山城さん、靴を脱いで。海水はそんなに冷たくなく気持ちいいですよ」

 そう言われればもはや「僕は遠慮します」なんて事は言えない。

 美代ちゃんが喜んでくれるならそれでもいい。道化役者でもなんでもやってやろうではないかとアキラも靴を脱いだ。確かに海水は思ったほど冷たくはなく砂浜を走り体が温まったせいか寒くない。美代の側に駆け寄って行くと美代はアキラに海水を手で救って掛けた。美代は完全に童心になりきっている。


つづく


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