第8話 アキラ空手道場に通う。

 アキラも警備会社に勤めたからには体力を鍛えるのは当然として武道でも身に付けなければと考えていた。せっかく就職出来たのだから、少しでも警備員として役立てたい一心からである。

 あのインチキとっつぁんに教えてもらった、ある空手道場に顔を出したのだった。

 その場所は巣鴨にあった。おばあちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨地蔵で有名な所である。

 アキラ休日で狭い檻みたいな部屋にいるより格闘技のひとつでも身に付けておけば警備会社でも『おう感心、感心ガンバレよ』と、上司からお誉めの言葉があるかも知れない。もう、いきなり人事課に呼び出されて『ご苦労さん我が社も厳しくってねぇ』


 てな事にはならないだろう。アキラも、あの惨めな思いは二度と御免だった。

 あのインチキ占い師……いやいや、真田小次郎が多少の知り合いらしく道場に電話を入れてくれた。確かに道場はあった。しかしボロボロの道場だった。

 巣鴨地蔵通りの裏手にお寺があるが、その左に水路がありその脇に道場はある。

 しかし、しかし不思議なのはボロ道場に似合わない立派な看板だった。

 なんと金色でピカピカと輝いている。

 (♪ボロは~着てても心は錦~)なんて歌にあったがまさに金看板か?

 夕方六時「ちわーしつれいします……」

 十三~四名の練習生が(組み手)の最中だった。

 「せっ先生、お客さんですよ!」

 一斉に練習生はアキラの方を見て驚く。呼ばれた先生が出て来た。

 「げっ……あっあんた! プロレス道場はここじゃないよ」

 「はぁーあの真田小次郎さんの紹介で山城旭って、者なんですが」


 「……おっ小次郎さんの、おうおう電話もらっておったが、こんな大きな人とは一言もいわなんだよ」

 その道場主の郷田強志だったが、名前とは裏腹に六十歳前後の身長百六十センチ切れるどうかの小男だった。その差はアキラと約四十センチもあった。

 「それにしてもデカイのう……」アキラを見上げた。

 「でっ入門希望と言う事でいいんだね。じゃ、ここに住所、名前、電話番号など記入してくれないか」

 アキラに合う空手着がないので後日、注文してその時に代金を支払うことになった。

 「今日は、取り敢えず見学して胴衣が届いたら連絡するから、それでいいね」

 アキラはその練習ぶりを見学するが、練習生はみんなスピードはあるが、やや迫力に欠けて見えた。アキラは胴衣が来るまでの間、暇を見ては荒川の河川敷を走って体力を付ける事にした。自分でも不思議な程に身体がスピーディに動く、まだ二十五歳の若さと持って生まれた身体能力があるのか大柄の割には動作が速いし、子供の頃から喧嘩では負けた事がない。警備員の仕事に就いて早くも半年が過ぎた。

 その警備員の同僚達もアキラが最近とくに大きく見えると言う。

 それもその筈である。一時的に二~三キロ減った体重も今や筋肉が付いて締まった体が鍛えられ体重も百五キロとなった。

 長身ゆえにそれでも太ってはみえない、なにせ百九十八センチだ。

 空手道場に通って四ヶ月、最初はその長身がアダとなってデクの棒、扱いされたが若いアキラは呑み込みも良くベテランの先輩にも、ひけをとらない程までになって来た。

 こうなればウドの大木とか、デクの棒と言われたが鬼に金棒ならぬゴリラに金棒と、なりつつある。もっと脳味噌とは別問題である事は言うまでもないが。


つづく



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