第4話  占い師 真田小次郎との出会い

 その日の夕方アキラと中年のおじさんは近くの駅前で祝杯を上げていた。

 駅前と言っても屋台に毛が生えたような小さな居酒屋だが。

 「今日はどうもありがとう御座いました。いやあ競艇は面白いですね」

 「なんのなんの。アンタの運が良かっただけだよ」

 その男は真田小次郎と名乗った。まるで剣豪みたいな名だ。

 「しかし、アンタはデッカイねぇ。バスケットの選手でもやっていたのかい?」

 「いや今は無職ですよ。先月に解雇されて退屈しのぎにフラリと来たんですよ」

 「そうかぁ、そりゃ気の毒にのう。どれどれ手を見せてごらん」


 真田はカバンから虫メガネを取り出した。アキラは、えっと思ったが素直にグローブのような手を差し出した。しばらくして真田はこう言った。

 「ほう~これは近い将来、人生を変える大きな出来事があるぞ」

 「へぇ~もしかして真田さんは易者さんですか」

 「易者と言うより占い師かな。易者は細い竹籤みたいな物で占うがまぁ似たようなもので占うが、占い師は竹籤を使わない。仕事は夕方からだし昼は暇つぶしに競艇を楽しむのさ。しかしアンタいい手相しているぞ」

 アキラは、またぁこのおじさん調子がいいんだから、この占い師はインチキ臭いと思ったが初対面だし口には出さなかった。でもそう思った理由ある。なにせ朝から競艇やっていて一レースも当たってないと云う。未来を予想するから、つまり占い師、易者も同類だろう。その占い師が一レースも当らないからだ。

 なんの為の占い師なのか? 占い師ならレースが当るか当らないか分る筈だろう。

 まぁそう言ったら(当たるも八卦当たらぬも八卦)と切り替えされてしまうかも。


 「あのう~真田さんは、なんで占いなんかやっているんですか?」

 「アンタ変な事を聞くねぇ好きだから占い師をやっているだろうが。だが占い師も不景気でのう」

 いや不景気だからこそ占い客が増えると思うのだが……とんでもない人だ。

 年は六十才前後、容姿は背が低く白髪交じりで、ショボイがどことなく品ある。

 易者と云えば占い師、多少の未来を占えるから客が金を払って占って貰うのに。

 まぁ元々、予知能力なんて持ち合わせている占い師なんか、いる訳がないか!

 多少、調子のいい事を言わないと客も寄り付かなくなる。特にこの真田小次郎はだ。

 アキラは思った。真田に俺の未来が見えるなら、俺だって真田を占ってやろう。

 『きっと将来は池袋のガート下あたりでダンボールの家を作って優雅なその日暮らしが見えるようだ』と。

 親切に教えてくれた人を悪く言うつもりはないが、つい何を言っても笑って聞いてくれるこの占い師に好感を覚えた。

 二人はほろ酔い気分で別れた。初めてのギャンブルで当たれば嘘でも嬉しい、真田のインチキ占い。アキラは勝手にこの男をインチキ占い師と決め付けていた。

 まぁ悪い人ではないし気軽に話せる相手だ。一万円の飲み代をアキラが支払い残り二万二千円の現金が増えた訳だが。これもインチキ占い師にめぐり逢えたから感謝しなくてはと、とにかく二人は意気投合した事は紛れもない事実であった。

 しかしアキラも真田もこれを機会に永遠の付き合いになる事は知る由もない。


つづく


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