俺が転生した乙女ゲームの世界では、悪役令嬢に悪事を働かせたくない

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 申し訳ございません。前世のお父様、お母様。


 親不孝にも死んでしまいました。


 あと、三日前に仕送りでくれた現金もなくしました。

 ごめん。


 最後にくれたお金ぞんざいに扱っちゃった。


 今は転生先の乙女ゲームの世界で楽しく第二の人生を過ごしています。


 けどあれだ。


 若干、ファンタジー入った世界だから。


 今年は冬の大精霊様が怒っているので、寒さが厳しくて、凍えそうです。


 この世界に存在する不思議な生物、ザ・大精霊様。沸点が低いからよく怒るんだよな。


 それで、気候大変動。


 人々の暮らしは大変だ。







「ひっ、ひぬ」 訳:しっ死ぬ


 どうも、自宅の庭で氷漬けになりそうになっている俺です。


 けど、いよいよ天国が近づいたかという時に、悪役令嬢に助けてもらいました。


 乙女ゲームのストーリーでツンツンしている頃の悪役令嬢じゃなく。


 小っちゃくて可愛いころの悪役令嬢が目の前に。


「ええと、大丈夫ですか」

「ひひへ、らふへへ」 訳:いいえ、たすけて


 過去エピドードの中で、不良には近づいちゃいけませんと両親から散々注意されていたのにすみません。


 貴方様の両親は、それはもう大層過保護でしたもんね。


 時期を考えると、もうそのエピソードの時期は過ぎてますよね。


 警告されちゃった後ですよね。


 約束破らせちゃってごめんなさい。


 俺不良じゃないけど、氷ダルマになってて、あやしい見た目してるだろうし。


 この悪役令嬢、原作からみて過去に当たるこの時期はまだぐれてない。


 ごくごく普通の貴族令嬢だ。


 綺麗な悪役令嬢。


 それでも子供だから自制心が聞かない事があるらしく、たまに他の子供ともめごとを起こしてる。


 でも、大抵はまだこどもだから可愛いもめごとだよ。


 遊びの順番をゆずってくれないとか、オヤツを内緒で食べちゃったずるい!


 とかね。


 これまでにヒロインに嫌がらせしてるところも見かけたけど、俺が注意したら謝ってくれたし。


 まだ結構いい子なんだよ。


 俺の地元さ。


 冬の大精霊さんが激怒していて、地元の農作物が売れないもんだから、ちょっと実家が貧乏してるけど、悪役令嬢ちゃんの家が色々援助してくれるんだ。


 まあ、縁をつくるための打算もあるだろうけれど。


 作物の加工品のアイデアとか、販売方法とかも教えてくれる。


 だから、今までに悪役令嬢ちゃんとのつきあいは、それなりにあった。


 あっ、実は俺ちょっとした貴族で、それなりの屋敷にすんでんだ。


 だから今すぐ生活に困るって事はないから、安心して。


 ただちょっと今は生命の危機に、瀕してるけども。


「どうして、自分の家の庭で凍死しそうになってたの?」

「寝ぼけて、季節間違えて健康のために走り込みしようと外出たらやられた」

「へんなの」

「はい、へんですね」


 将来、なんでゲームの悪役になるくらいねじ曲がっちゃうんだか。


 この子って、平気でうそをつくような人になっちゃんだよな。


 なんか、友達から嘘つかれたのが理由って原作にあったけど、詳しい事は情報になかったんだよな。








 数日後。


「一番多く綺麗な石を見つけた方が勝ちだ。いくぞ! お前ら! よーいドン!」


 その日、俺はとある貴族令嬢のために、綺麗な石探しを敢行していた。


 知り合いに綺麗な石が好きだという貴族令嬢がいるので、誕生日プレゼントの為に集めているのだ。


 自分一人だとたかがしれているから、人海戦術。


 あとは、一人一つプレゼントを用意するのができない奴のために、皆で贈れるプレゼントにするためだ。


 俺の知り合い、庶民も混ざってるから、仲間外れとかできるだけしたくないし。


「貧乏人と一緒に遊ぶなんて、物好きね」


 そこに登場。将来の悪役令嬢。


 変わった人間を見るような視線を送ってくる。


「意外と楽しいぞ、世界が広がる感じで。一緒に遊ばない?」

「お母様とお父様が、貧乏人とは一緒に遊んじゃいけませんって」

「そっかー」


 悪役令嬢ちゃんが、将来庶民のヒロインを虐めるようにならないために、子供のころから庶民という存在に慣れさせようかと思ったけど、道は険しいらしい。


 そっかそっか、両親が言うなら仕方ないな。


 なんていうと思ったか。ふははっ!


「よーし、一緒に石集めするぞ!」

「えっ、ちょっと。やるなんて一言も」

「大丈夫大丈夫、ばれなきゃやってない事とおんなじ」

「私には嘘ついたら、ダメって前に言ってたのに」

「これは良い事だから、大丈夫だ」

「お母様やお父様に嘘をつく事が?」

「たぶん」

「たぶんで私を悪の道に引きずりこまないで!」


 悪の道なんかじゃないんだけどな。


 この子の両親は、身分につりあった人間としかつきあわない人間だ。


 俺が貴族じゃなかったら、俺も悪役令嬢ちゃんとは近づけなかっただろうな。


 彼等の言い分は分かる。


 身分に見合った人につきあうべき、という考えを持っているのも。


 けれど、それに固執するのはどうかと思う。


 そりゃ、身分をまったく気にしない人間は問題だけど、皆が皆悪い奴ばっかりじゃないし、仲良くなった方が良いと思うんだけどな。








 そういうわけで、俺は地道に悪役令嬢ちゃんを遊びに誘いまくった。


 庶民も混ぜて、らんらんるーだ。


 悪役令嬢ちゃんは最初は渋っていたけど、やはり子供!


 楽しそうな事の魅力には抗えないのだ!


 一か月もする頃には、だいぶ庶民と親しくなっていた。


 そんなある日。悪役令嬢ちゃんがもじもじしながら話しかけてきた。


 ひょっとして告白?


「誕生日、何が欲しい?」


 違ったかー。

 でも嬉しい。


 誕生日にプレゼントを贈りたいと思うくらいには、仲良くなれたらしい。


 できれば他の事もその勢いで仲良くなってほしいな。


 よし。


 皆も一緒にまきこんだれ!


「皆で一緒にパーティーできればそれでいいかな」

「それじゃ、参考にならない」

「皆と一緒に遊ぶ時間が欲しいって事だよ」

「そんなものでいいの? へんなの」


 ふふふ、これで一気に他の者達とも仲良くなれるはずだ。


 悪役令嬢ちゃんは腑に落ちない顔をしながらも、今後の事を考え始めたようだ。







 しかし!


 事件は起こった。


 伏線が回収されてしまったな。


 悪役令嬢ちゃんが嘘つきになってしまった理由が明らかになった。








 俺は別に物のプレゼントなんて良いって思ってたのに、誕生日を祝うために一応用意してくれたらしい。


 それで、悪役令嬢ちゃんは綺麗に包装された箱を持って、秘密基地に訪れた。


 そこは、庶民の諸君と周りの目を気にせずに遊べる場所だ。


 偶然見つけたので、皆をあつめて遊び道具を保管している場所。


 俺達はそこで皆と一緒に飾り付けをして、パーティーの準備を始めていたのだが。


 その途中にプレゼントがなくなってしまったらしい。


 悪役令嬢ちゃんは誰かが盗ったと思っているようだ。


「誰がとったの! 大切な贈り物なのに!」


 皆は「とってません」「とってないよ」「とってないったら」と口をそろえて無実を主張している。


 それを聞いた悪役令嬢ちゃんは、かんかんに怒ってた。


 あーあ、こうなるから物はもってこなくてもいいって言ったんだけどな。


 俺は悪役令嬢ちゃんをつれて、席を外した。








 悪役令嬢ちゃんはちょっと人と仲良くなることを誤解している。


 そこを間違えたら、相手に裏切られた時にくしみで、冷静になれなくなってしまうだろう。


「いいか。俺は庶民の皆とも仲良くなりたいけど。相手を信頼しすぎるのは違うんだ」

「何が言いたいの?」

「高価なものを持ってきたら、こうなるかもって思ってたから、今まではただ体一つでやってきて遊ぶだけだったんだよ」


 そうなんだよー。


 今まで色々遊んでたけど、道具とかは全部現地調達か誰かが使い終わった奴とか、捨てられてたやつとかだったからな。


 すると「皆の事信じてないの? だったらどうして一緒に遊んでたの?」と、悪役令嬢ちゃんは俺の言葉を聞いて混乱しているようだ。


「今までの期間は、俺の事をよく知って、信じてもらうための準備期間だ。いきなり仲良くなんてできるわけないからな」


 俺は、どうして庶民の子供達とも一緒に遊んでいたのか話す。


 それは悪役令嬢ちゃんが将来平民のヒロインを虐めないためでもあったが。


 自分自身の視野を広げたり、人脈を広げたりするためでもあった。


 貴族として人の上に立つ前に、庶民の暮らしぶりを知る必要もあったし。 


「最初から仲良くなれる奴なんていないんだよ。うちとけるまで、時間がかかるヤツもいる。そういう奴の前に、美味しい料理を置いて、盗み食いするのを見たとたん「それみたことか」ってやりたくはないからな」

「私には難しい事、分からない」


 だろうなぁ。


 まだ子供だし。


 俺だって前世の記憶がなかったら、そんな事考えなかっただろうし。


「俺は昔、皆を信じて痛い目に遭った事があるんだ」

「えっ」

「そいつは貧乏で、その日を暮らしていくのもやっとで、おまけに病気の親も食わしていかなくちゃならない。そんな奴の前に、お金なんておいといたらどうなるか分かるだろ?」

「でも、盗むのはよくないわ」


 一応言葉にごしたけど、看破されちまったか。

 そうだよ。

 盗られました。


 人に渡すために持ってきたお金を取られちまった。

 その出所は両親の仕送りのお金だったんだけどな。


 自分のお金じゃないから、なおさらショックだったぜ。


 それでそいつともめにもめて、お陀仏ときたもんだ。


「誰もがみんな悪人になりえるんだ。どんなにいい人でもな。もちろんそういう暮らしをしていても悪事を働かない立派な人もいるけどさ」


 でも、聖人君子はほんの一握りだけ。大抵の人間は強くない。


 世の中には、強くない人の方が多いってそう思ってるから。


「貴族でいるなら、そういう弱い人達の事を理解しなくちゃいけない。でもそれでいて、距離を遠ざけすぎてちゃだめなんだ」


 だから俺は、そのプレゼントをとった奴を怒らないでやってくれ、と頼んだ。


 嘘つかれたけど、怒らないでね。


「へんなの。自分がもらうはずだったもの、なくなっちゃうのに」

「それでいいんだよ。今日は俺の誕生日だぜ? 夜には親からも追加のパーティーくらうと思うけど。ここにいる皆と特別な日をすごすなら、何も気にせず楽しく過ごしたいんだ」


 悪役令嬢ちゃんは納得はしていないものの、怒るのは我慢はしてくれるようだった。






 そんなこんなで気まずい始まり方をしたパーティーだったけど、盗難事件は気のせいだったという事にして。


 楽しい時間を皆で過ごした。


 そして終わった頃に、こっそり一人の少年がやってきた。


 ごめん、と言って差し出してきたのは悪役令嬢ちゃんが持ってきた箱だ。


 俺は「ありがとう」と言ってそいつに笑いかける。


「何か困った事があったら、相談にはのるぜ。俺、子供だから大した事はできないけど。無責任でごめんな」


 きっと何か事情があったのだろう。


 困りごとを解決する事はできないかもしれないけど、誰かに話して楽になるというのなら、愚痴を聞く相手くらいにはなってやろう。









 そして、月日は流れる。


 乙女ゲームの原作が始まって、俺と悪役令嬢ちゃんは登場人物たちが多数通う学校へ入学した。


 イベントは色々起きているようだ。


 ヒロインはあちこちで攻略対象達と恋のあれこれを起こしている。


 そして、悪役令嬢ちゃんは。


「校庭で夏の大精霊様が怒っているぞ」

「校長先生が火を吹いてるわ!」


 お昼休み中。俺と一緒に、学校の校庭で暴れまわっている校長先生(兼大精霊様)を眺めていた。


 羽が生えた美人の女性が、長い髪を逆立たせている。


 怒鳴るたびに、熱気が発生した。


「うわー、大変だな。まるで常夏だよ。誰だ怒らした奴」

「それは分からないけれど、校長先生の背中に貼り紙したらしいわ」

「ああ、犯人が分かった」


 いたずら小僧な攻略対象がいたから、そいつだと目星を付ける。


 案の定、脳裏に思い浮かべた通りの人物が、大精霊様に追いかけられている。


 そこに助けに入るヒロイン。


 契約した冬の大精霊様の力を使って、火を防御していた。


 仲いいねぇ。


 と、そこにぶわっと風が吹いて、校舎にいる俺達に熱風が当たらないようになった。


 それは悪役令嬢ちゃんが契約している風の大精霊様の力だ。


 原作では、契約なんてしてなかったけど、俺が関わったせいかそんな事になっていた。


 大精霊様、できた人間じゃないと契約したくないって駄々こねるからな。


 きっと契約した時、大変だっただろうな。


 そんな悪役令嬢ちゃんは、校庭の惨状を眺めながら文句を言っている。


 言うだけで済んでる。


「まったく、これだから庶民は。もう少し静かに生活できないのかしら」

「はは、でも。俺はこうやってわちゃわちゃしてる方が楽しいけどな」

「まったく、あなたは本当に昔から変わっているわね」


 原作では、ヒロインにつっかかっていく事が多かったのに。


 小言を言うだけで済ませているのだ。


 成長したなぁ。


 悪役令嬢ちゃんは攻略対象が校長につかまったのを見届けて、風の力をやめる。


 そして、自分のクラスへと戻っていった。


 文句を言いに校庭に向かうなんてことはせずに。


 俺は安心しながら、その背中を追いかける。


「そろそろお昼食べておかないと、午後までもたないわよ」

「おっと、そうだった。いつもみたいにお弁当のおかず、わけてくれるよな?」

「いいけど。どうして毎日私のおかずばかりとるのよ」


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