第15話

湿った土の感触と同じく湿った空気が充満する洞窟を、俺を先頭にアルバ、ルーチェそしてヴァレリオ卿の並びで進んでいく。


一生慣れることのない馬車に揺られながらたどり着いたダンジョンは、昨日の説明の通り俺たちの情報が記載されたカードを、入り口にたつ警備兵に見せすんなりと入ることが出来た。


ダンジョン内にはヒカリコケが地面や天井、周辺の壁の至る所に繁殖しているため、進むのに何ら問題もなかった。


これなら松明などの灯りを持って片腕が塞がれる心配もなく、常に武器を取れる状態にできるのでありがたい。


「二人は疲れてないか?」


「大丈夫です!」


「私も大丈夫ですよ。お兄様とヴァレリオ卿は疲れていませんか?」


「私は元気ですよ!いや〜ダンジョンは久し振りなのでついはしゃいでしまいますね!」


「アハハ……俺も疲れてないから大丈夫だよ」


何時もの優しくも生真面目前とした貴方は何処に逝ったんですかヴァレリオ卿……。


今の彼を簡単に例えるなら遊園地に遊びに来た五歳児が妥当だろうか。


しかもはしゃいで何時もより大きく、ワントーン上がった声で話すからさっきからモンスターの襲撃数が中々だと思う。


さっきのでもう十回は襲撃されてるよ?


せめてもの救いはそのモンスターが知性の薄いとされるゴブリンと、一番最弱のモンスターとも呼ばれるスライムだという点だろう。


もしここで厄災級の、ゲームで言うボス的な存在が現れたら今の状況では勝敗は五分五分だろう。


体力や気力そして魔力に余裕があれば倒せる確率は上がるだろうが、魔物の襲撃もあり初めてのダンジョンだ。


只でさえ実戦経験も無いのに……。


初めてのダンジョンという事もあり、何時もならスムーズにいく魔力調整も上手くいかない。


火球を出そうとして炎の柱を打ち上げたり、傷を治すどころか草木の成長を促してしまったり、終いには軽い目眩ましを掛けようとして何故か壁の一部を爆破させ木っ端微塵にしたりと兎に角散々な目にあった。


何かあっても二人を護れるようにとこの並びにしたが、二人を護る前に俺が二人に殺られそうで怖い。


そして二人もそうだが、最も厄介なのはヴァレリオ卿だ。


ダンジョン内には罠が仕掛けられていることが殆どで、今回のこの場所でも多くの罠が仕掛けられているから注意しなさいと逝った手前。


逝った本人が危機として自ら罠に掛かりに行っている。


落とし穴だったり巨大な球体の大岩が転がり込んできたり弓矢で狙撃されそうになったり。


特に大変だったのはモンスタートラップだ。


ダンジョン内に偶に生成される宝箱を開いたり、何かしらのスイッチを押してしまった場合にはけたましく音を鳴らし、モンスターの大群を誘き寄せる。


誘き寄せられている間に逃げようにも、そのトラップ事態が意思を持っているかのように何処までも追いかけてくるのだ。


なのでこれに対する対処法は、宝箱やスイッチなどの形をしたそれを破壊するか呼び寄せられたモンスターの全てを重倫理尽くさなければならなかった。


「その先に安置ポイントあるのでそこで一旦休みましょう!」


「そうしましょうか」


相変わらず叫ぶような大声話すヴァレリオ卿にはもう何を言っても無駄だと理解しているのでもうそれについては何も言うまい。


「あっ!すんません!」


「いっ…!お気になさらず。慌てていたようですが何かありましたか?」


正面から一人の男性が走ってきたので道を譲ろうと脇に避けたが、その男性も俺を避けようとしたのか同じ方向に避けてしまったためぶつかってしまった。


「すみません。軽いトレーニングも兼ねてここでモンスターを狩っていたんだけど、買い物を頼まれていたのを思いだして………」


ウチの奥さん起こると怖いんだよと最後にそう付け加えて頭をかく姿に苦笑しつつも安堵する。


モンスターの大群に襲われて逃げてきたわけでも無いようで安心した。


あっちでもこっちでも、やっぱり女性は強いんだな……。一生頭が上がりそうにないよ。


男性に手を貸し立ち上がるのを手伝いながらそんな事を考える。


「それは大変ですね。じゃあ早く帰らないと」


「そうするよ。改めてぶつかってしまって済まなかったね」


「大丈夫です。では、お気を付けて」


「はは、ありがとう」


軽く手を上げ去っていく男性を見送り、安置ポイントに付いた俺たちはそれぞれ身体を伸ばしたり座って疲れた身体を休めた。


この安置ポイントは入り口は一箇所しか無いため、モンスターが入ってきたとしても、大群では入っては来れなくなっている。


例え入ってきたとしても精々一気に入れるのはゴブリン三匹が限界だろう。


「余り長居は出来ないけれど、一旦身体を休めてから帰ろうか。


まだ先は長そうだし、そろそろ出ないと家に付く頃には真夜中だろうから」


「分かりました」


「今度は早目に来て最後まで行きましょうね!」


「アルバ様はダンジョンが気に入られたようですね。


その時は勿論私も同行しますよ!」


「ヴァレリオ卿が一緒なら心強いです!」


この先には何があるんだろう。


あの時の魔法はこうだった。


あの時の剣裁きはどうだった。


と、盛り上がる三人に少し外を見てくると言って安置ポイントを抜け出せば、俺が出てくるのを知っていたかのように最低限の防具を付けた騎士の二人が音もなく側に立っていた。


「どうでしたか?」


「それらしい影は無く、ダンジョンの外で待機している者からも何も連絡はありません」


「なら、可能性がゼロになったわけでは無いですが少しは安心できますね」


「…………ルイーナ様、さっきぶつかった男に何かされましたか?」


「何かって?」


「う〜ん……何もないならそれでいいですけど」


スンスンと何故か俺の匂いを嗅いで不思議そうな顔をされるが、さっきの男性はただぶつかってしまっただけで特に何も違和感は無かったが…。


だがその前に匂いを嗅ぐのを止めてほしい。


只でさえ汗をかいているのだから。


………何も起きないで誘拐犯が捕まってくれるとありがたいんだがなぁ。


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