第14話

「ダンジョン、ですか?」


「はい。ルイーナ様は剣術の腕は勿論、魔法の腕も着実に上がっています。


ルーチェ様もアルバ様も同様に魔法の腕が上がってきているので、ここらで腕試しも兼ねて行ってみませんか?」


”ダンジョン”又は”迷宮”


そこは様々な種族のモンスターが蔓り闊歩する場所。


ある日突然そこに現れるそれは洞窟だったり塔だったりと形は様々だ。


基本的にダンジョン内のモンスターはダンジョンから出ることはない。


ダンジョン内でしか取れない鉱石やアイテム。モンスターの素材や植物などを求めて”冒険者”と呼ばれる職に付く者達が訪れる。


この世界ではダンジョン内にいるのはモンスターでダンジョン外にいるのは魔獣で区別が付けられている。


そんな場所に、いつもの様に剣術を習っていればヴァレリオ卿がにこやかに行ってみないかと誘われた。


ちょっとコンビニに行かない?的なノリだった。


「ここから馬車で二時間くらいいった場所に低級モンスターしか沸かないダンジョンがあります。


そこなら十分攻略できる力がついてると思いますよ」


「ですが、ダンジョン内だと騎士団の方が入りづらいのでは?」


時間を改めて誘拐事件の話をしに再度ファウスト家を訪れた副団長さんからルーチェとアルバの護衛役だという騎士二人を紹介された。


今狙われている二人は近くの木陰で俺とヴァレリオ卿の手合わせを見ているから、近くにはいるだろう。


だが、だからといって現在鳴りを潜めている主犯格がいつ襲ってくるか分からない状況の中、ダンジョンと言う狭く襲うにはもってこいの場所に態々行く意味があるのかと思ってしまう。


自分の力がどれくらい役に立ち使えるのかは気になるが、自身の欲を優先してまで二人を危険な目に合わせたくはない。


「その点は大丈夫です。


ダンジョン内には一般の人間は入れないようギルドが認めた者のみに発行する専用のカードがないと入れません。


それに事前に登録されたパーティーメンバー以外の人物を連れ出した場合、即座にギルド並びに警備隊に連絡が行くようになっています。


なのでダンジョン内で誘拐なんて事は万が一にも起こりませんよ」


念の為騎士団の方々には格好を改めて付いてきてもらいましょう。


そう言って笑うヴァレリオ卿の顔は心底楽しみだと大文字で描いてるようだった。


そして、ダンジョンに行くことは最早彼の中では決定事項らしい。


「ルーチェとアルバが安全ならそれでもいいですけど………二人が行くと言えばですよ?


行きたくないのであれば無理強いはしないで下さいね?」


「勿論分かってますよ」


ルーチェ様ー!アルバ様ー!ダンジョンに行きましょー!


片手を大きく振り二人の元へ駆け寄っていく姿に、初めて会った時の威厳は何処に逝ったのかといいたくなる。


状況を理解できない様子の二人にダンジョンの良さや二人の魔法の腕の上達振りを話す姿はまるで子供の興味を引こうとする親戚のおじさんみたいだった。


「この調子だと明日にでもダンジョンに連れてかれそうだなぁ」


「であれば当日も我々が護衛として共にダンジョンに赴きましょう」


「………急に背後を取るのは止めてもらえませんか?


心臓に悪いので…」


「それはいけない。すぐに名医を連れてきましょう!」


「大丈夫なので連れてこないで下さい」


「ルイーナ様も、大変ですねぇ〜」


「だと思うなら少しくらい助けてくれてもいいんですよ?」


「ん〜、それはちょっと面倒くさ……じゃなくて前団長に意見するなんてそんな恐れ多いですよ〜」


「いま絶対面倒くさいって言い掛けましたよね?


寧ろ九割くらい声に出してましたよね?」


「そうでしたか〜?」


お分かり頂けただろうか。


今俺と会話しているこの二人。この二人こそがルーチェとアルバの護衛である騎士様なんだぜ?


一人は嫌味が通じない熱血タイプ……というよりお馬鹿っぽい騎士様


もう一人はのんびり自堕落なタイプの騎士様。


こんな二人でも騎士団での実力は凄まじいのだと副団長さんは言っていたが、実際に剣や魔法の腕を見ていないのでどうにも信じることが出来ない。


……いや、実力があるのは分かっているんだ。


隙がないし偶に見せる鋭い眼光は確かに強者の風格が全身から滲み出ていた。


だけどこうやって話してみると、何とも言えない。


頭では理解できていても何かこう……疑ってしまうんだ。


「ルイーナ様〜!お二人から許可を頂きましたよ!


早速明日にでも行きましょう!」


犬の尻尾よろしく手を振るヴァレリオ卿に苦笑し軽く手を振り返す。


やっぱりこうなったか……。


ヴァレリオ卿がこちらを振り返る前についさっきまで話していた騎士の二人は音もなく消えていた。


何故か俺以外の人の前には姿を見せない二人の為に、明日は護衛を宜しくとお疲れさまですの意味を込めてお菓子でも作って持っていこう。


どうせ今日の夜に昨日と同じ様に俺の部屋に来るだろうから、その時は温かな紅茶と何かしらの軽食を出そうかな。


その前に、ヴァレリオ卿の熱にやられて疲れ切った顔の二人をどうにかしないとな?


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