ヒロインと悪役の兄に転生しましたが、攻略対象に二人は渡しません!!

ペテン

第1話

「あ、ここってゲームの世界じゃん」


その事に俺が気付いたのは、部屋のベットで目覚めた時だった。


俺自身の記憶にある大人の俺の身体ではなく、小さな子供特有のプニプニな手にモチモチのほっぺ。


ベットから降りて鏡を見れば、そこに映るのは見慣れた日本人である俺の平凡な顔ではなく、将来イケメンになることが約束されていると言っても過言ではない程に整った顔立ちの子供だった。


青み掛かった黒髪に橙色の瞳。


着ている服もシンプルながら肌触りも良く上質なものであることが分かる。


それにこの部屋も、漫画や小説で溢れかえっていた俺の部屋ではなく高級なホテルの一室のようだ。


死んだ覚えはないが、頬を引っ張ってみても痛みを感じるし目覚める様子もない。


それに俺ではない、この身体の記憶ではここには彼女がいる。そして彼も。


コンコンコン…………カチャッ………


「失礼しますお兄様、おはようございます」


「………おはよう、ルーチェ」


「えっ……!おっ、お兄様……?」


「今まで返事を返してやれなくてゴメンな」


大きな若葉色の瞳を更に大きく見開き、信じられないと言った様子で両手で口元を覆う少女に苦笑を溢しつつ両腕を広げれば、彼女は涙を流しながら駆け寄り俺に抱きついた。


「お兄様っ……」


確かめるようにそう何度も兄を呼ぶ彼女を抱き締め返し、頭を撫でながらここにいると意味を込め何度も返事を返す。


彼女の名はルーチェ・ファウスト


乙女ゲーム『妖精舞踏会』のヒロインであり、俺の今世の妹である。


『妖精舞踏会』は王道ファンタジー系の乙女ゲームだ。


ヒロインのルーチェ・ファウストは神の愛娘と呼ばれる特別な存在であり、妖精と心を通わせる事の出来る力を持っている。


金髪に若葉色の瞳は神の愛娘であることの照明でもある。


ゲームの舞台は魔法学園


ヒロインはその学園に入学し、攻略対象達と出会い恋に落ちる。


学園では様々なイベントがあるが、このゲームをプレイしていたのは前世の俺の妹だったからそこまで詳しくはない。


俺が覚えているのは各攻略対象者のイベントが少しだが、唯一鮮明に覚えているのはゲームの終盤にある、所謂断罪イベントだ。


このゲームの悪役の名はアルバ・ファウスト


ヒロインにとっても今の俺にとっても、最愛の弟である人物だ。


神の愛娘として家族は勿論、沢山の人達から愛され大切にされて育ったヒロイン。


ある日彼とヒロインが拐われてしまう事件が起きた。


怪我もなく時に助け出された二人の元に両親が駆け寄るが、そこで更に事件が起こった。


姉のために幼いながら恐怖心を押し込み、泣くこともせず姉を慰め続けた彼を待っていたのは孤独だった。


駆け寄ってきた両親は彼ではなく姉を一番に心配し、優しい言葉を掛けたが彼には厳しい言葉を掛けたのだ。


『何故お前は姉を守れなかった』


『もっと優秀な子だと思っていたのに』


姉が彼は助けてくれた、支えてくれたと叫んでも両親はそれに耳を傾けようとしなかった。


愛を求めても誰からの愛も貰えない弟


愛を求めなくても沢山の愛を受け取れる姉


二人が決定的に離れた切っ掛けとなった物語だ。


その彼が物語の最後では公衆に晒され断罪される。


神の愛娘である姉を苦しめた罪はゲームの攻略対象者達の手でその罪を晒される。


そして彼を待つのは処刑か国外追放のどちらかだ。


………このゲームを俺はよく知らないが、それはあんまりだと思う。


子供が親の愛を求めることは当然で当たり前の事だ。


彼の過去に何があって、彼が何に苦しんでいたのかも理解しようとする努力もせず絶対的な悪だと決めつけ態々わざわざ公衆に晒されるのだ。


俺はそれが許せなかった。


何故、そうまでする理由がある?


その行為はただ単に攻略対象者達おまえらが満足するだけであって、ヒロインである姉は涙を流し弟である彼は残りの人生を奪われる。


それの何処がハッピーエンドだというのか。


イラストやストーリーとしては引き込まれるものがあるが、悪役キャラが余りにも不憫だとシャベッターでは良く嘆きのコメントが流れていた。


だがそれを、今の俺なら変えられるかも知れない。


今世の俺の名前はルイーナ・ファウスト


女性のような名前をしているがれっきとした男だ。


本来ならこのキャラは今頃死んで、過去のスチルでは顔のない名前だけのモブだ。


だが、そのルイーナは俺として今を生きている。


意図して行ったことではないが、この時点でもうこの物語は変わってしまった。


一度狂った歯車はもう元には戻らない。


俺が死ねば戻るかも知れないが、そんな気は更々ない。


ならば狂わせたのなら徹底的に物語を替えてやろうじゃないか。


弟は悪役にさせず、妹の攻略対象キャラ達には渡さない。


好きだの愛してるだのしか囁くことにしか脳のない無能な奴等から弟と妹を護る。


どうしてもと言うのなら、兄である俺を倒してからにしろ。


俺はお前らは勿論、この物語の全てに抗ってやる。


「強くなるよ。お前達を護れるように」


胸元に顔を埋め涙を流す妹のルーチェと今此処に居ない弟のアルバに誓う。


そして攻略対象キャラ達とこの世界に宣戦布告する。


物語の通りになんかさせない。


二人は必ず俺が幸せなハッピーエンドを迎えさせる。


止められるならやってみせろ。


抗って抗って、その全てをぶっ壊してやる。

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