蕎麦好きだけど天ぷら嫌いな僕が、妻に『緑のたぬき』を食べさせられた話。

大場里桜

蕎麦好きだけど天ぷらが嫌いな僕が、妻に『緑のたぬき』を食べさせられた話。

 どちらにしよう?

 コンビニのカップ麺の棚の前で悩み立ち尽くす。

 僕の目の前には『赤いきつね』と『緑のたぬき』。

 こうして悩んでいるのは、妻にカップ麺を買って帰ろうと提案されたからだ。

 関東出身の僕は蕎麦が好きだけど、関西出身の彼女はうどん派だ。

 自宅で作る場合は二度手間になるから、どちらか一方になってしまう。

 だけど「カップ麺なら好きな方を選べるよね」と提案されれば受け入れざるを得ない。

 普通であればうどん好きの彼女が『赤いきつね』を買って、蕎麦好きの僕が『緑のたぬき』を買えば済む事だ。

 だけど、それが出来ない……僕は天ぷらが嫌いなんだ!


「蕎麦好きだったよね」


 妻がさっと『赤いきつね』と『緑のたぬき』を買い物カゴに入れる。

 あっ、ここのままだと僕が『緑のたぬき』を食べる流れだな。

 早く決断しなかった僕が悪いのだけど。

 うどん好きの彼女は絶対『赤いきつね』を選ぶだろう。

 そうすると、残りの『緑のたぬき』が妻が選んだ僕の夕食だ。

 蕎麦は好きなんだけどなぁ……


 *


 帰宅後、妻が二つのカップにお湯を注ぎテーブルに置く。

 私の前に置かれたのは当然の事だが……


「はいっ、緑のたぬき」


 予想通り、僕の目の前に『緑のたぬき』が置かれる。

 折角、蕎麦が好きだって覚えていてくれたのに、いまさら天ぷらが嫌いだから本当は『赤いきつね』が良かったなんて言えないよな。

 諦めよう、嫌いだけど食べられない程ではないのだから。

 意を決して蓋を開けた。


 目の前に広がる一面の茶色が視線を奪うーー


「どうしたの? お揚げ好きだったよね?」


 そう、僕の『緑のたぬき』に何故かお揚げが入っている。

 麺を覆うお揚げをめくってみたら、確かに中身は蕎麦。

 もう答えは出ている……作る前に妻が僕が苦手な天ぷらと、お揚げを入れ替えてくれていたのだ。

 僕が天ぷらが苦手な事も覚えていてくれたのだ!


「あぁ、おいしいな」


 僕は幸せを噛み締める様に、お揚げにかぶりついた。

 一人でも美味しい『赤いきつね』と『緑のたぬき』だけど。

 もっと美味しく楽しめる時もあるんだ。

 お互いを理解し合える大切な人と一緒ならばーー

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蕎麦好きだけど天ぷら嫌いな僕が、妻に『緑のたぬき』を食べさせられた話。 大場里桜 @o_riou

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