第2話 キャラクタークリエイト



≪おはようございます、ハリバナギ様≫

 

 目を覚ますと共に、すぐにそんなアナウンスが脳内に響いた。

 ゆっくりと上体を起こす。

 

「……あれ、生きてる?」

 

 ふわふわとした浮遊感の中、ごしごしと寝ぼけ眼を擦った。

 焦げ付いたように破けている制服の袖を見て、ハッとなる。

 

「……夢じゃ、なかったんだな」


 空はすっかりと赤くなっていた。

 どうやら、もうじき日が暮れるようだ。

 

 不意に、気になって屋上全体を見渡した。

 特に、これといって変な様子はない。

 

 ……あの男の死体、あとゴブリンの死体も、どっかに消えたのかな。

 と思ったが、どうやらゴブリンの死体があったところには変な石ころが転がっているみたいだった。 


 てくてく歩き、黒い石ころを拾った……ところで、またもアナウンスが脳に響く。


≪これより、キャラクタークリエイトを開始します≫


 ……キャラクタークリエイト?

 不思議に思う俺に、アナウンスは答えた。


≪これより、世界にはダンジョンや魔物などが溢れ返ります≫

≪そんな世界では、普通の人間は生きていけません≫

≪故にこれより、貴方に力を授けるのです≫

≪貴方の得意なゲームでのキャラクタークリエイトと同じものだと思って下さい≫


 な、なるほど……。これはこれはご親切な。

 俺の心を読むように話すというか、実際俺の心を読んでいるのだろう。得体の知れない誰かが。


 まあ、話が円滑に進むのなら別に良い。

 今更、この状況に対して驚くということもない。

 

 ゴブリンに襲われたというインパクトの方が大きいし、何より三ヶ月前の〈アナウンス〉の布石がある。

 あまりにも唐突なイベント……という訳でもないからな。

 

 アナウンスは更に続く。


≪まずは、貴方を支援する神様――スポンサーをお決めください≫


 スポンサー……?

 職業やスキルの選択かと思ったら、斜め上から切り込んでくる。


≪選択したスポンサーによって、得られるスキル・職業、また上昇するステータスは異なります≫

≪スポンサー枠を増やすことは可能ですが、現時点では一体しか選択できません≫

≪慎重に選択して下さい≫


≪貴方への支援を希望する神様のリストを表示します≫

 

 すると、ピコンと弾けるような音と共に視界に青く透き通ったパネルが浮かび上がった。


LIST───────────────────―

──No.1─────────────── 

憤怒の火炎猿 ――好感度:16

――特徴――

怒りの象徴。朽ち果てるまで燃え尽きぬ灼熱を操る大猿。

豪快な一撃や圧倒的な攻撃力を得意とする。

攻撃力上昇のスキルや、火力に秀でた職業を得られるだろう。

──────────────────―


──No.2─────────────── 

惨憺たる囚われ人 ――好感度:11

――特徴――

地上最悪の罪を犯し天の牢獄に囚われた囚人。

元は人間であるが、”特別で奇妙な力”を使えるという。

トリッキーな身のこなしを得意とする。

他では得られない不可思議なスキル、職業を得られるだろう。

──────────────────―


──No.3───────────────

雷鳥 ──好感度:89

――特徴――

かつていた飼い主を探し空を泳いでいた鳥が、雷に打たれて変貌した姿。

光のような速度、そして電撃による攻撃を得意とする。

速度上昇系のスキルや、電撃に関する職業を得られるだろう。

──────────────────――


──No.4────────────────

微笑む飼育係 ――好感度:55

――特徴――

あらゆる動物を飼いならし、従える元遊牧民の飼育人。

あらゆる方法を用い、魔物を手懐けることを得意とする。

テイム系のスキル、また職業を得られるだろう。

──────────────────――

──────────────────―────


 どうやら、この四体の中から選べ、ということのようだ。

 一際目についたのは……やっぱり【雷鳥】だろう。 


 そうか……と思う。

 あのとき俺に力を貸してくれたのは……お前だったのか。

 違ったら恥ずいけど。

 

 だったらここは【雷鳥】を……そう思うが、いや待てと自分を抑制する。

 例えば、この先世界が変わったとして。それでもまだ尚、俺の人間ランクFという評価が変わらなかったら。その時、俺と行動を共にしてくれる人間はいるのか? と。

 恐らくいない。殺人鬼なんて称号を持っている人間と一緒に行動するなんて、俺でも無理だ。

 

 だとするとここは――こいつ一択だな。


「【微笑む飼育係】で頼む」

 

 例え俺と行動を共にしてくれる”人間”がいなくても、”魔物”がいればそれでいい。

 ゲームには、時たま”テイマー”という職業がある。魔物を捕まえて、その魔物と共に戦う職業だ。つまり……俺の想像通りの”テイマー”になれたらその時は、魔物と共に疑似パーティーを作れることになるのだ。

 

 こいつを選択しない手はない。 


 すると、奇妙な光が俺を包み込んだ。


≪【微笑む飼育係】が貴方のスポンサーに就きました≫

≪【憤怒の火炎猿】、【惨憺たる囚われ人】は、貴方に愛想を尽かして出ていきました≫

≪【雷鳥】は、まだ貴方のことを見守っていたいようです≫


 すまん雷鳥……。

 胸がきゅっと痛む。

 

 いつか、俺のスポンサー枠とやらが増えたその時は、必ずお前を選ぶからな。

 心のなかで誓う俺を、アナウンスは冷徹に急かした。


≪職業適性診断を開始します≫

≪――完了≫


≪職業【テイマー】となりました≫

≪スキル【テイム】【魔物管理】を習得しました≫


 ひとまずは順調だ。

 俺の予想通り、【テイマー】になることができた。 


 が、ここでまさかの事態が発生した。


≪雷鳥からの提案です≫

≪サブ職業【暗殺者】が提案されました≫

≪承諾しますか?≫

≪尚、サブ職業はいくつでも就くことが可能です≫


 おいおいまじかよ雷鳥……。

 そう思う。どうしてそこまで俺を好むのか……分からない。一切わからない。

 でも、ここは喜んで享受しよう。ありがとう雷鳥。流石雷鳥。


「承諾だ」


≪サブ職業【暗殺者】となりました≫

≪スキル【隠密】を習得しました≫


 スキル【隠密】……恐らく魔物から視認されにくくなる能力だろう。

 雷鳥……まじで有能すぎる。 


≪キャラクタークリエイトが完了しました≫

≪戦士用ステータスを確認しますか?≫ 


 ここで言われているステータスってのは、きっと人間ランクのそれとは関係ない、ファンタジー的なステータスのことだろう。

 

 思っていると、想像通りのステータスが青いパネルに映った。

 

Status──────────────────―

針葉 凪 17歳 男 人間 ランク:1

職業:テイマー サブ職業:暗殺者


MP31/31

身体力:1 〈0/10〉

精神力:1 〈0/10〉


素質:1【F】

−−Skill−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

隠密【I】 テイム【I】 魔物管理【I】

−−ExSkill−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

【 】

──────────────────────


 見事にオールF……。人間ランクFの弊害なのか、はたまたみんなこうなのか……。それに。


「エクストラ、スキル……?」

 

 なんだ、これ。

 気になるが、【】の中身が透明になっていて見えない。 


 ……持っているけど、まだ使えない、みたいな?


≪否。エクストラスキルは、貴方が最初に成し遂げた『偉業』によって芽生える、特殊スキルにございます≫

 

 ……俺が最初に成し遂げた、偉業?

 聞き返すが、それ以上返答はなかった。


 まあ、おいおい分かることだろう。

 今は放っておく。

 

 レベルの表記もなし……か。

 ランクがレベルの役割ということか? まあ、まだ分からないか。

 

 取り敢えず……俺が弱いってことは何となく分かる。

 オール1って、多分、相当弱いと思う。……うん。

 

 ゴブリンに勝てたからって粋がって奇行に走るなんて真似は間違ってもないようにしよう。

 

 と、ひとまずこれでキャラクタークリエイトは完了したらしい。

 この後は何をすればいいのだろうか。


≪好きにして下さい。ここからは、何をするのも貴方の自由です≫

≪それではまた――”準備期間”を、お楽しみ下さい≫

 

 とのことらしい。準備期間……か。そういえば、あのゴブリンが出現した時「ラウンド1」がどうたらと言っていた気がする。ということは……ラウンド2も存在するのだろう。

 

 ラウンド1はゴブリンだった。だとしたら、ラウンド2は一体何が来る?

 考えたって仕方ないか。

 

 取り敢えず……今は世界がいかに変化したか、それを知ることから始めるとしよう。

 

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