第7話  3kill

第7話  3kill

    烏間さんが死んだ?

地面がグラグラして、自分がいる場所がわからない。

 この経験は2度目だ。烏間さんがぴくりとも動かないのを見て叫び出しそうになる。

  何で死んだ?

 何が何でどうなってた?

  何で何が何にどうなった?

 どうなってどうなる。

  何?何?何?

口から大量の疑問が意味不明な音に凝縮されて、口外にもれた。

  

  ――――「私語厳禁」――――

 

 バチッと首すじに痛みが走る。

 反射的に手が首すじにのびた。

 そこで、兄さんが自分の肩に手をおいていることに気づいた。

―「……ヒントを公開するつもりだったんですが」――

 

 ―――「そんな気はなくなりました」――

 いつもより低い音が機械から聞こえる。 

 ―――「皆さん、調子のらないでくださいね」―

 一瞬、怒りが込み上げてきたが、恐怖でそれは打ち消された。

 ――「では」――――

 というと同時に轟音が鼓膜を破る勢いで耳に入ってきた。どこからかきた衝撃で一瞬宙に浮いた。

 ――「頑張ってくださいね、…ふふっ」――

 

 館内放送は終わったがまだ誰も動こうとしない。

  そのうち、白衣の人が烏間ちゃんの死体シタイを持ち上げた。

  死体?死んだ?……………………………………

 「あ、うぅ……ぐ…がああぁぁ…………………………いやだあぁぁぁ」

 兄さんがさっきから大丈夫大丈夫と言っているが、何が大丈夫なのかわからない。

 

 頭の中がショートして、焼き切れてしまいそうな気分になる。

 

 ――――――――――――――――――――――


クソッ

 まさか、反抗されるとは思わなかった。

 あの部屋以外で人を殺してしまうとは……

流瑠の精神状態が不安定だ。このままでは、廃人になってしまうかもしれない。 

 

 …………まぁ、いい………………

 今回は自分が狼だ、さっさと事を起こしてあの部屋にいれてしまおう。

 

……っていうか、ルルマ無能………………

 

「はあっ」という小さなため息は誰にも気づかれず、空気にとけていった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

  知らない…いや…知っている天井だ。


 ベッドから身を起こすと、まず、巫女装束を脱いで、着替えの服をきた。

  なんて事はない、黒いTしゃつにジーパンだ。

  

 さっと着替えを済ませると、扉を勢いよく、開けて外に出る。

 「「うわぁ!!」」

 反動で返ってきた扉のノブに手をかけ、勢いよく閉めた。 

 扉の横に人がいた。 

 狼かもしれない…いや狼だろう。

 …… これは、まずい……

死を覚悟して、この部屋から出て逃げるしかない。

 ノブにもう一度手をかけた瞬間、外から呻き声が聞こえてきた。

 「ううぅぅ…」

 狼が何かしたのか?

 いや人は一人だったはず……

 扉を見ると、銀色のボタンみたいなのがある。

 「もしかして、しかけ?」

 色々いじって見ると、パカっと銀色のボタンの上部が開いた。

 蓋なのか?

蓋が隠していた部分には貼ってある。

 そこには、小さな松野さんがいた。

 「……なるほどカメラになっているんですか」

 小さな松野さんは腕組みをして、呆れたような表情をしている。

 小さな松野さんが口を開いた瞬間、ドアの向こうから「あー、大丈夫ですか?」と扉の向こうから聞こえた。

  「いだい……」と若干、鼻声になった千ちゃんと声もきこえる。

 驚きで、狼がいるかもしれないことも忘れて、バンッと開けた。

  その扉は再度、西成千に直撃した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ようやく泣きやんだ妹は、服の袖で涙を拭くと烏間の手をしっかり握って

 「チーム組みませんか?」ときいている。

 若干、烏間は引いていおり、俺に助けを求めるように見てきた。

 「あー、一緒に探索…しませんか?」

 ……やっぱり、敬語は苦手だ……

 人生で敬語を使う機会が 余りなかったのが原因だと自分では思っている。

 「荒木さん、別に慣れないなら敬語じゃなくてもいいと思います。」

名取が気を遣ってくれた。 

 「さんきゅー」

 とお礼を言うと、「いえいえ」と返ってきた。

  なんというか名取からは落ち着きを感じる。

 「あーもう、 いたっ」

  落ち着きがまったく見れない西成が松野に赤くなっている鼻をアルコール綿で消毒されている。

 「はいはい、動かないでねー」

 松野はやれやれという顔で、白衣のポケットから絆創膏を取り出し、西成の鼻にペタッと貼り付けた。

 

 …………何か、平和だな…………が、これは確実に嵐の前の静けさって奴だろう…………何があっても…妹だけは守ってやらなくちゃ…

 


―――――――――――――――――――――――

 

 「え、えっと、じゃあ、私とルルさんとルルマさんでチームを組みます。」

  松野さんをチームに誘おうとしたら、ちょっと怒った感じで、ルルマに「俺が入る」と言われてしまった。

 ……何か悪いことをしてしまったのだろうか……

  松野さんはやれやれといった表情で、また今度の機会にしよう、と言われた。

 

 …………もしかして、私、嫌われてる!?……

 

 とそんなことを悶々と考えつつ、昨日の探索の続きで武器庫を調べていった。

  「へぇー、ナイフが七つも飾ってあるー」

  ルルがナイフに触ろうとすると

  「危ない!」

  と、ルルマがそれを遮る。

 そんな感じのやりとりが数回続き、まったく探索がはかどらない。

 みかねた私はルルに、武器庫にあった西洋の鎧の小手部分を取って見せた。

 「ルルちゃん、これつけてみる?」

 「……?どうして?」

 「軍手の代わりとして」

 ルルは西洋の小手を受け取ると、装着した。

 「何か、心強い感じするね」

 ルルが人懐っこい笑顔をうかべる。

 「いい感じ?」

 「うん」

 「なら、よかった。」

 ルルマさんも特に文句は無さそう…

 ルルちゃんが西洋小手をつけているのを見ても何も言わなかったし

 探索を続けていくと、日本刀が飾ってある横に薙刀があることに気づいた。

 お婆が幼い頃から教えてくれているので、今ではかなり上手に扱うことができる。

 そっと手に取ると、練習用にはない重量感が手にきた。

 試しに数回振ってみようとすると、天井に先があたってしまう。

 「うーん、室内で使うのにはむいていないかな」

 リーチが長いのがメリットだけれど、ナイフを隠し持たれていたりしたら………いや…でも威嚇にはなるだろう。

 刃の部分を布でぐるぐる巻きにすると、何故か置いてあった柔道着の帯で腰に薙刀の刃を下にしてくくりつけた。

 「護身用の武器にしては大きすぎじゃない?」

 ルルマが薙刀を見て言った。 

 「いや、威嚇するためにです。」

 「あー、なるほど」

「んー、黒いTしゃつに薙刀は何かシュールかな」

 普通の洋服に西洋小手もなかなかシュールだと思うな…

 「じゃあ、明日は巫女装束を着ます」

 「いいね、カッコいい烏間が見れそう。」

 「たのしみー」

 笑った顔がとても似ている…兄妹だからかなぁ…

 私はひとりっ子だから、兄妹の存在を感じたことがないがルルマさんはルルちゃんの事をかなり大事に思っているようだ。

 死んでほしくないなと思う。

今回の被害者は誰だろうから?

  自分ではあっては欲しくはないが、誰であっても欲しくない。

 「私の目標は誰も死なせないことなんです!」

 「どうした、突然?」

 「?」

 あぁ、やってしまった。

 これでもし私が狼になったら…死を認めるしかない。

 「なんていうんでしょうか、みんなで脱出する方法を最優先に考えて…」

 「甘いよ、烏間さん」

 「兄ちゃ…そんな言い方はないって」

 「俺は妹が大事だ、他の何を差し引いても…」

 「……だから、みんなで一緒に…」

 「…ちがう……俺は人殺しにでも何にでもなってやるって言ってんだよ!」

 やはり、家族の命と他人の命なら天秤は家族の命に傾いてしまうのか。

 「わかりました…じゃあ私一人でみんなを助けようと思います」

 ルルが西洋小手を握り締めたせいで、ギリギリと不快な音が耳をつく。 


   もう、半日が過ぎようとしている。

  狼はもう、動き出しているだろう。

   


  …………狼が羊を殺せなかったら……狼は……


 そこまで、思いついた瞬間キッチンから、「お昼ですよー」とラヒの声が聞こえた。


―――――――――――――――――――――――

 

   ランチタイム兼報告会がはじまった。


  「あのー、これ何かわかる人います?」

そういうとルルマがいくつかの小瓶をジャケットのポケットから取り出した。

 

 小瓶のラベルには、H2SO4 HCL NaOH2 C2H5 OH

Ca(OH)2 HNO3 と書いてある。

 自分が見ていない間に回収したのだろうか。


  「うーん、これは……」

  松野さんが顎に手を添えて答える。

 「左から、硫酸、塩酸、水酸化ナトリウム、アルコール、水酸化カリウム…………と硝酸ですね。」

 どうやら、ただの水ではなかったらしい。  

 「劇薬じゃないですか!」

 ラヒが驚く。

  「これは、…かなり危ないので預かることにします」

  …アルコールは分かる…でも、塩酸以外聞いたこともない薬ばっかり……

 「これは…色々危険だけれど、武器には使えそうに無いかな。」

 千ちゃんはどういうものか分かっているらしい。

  「千ちゃん、私より若いのに全部わかるの?凄い!私まったくわからなくて……」

  千ちゃんの顔が引き攣ったように見えた、何故だろう?

 「あのー、」

 「名取さんどうしたんですか?」

 名取さんが少し困ったような顔をしている。

 「西成さんは、22才ですよ。」

   あっ、そういうことか、

     烏間は自分の失敗を悟った。

 「あっ、えっと、千ちゃんごめんなさい。」

 「いいよ、別に気にしてないし…」 

 ふてくされた態度でそう呟くいた。

  「いや…絶対…」

 ラヒ君が心の声をらしてしまった。

  「絶対…なに? 西島君」

 凄い剣幕でラヒ君が睨まれている。

 「す…すいませんでしたっ!!」

  気の毒になるほど怯えているのが見てとれる。

  が、千ちゃんは許すつもりは毛頭、無いらしく未だラヒ君は睨みつけられでいる。

 「まぁまぁ、西島も反省しているようだし、許してあげなよ。」

 松野さん、ナイス!

 ぐっと親指を押し上げると、松野さんは保護者然とした表情で親指を押し上げた。

 「つぎ、いらない事言ったら許さないから」

 もう一度ラヒ君を睨みつけてから、千ちゃんはラヒ君から視線を逸らした。

 …もう、松野さんが千ちゃんの保護者にしか見えない……

 心の中で松野さんにエールを送ると、爪楊枝で唐揚げを突き刺して食べた。

  「ふん…まぁまぁかな」 

 衣がもっとカリッとなっていてほしい。

  つぎは割り箸を割って、おでんの大根を食べて見る。

  「ほぅ、これはなかなか」

 大根によく出汁が染み込んでいる

  これは及第点、めっちゃ美味しい。     何日間も出汁の中に封印されたと思われるちくわ

   は大根よりは美味しくない。

 とりあえず、おでんの大根を食べまくった。

   「ごちそうさまでした。」

 ふぅ~美味かった。

   「いただきます。」

 隣で名取さんが合掌して、カレーライスを食べ出した。

 いつのまにかみんなが食べだしたので、キッチンは静かだ。

 「あのー、何か世間話でも…」  

自分だけ、何もすることがなく手持ち無沙汰になってしまったので、名取さんに話しかけた。

 名取さんは口の端についたカレーを紙ナプキンで拭くと、このレトルトカレー思い出があるんですよ

 と話し始めた。

 「この、レトルトカレー名前のとおりとても辛くて」 

 空の袋のパッケージには、激辛カレーとても書いてある

  これで辛くなかったらパッケージ詐欺だ

 「まだ20代くらいの時に、まだ就職したばっかでしたかねー、共働きの妻が私より先に帰った時に「自分、料理下手くそだから」って言いながら炊き立てのご飯にルーをかけたのを一緒に食べていました」 

  目を細めながら、懐かしむように右手の薬指をさすっている。

 「じゃあ、名取さんは料理が得意なんですか?」

 「はい、得意ですよ。これでも三つ星シェフです。」

 「え、それマジですか?」

 ラヒ君は執事喫茶の店長…とか思っていたに違いない。

 ふと、千ちゃんを見ると、驚きでインスタントラーメンを食べる手が止まっていた。 

 「えっと…あの、いい間違えました。三つ星ホテルのシェフです。」 

 なんとも言えない空気が広がる。

  いや、充分凄いけど…

 「えっと…ホテルの名前は?」

 松野さんが紙皿を重ねて片付けてくれている。

  「ありがとうございます、松野さん 名前は羊光ホテルです。景色が綺麗なんですよ。」

 「あっ、そのホテルきいたことあるーあれでしょ、えっと優香ちゃんがCMに出てるやつ。」

  「そうそう、それです。」

 そう言いながら名取さんはカレーを食べきった。

  「はい、お茶」

 お茶が入った紙コップを千ちゃんが名取さんに渡した。

 「あっ、ありがとうございます。」

 名取さんは勢いよく名取はお茶を煽った。

  「ごちそうさまでした」

 と言って紙コップをゴミ箱用のビニール袋に入れて、そこからは机を拭いたり、ゴミをビニール袋にまとめたりしている。

 「あっ、そういえば図書館爆破されたの聞いてないよね?」

 松野さんが少し信じられないようなことを言っている。

 「何があったんですか?」

 「いや、えっと烏間さんが寝ている間に図書館が爆破されているのが発見されたんだよ。」

  「え、誰が見つけたんですか」

 「えっとー、名取さんだったかな。」

 「名取さん、その話ほんとなんですか!?」

 「あ、名取さんならさっきお手洗いにいってた。」

 ルルちゃんが食後のコーヒーを飲みがらそう言う。

  仕方ない、話を聞くために待ちますか。


 ――――――10分経過――――――――


   「遅くないですか?」

  「いや、きばっ……頑張っているかも」

 

  「私、見てくる。」

 

 そういうと千ちゃんは走ってキッチンを出ていった。

 私は気づいた、これはいわゆるお約束だと

 

    「名取さん……」

 自然と涙が出てきて、急いで顔を拭った。

 

 薙刀の柄を強く握りしめ、覚悟した。   


 狼を自分の選択が殺すかもしれない      ということを

  


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 日曜までには1話以上投稿するようにします♪

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