2-3 実家のネット環境


「バーチャん。ネット使わしてくれ。」


 電話を切った俺は、仏間でPadを操作しながらくつろいでいるバーチャんに声をかけた。


「このPadはワシが使っとるで、お爺さんの書斎のパソコンを使え。」


 バーチャんは手に持っていたPadを渡さんぞとばかりに胸元へ抱え込みながらも、パソコンの在りかを教えてくれる。


「若いのう。朝から鑑賞でもするんか?」

「…… 朝からしないから。」


 実家のインターネットは、俺が高校時代にバーチャんと話し合い導入した。

 大学に進学する際には、ずいぶんとお世話になった。


 もちろん鑑賞でもお世話に…


 げふんげふん


  とうじのおれは

  みせいねんなので

  かんしょうは

  できなかった

  (棒読み)


 ネット環境には、俺が大学進学する前にバーチャんにも慣れてもらった。

 大学在学中にはバーチャんもメールを使えるようになり、就職留年の相談で帰省した際にはパソコンが新しくなっていて驚いた。


 一番驚いたのは、8年前に淡路地震で帰省した時だ。


 8年前。この淡路を地震が襲った。

 俺の幼い記憶に残っている26年前の『阪神淡路大震災』の再来かと思われたが、被害はあれ程では無しに済んだ地震だった。

 当時、電話でバーチャんと話す限りではバーチャんには何も被害がなかった。

 入社して直ぐの俺は、前課長の厚い配慮で出張扱いで帰省することができた。


 その帰省で俺が見たのは、実家のネット環境にWi-Fiまで導入されバーチャんが仏間で茶を飲みながらPadを使っていたことだ。

 当時の俺でも持っていなかったPadをバーチャんが使っている姿は、まさに驚く姿だったのだ。


 あまりにも進んだネット環境をバーチャんが使っていたのは、まさに驚愕だったのを覚えている。



「お邪魔しますヨット。」


 俺は廊下の突き当たりにある、お爺ちゃんが使っていた部屋の戸を開ける。

 持参したノートパソコンと共に部屋の中に入ると大きめの液晶テレビに目が行く。

 30インチを越えるで在ろう液晶テレビだ。


「でかいな…」


 俺が住む都内の部屋でも24インチ。

 6畳程度のワンルームなら十分なサイズだ。

 お爺ちゃんの部屋は見渡す限りは6畳程度か。

 俺の部屋と同程度で30インチ越えだとこんなにも大きく感じるんだな。

 などと思いながらパソコンを探すと、液晶テレビの手前に置かれた座卓にノートパソコンが置かれているのを見つけた。


 座卓に向かって座り、ノートパソコンを開けてみると即座にsleep状態から復帰した。

 ユーザーIDとパスワード要求のダイアログが出てくる。


「バーチャんに聞かないと…」


 そう思っていると閉めたはずの戸がガラリと音をたてて開き、ちょっと慌てた感じのバーチャんが入ってきた。


「ユーザーIDとパスワードは使わせん!」

「えっ!」


「ユーザーIDはワシのじゃ。」

「まぁ、確かにそうですが。」


「二郎はノートパソコンを持ってきとるか?」

「一応、持ってきたけど。」


 するとバーチャんは座卓の上のノートパソコンからLANケーブルを抜き取る。


「ネットは使って良いが、ユーザーIDとパスワードはダメじゃ!」


 そういって座卓に置かれたノートパソコンの蓋を閉じる。

 閉じられたノートパソコンを見ると、座卓の前に据え置かれた液晶テレビに繋がってるような…


「ユーザーIDなど使わせたら、ワシの鑑賞までバレるでのぅ」


 そう言って、バーチャんはニヤリと笑う。


 ごめん。

 バーチャんの趣味嗜好まで知りたくありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る