2-2 テレワークのすすめ

 

 出社時間の9時になったのを見計らい、会社に電話をして課長に繋いでもらった。


「会社から電話が来たら、折り返し電話するのは当たり前だろう。」

「…」


 こいつは朝から何を言い出すんだ?


 俺は有給休暇の申請を出して、このパワハラ課長は受理したんだぞ。

 そして今の俺は有給休暇中のはずだ。

 それを会社からの電話に出ろだの、折り返し電話しろだの頭がおかしいんじゃないのか?

 いわゆる『あたおか=頭おかしい』奴だったのか?


「とにかく、有給休暇の申請は取り消しだ。今すぐ帰って山田のサポートをしろ。」

「……」


 やっぱり頭がおかしいようだ。


「取り消しの理由を教えてください。」

「そんなこともわからないのか?!」


「申請して受理されたものが取り消されるんです。理由ぐらい知りたいです。」

「理由は人手不足だ。」


「新しく仕事が発生したんですか?」

「はぁ?とにかく人手不足なんだ!」


 はぁ~。ため息しか出そうもない。


「今すぐ戻って仕事をしろ。山田の仕事が増えるだろうが!」

「言わせてもらいますが、あなたは私の有給休暇申請を受理しました。受理したその場で、山田君を担当者として私の仕事の割り振りを指示しました。」


 論理的に話をするしかない。


 以前から感じていたが、パワハラ課長は自分の感情を主体に話をしてくる。

 これに対応するには、こちらは感情を押さえて論理的に会話をするしかない。


「それがどうした。」

「既に課長は山田君を担当者として定めることで、対応策も実施しているのです。」


「そうだ。」

「この時点で、山田君に担当させたことで課長は対応策は万全だと考えている筈です。」


「まぁ、そうだな…」

「次は山田君で対応が出きるか否かです。」


「…」


 よしよし課長が話を聞き始めた。


 課長には問題が無いようなトーンを交えて、今の状況を説明する様に話し始めてみる。

 これで少しでも、パワハラ課長が冷静になれば良いのだ。


「課長が人選した山田君。彼を担当にしたのは課長であって、それは間違いではない筈です。」

「ま、まぁそうだが。」


 あくまでも、パワハラ課長に間違いはなかったことを強調気味に話を進める。(本当は間違いだが決して口にしない)


「その山田君をサポートするとなると…彼には無理だったと?彼では人材として足りなかったと?誰が彼を担当にしたのか…」

「…」


 どうやら課長は気がついたようだ。

 山田を担当者に決めたのは、パワハラ課長だ。

 人選に間違いがあれば、それはパワハラ課長が問われることになる。


「山田君を担当にした是非は置いといて、今は山田君のサポートが必要なんですね?」

「そ、そうだ。」


「テレワークじゃダメなんですか?」

「テレワーク?」


 パワハラ課長が口にする一方的な有給申請取り消しではなく、現状の解決策を提案してみる。


「今は実家ですが。ネット環境もあるしパソコンも持ってます。テレワークでなら対応できますよ。」


 昨年の今頃は、前課長の進めもあってテレワークが可能だった。

 それをこのパワハラ課長が着任して、テレワークを批判し始めたのだ。


 ついには昨年末にパワハラ課長が発したのが、


『年明け以降はテレワーク中止』


 そして年明けから課の連中は毎日出社し、課長からの無理難題をこなすために連日の終電帰りが始まったのだ。


「ちょっと待て。山田に替わる。」


 パワハラ課長の言葉に続いて、山田と課長が会話しているらしき声が聞こえる。


 しばらく待っているが、なかなか課長の声が戻ってこないし、山田の声もして来ない。

 そろそろ3分を過ぎそうなので、俺は電話を切った。


 必要ならば向こうから電話してくるだろう。

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