第56話 オークキング2
「ブゴアアアアアーーッ」
オークキングは、その手の巨大な棍棒を振り上げた。
雑な作りの棍棒だけどその長さは2メートル以上あり、中に大人が1人すっぽりと入れるんじゃないかという巨大さだ。
その巨大な質量を、ぶおんと振り下ろす。
「みんな、避けて!」
叫びながら、後ろに飛び退る。
ドオオオオオン、と何かが爆発したような大音量と共に、棍棒が地面にたたきつけられる。
あんなのが直撃したら、人間なんてひとたまりもないよ!
「オークとはいえ、さすがキング。とんでもないの!」
「お姉さま、怖いの怖いの! びっくりしたの!」
「これはしっかり連携してかからないと、まずいかもしれませんね」
同じく後退してきたジゼルちゃんとも合流し、みんなで集まり態勢を整える。
そして、オークキングがそんなボクたちを見て、にたり、と笑った気がした。
「ブフオオオオッ!」
オークキングがひときわ大きな声で鳴くと、後ろからオークの一団が現れる。
現れたオーク達がなにやら呟くと、その頭上に現れたのはごうごうと燃える火球。
「やっぱり出て来たね、オークメイジ」
そして、その火球は次々とこちらに向かって飛んでくる。
「みんな集まって。結界を張るよっ!
唱えると現れたのは、輝く光の結界。
結界に阻まれて、飛来する火球がつぎつぎと爆発する。
ふぅ、と一息つくけど、リリアーヌが焦った声を上げた。
「まずいのじゃ、シルリアーヌ! 前のオークロードの時と同じ展開ではないか?!」
次々と飛んできては、結界に防がれるオークメイジの火球。
こちらに攻撃は当たらないけど、こっちは動けないし、不用意に結界から出るのも難しい。
オークキングが、にたにたとした笑いを浮かべながら近づいてくる。
ぶんぶんと棍棒を振り回しながら近づいてくるオークキングは、自分の勝利を確信しているように見えた。たぶん、これまでも何人もの敵を葬ってきた、彼らの必勝パターンなんだろうと思う。
「だけどね、ボクだってなんの考えも無いわけじゃないんだよ」
周囲を見回すと、ボクとリリアーヌの合体精霊術で作り出した氷は辺り一面を覆っていた。オーク達の足元は厚い氷で覆われ、数十匹のオークが氷漬けになっている。
ボクたちの足元を見下ろすと、ボクたちの足元には氷が張っているけど、結界の周りはオークメイジの放った火球の熱で氷が溶け、茶色い土や草がのぞいていた。
「思った通りだね。いくよっ、
降り注ぐのは、神々しい白い光を放つ何条もの稲妻。
走る光が十匹近くのオークを直撃し、またいくつもの雷撃が地面を覆う氷へと落ちる。そして落ちた雷撃は氷を伝わり伝播し、辺り全てのオークへと伝わる。
「ブヒヒイッ?!」
「ブヒアアアッ!」
感電し、ばたばたと倒れるオーク達。
周りのリリアーヌ達が驚きで目を見張った。
氷は水ほどじゃないけど雷を伝える。特に上位神聖術であるジャッジメントで放たれる高出力の電撃は、氷程度なら容易く伝わり、上に立つオーク達を感電死させる。一方ボクたちの周りは、オークたち自身の放った火球によって氷が解かされ、電撃がボクたちへと伝わることは無い。
村にいたころオババに良く分からない話をよく聞かされたけど、それが役に立ったね!
「ブヒッ?! ブヒヒヒイッ?!」
慌てたように周りをきょろきょろと見回すオークキング。
さすがにオークキングは耐えたみたいだけど、周りのばたばたと倒れていくオーク達を、信じられない物を見るような目で見まわしていた。
攻撃に転じるなら今しかない!
ボクは周囲を覆っていた結界を解除すると、リリアーヌの方を振り向く。
「リリアーヌ!」
「任せておくのじゃっ!」
リリアーヌが創炎たるリンドヴルムをさっと掲げる。
リンドヴルムをくるくると回すと頭上にファイアボールが3個、6個、9個、12個、15個と増えていく。それらは一直線上に並ぶと、まるで一本の巨大な燃え盛る槍のようになる。
「行くのじゃ!
オークキングに向かって飛ぶ燃える炎の槍は、まるで一条の炎の軌跡。
「ブギャアアッ?!」
ファイアボール程度ではびくともしないオークキングだけど、それが10個以上集まり同時に直撃すればさすがに平然とはしていられない。
ぐらりと傾くオークキングの巨体。
「ジゼルちゃん、お願い!」
「はいなのっ! お姉さまはわたしが守るのっ!」
ウォーハンマーを握り締めたジゼルちゃんが、オークキングへと突っ込んでいく。
「オラアアアッ!! 死ねや豚野郎ッ!!」
「ブヒヒヒイイイッ?!」
走り込んだ勢いのまま振り切られたウォーハンマーが、オークキングを吹き飛ばす。
でも、そこはさすがキング種。
吹き飛ばされたオークキングはだらだらと血を流していたけど、憤怒の形相ですぐに起き上がろうと身を起こす。
「エステルさん、行くよっ! リリアーヌは周りのオークを牽制して! でも無理はしないで、危なくなったら言ってね?」
「分かりました!」
「問題ないのじゃ! オークごとき妾とリンドヴルムの敵ではないのじゃ!」
エステルさんと一緒に、体勢を崩したオークキングへ向かって駆け出す。
リリアーヌはボクたちがオークキングと戦っている間に、周りのオークの牽制。リリアーヌは大きなことを言っているけど、その表情は少し硬い。
当たり前だ。だいぶ数を減らしたとはいえ、オークの数は多い。それを一人で相手にするなんて、正直無茶だと思う。
でも少しでも早くオークキングを倒してこの場を制圧するには、それが最善だと判断した。
だから、速攻でオークキングを倒す!
地面に棍棒をつき立ち上がろうとしたオークキングに、エステルさんと同時に斬りかかる。
「くらえっ!
「倒れなさいっ――! 九十九杠葉流、
ボクの上位剣技と、エステルさんの上位剣術がオークキングを切り裂く。
オークキングの鮮血が噴水のように噴き出すが、ボク達の倍以上はある巨体としては大した傷でもないのか、なおも立ち上がろうとするオークキング。
「お姉さまたち、避けるのっ! ドウラアアアアアアッ!」
ウォーハンマーを振りかぶり、飛び込んでくるジゼルちゃん。
叩きつけられるウォーハンマーを、手に持つ棍棒で防ぐオークキング。
ガアアアアンという耳をつんざくような音が響く。
その衝撃に耐えられず吹き飛ばされたのは、立ち上がろうと不安定な姿勢だったオークキング。
「ブブウウウウッッッ……!」
「逃がさないのっ! 豚肉になりやがれエエエエッ!」
吹き飛ばされたオークキングに、そのままの勢いでくらいつき再びウォーハンマーを振り上げるジゼルちゃん。
しかしオークキングは血を流しているのにもかかわらず、素早く身を起こし手の中の巨大な棍棒を振るう。
打ち付けあう、ウォーハンマーとオークキングの棍棒。
何度も何度も打ち合い、ガアアアン、ガアアアアン、と他の音が何も聞こえなくなる程の轟音が何度も何度も響く。
その巨体と分厚い筋肉を活かし、巨大な棍棒を軽々と振るうオークキング。そしてボクより頭一つは小さい小柄な身体で、2メートル近くあるウォーハンマーを振り回すジゼルちゃん。
両者は互角の様に見えたけど、じきにジゼルちゃんが押され始めた。
ジゼルちゃんの天職バーサーカーは、全天職中トップクラスの攻撃力と体力を持つ天職だけど、そんなジゼルちゃんとオークキングでは決定的に違う点がある。
それは重さだ。
体重というものは、そのまま攻撃力となる。3メートルはある巨体のオークキングと小柄な女の子のジゼルちゃんでは、その体重を乗せて攻撃を放つ場合、その質量の差がそのまま攻撃力の差、地力の差に直結する。
そしてそれは、周りで見ているボク達よりも打ち合っている本人たちがよく理解しているだろう。自分の有利を確信したのか、にやにやとした笑みを浮かべるオークキング。
「ブフフフフフッ」
「ううっ、豚のくせに豚のくせに。まずいのまずいのっ……」
じりじりと押され、後退していくジゼルちゃん。
なんとか加勢したけど、嵐の様に振り回されるウォーハンマーと巨大な棍棒の中に割って入れない。
「これはまずいね。なんとかジゼルちゃんを助けてあげたいけど……」
「このままでは不利ですし、時間がかかりすぎるとリリアーヌ様が持ちこたえられないかもしれません」
「そうだね……」
ちらと背後を見ると、まだ感電し立ち上がれないオークも多くリリアーヌはなんとか持ちこたえていた。
でもこのまま感電しているオークが復帰し、混乱から立ち直り体勢を整えると、おそらく持ちこたえられない。
どうしようか、そう思った時エステルさんが何かを決心したような表情で言った。
「まだ完全に自分の物にしたとは言えませんが……、今の状態なら使えるかもしれません。九十九杠葉流の奥義を使います。申し訳ありませんが、集中するための少しの間持ちこたえて下さい」
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