第29話 オーク討伐

「ブギー!」


 ボク達は、ギルドで聞いたオークが大量発生しているという街道に来ていた。

 すると、さっそく街道の横の森からオークが出て来たんだけど……


「ブギー!」

「ブギブギ」

「ブーブー! ブギー!」

「ブギブギブギ」


 出来る出てくる。

 しかもここは街道のほんの入り口付近で、街道も森もこの先ずっと続いているというのに、あっという間に10体のオークが目の前に現れていた。


「ち、ちょっと多くない?」


 慌てて腰のファフニールを抜き、構える。

 エステルさんも姿勢を低くし腰のカタナを抜刀する構えを取るが、リリアーヌが「ここは妾の出番じゃな!」とリンドヴルムを振り上げた。


火精霊よ集えファイアボール、10連発じゃーーーーっ!!」


 頭上に10個の火球が浮かび上がり、オークへ向かって次々と落ちてゆく。


「ブギーブギー?!」

「ブーブーブーブー?!」

「わはははは! それそれ、いくらでも喰らわせてやるのじゃ!」


 火球は放たれたそばから新たに現れ、雨あられとオークへと降り注ぎ、オーク達は逃げ惑う。

 下位下段精霊術であるファイアボールは決して強力な術ではないけど、次から次へと叩き込まれると、オーク程度の魔物ならたとえ10体いようとも全滅するのにさほどの時間はかからなかった。


「すごい……」

「わはははは! みたか、これが妾の力じゃーー!」


 思わず漏れたつぶやきと、得意絶頂で高笑いをあげるリリアーヌ。


 確かに、これはすごい。

 例えばボクが剣を使って魔物を倒した場合、剣を振るえばスキルを使わなくとも体力は消費するし、スキルを使えばさらに消耗は激しくなる。精霊術だって、使えば使うほど精霊力を消費してゆく。


 でも、リリアーヌの持つ創炎たるリンドヴルムは違う。

 消耗無しにノーリスクでファイアボールを連発できるその性能は、まさに今回のような比較的弱い魔物が大量にいる場合にその恩恵を最大限に受けることが出来る。冒険者的に言えば、雑魚狩りに特化した性能、と言えるかもしれない。


「まぁ、リリアーヌ様の力ではなく、創炎たるリンドヴルムの力ですけどね」

「うるさいのじゃ、エステル! 素直に妾を讃えんか!」


 エステルさんがリリアーヌの言葉に突っ込みを入れ、リリアーヌがわざとらしく怒る、そんな光景にくすりと笑う。


「大丈夫だよ、リンドヴルムを使いこなしているのはリリアーヌだし、ちゃんと考えて使っているのも分かってるよ」

「う、うむ……。お主は相変わらず、ストレートに褒めて来るの……」

「リリアーヌ様って、褒められたら褒められたですごい照れますよね」

「うるさいのう!」


 そんなやりとりをしながらも、リリアーヌの頭上には次々と火球が生み出され、街道まで出てきたオークが次々と炎に包まれてゆく。


「わははははは! そらそら、オークどもよ、逃げまどうのじゃ~~!」

「これは……楽だね……」

「そうですね。これに慣れてしまうと、普通に魔物を倒していくのが面倒になるかもしれません……」


 ボクの言葉に、エステルさんが苦笑する。

 それもそのはず、ここに来てからすでに何十体ものオークが出てきているけど、ボク達は何もしていない。つぎつぎ火球を連発しオークを火だるまにしていくリリアーヌの後ろから、ただ付いて行っているだけだ。


「これはあれじゃな、このファイアボールの連弾に何かカッコイイ名前を付けねばならんの!」

「名前? ああ、ミランダがファイアボール・アンサンブル、って呼んでたみたいなの? ファイアボール・アンサンブルじゃダメなの?」

「それは、あの嫌な女が使っていた名前じゃろ? いやじゃ! あの女と同じ名前はいやじゃ!」


 リリアーヌは、いやいやをするように首を振る。

 ボクはべつに同じでも構わないんじゃないかと思うけど……。


「うーむ、そうじゃの……ファイアー・コズミック・ブレイカーとかどうじゃ?!」

「ええーー……?」


 ちょっと大げさすぎないかな?


「うーむ、ダメか? なら……ハイパー・ディメンジョン・バスターとかどうじゃ?!」

「術の内容と関係ない呼び名はどうかと思うんだ、ボクは」


 むむむ、と唸り声を上げて考え込むリリアーヌ。

 そこで、エステルさんがふと思いついたように声を上げた。


「そういえば、パーティー名など考えないといけないのでしょうか?」

「ああ、『勇者の聖剣』みたいな?」

「そうです、私は冒険者として活動してた時はソロでしたので詳しくないのですが、パーティーを組んでいる方たちは大抵パーティー名をつけている印象でした」

「パーティー名か……」


 パーティー名は付けないといけない、という事は全くない。

 ないけど、誰々のパーティー、というよりパーティー名があった方が覚えやすいのと、軍と共同作戦などをする時は公文章に記載する関係で作ることを推奨されることがある。


 だけど、そんな事より何より……あった方がかっこいい!

 冒険者たちはみんなそういうのを考えるのが大好きだし、ボクだって王都に出てきて『勇者の聖剣』というパーティー名を聞いた時には、「うわぁ、かっこいい!」と思ったもの。


 それを伝えると、エステルさんは「そうですか……」と少し考える。


「まぁでも、せっかくリリアーヌ様が冒険者をなさるんですし、あった方が良いかもしれませんね」

「そうじゃ、『第七王女としもべたち』とかどうじゃ?」

「いやだよ!」


 むむむ、と今度はパーティー名を考え込むリリアーヌ。

 もちろん、そのあいだもリンドブルムからは火球が次々と放たれ、オークを火だるまに変えていく。


 あたりを見回すと、そんな話をしている間に街道のオークはほぼ討伐出来ていることに気付く。


 そしてボク達は街道から、街道に沿って広がる森に足を踏み入れていた。


「はあっ!」


 ファフニールをオークへ向かって振りぬくと、鮮血が吹き出しオークが倒れる。

 そしてその勢いのままさらに踏み出し、再度振りぬくと、また一体倒れるオーク。


 横を見ると、エステルさんもカタナでオークをどんどん仕留めていく。

 正確に心臓をつらぬき、そしてオークからカタナを引き抜きその余勢を駆ってまた一体絶命させる。


「ブギーー!!」

「ブギブギッ! ブギー!」


 でも、ほっと息つく暇もなくまた何体ものオークが出現する。


「いくらなんでも多すぎるよ! どうなってるの、これ!」


 思わず叫びをあげていた。

 ボク達はあれから結構な数のオークを倒していた。にもかかわらずオークは次から次へと現れ、正直終わりが見えない。


「精霊佩帯はいたい――烈風纏アルム・トゥールビヨン”!」


 剣にウインドカッターの精霊術を纏わせる。

 一体づつ倒していてもきりがない――術を使って一気に行く!


 風の精霊を纏わせたそのスピードを生かし一気にオークの群れへと突っ込み、すれ違いざまに八連撃を繰り出すスキルを放つ。


八連殺陣テンペスト・オクタ!!」

「ブギイィィィーーーーーーッ!」


 一度に10体以上のオークが首を切り落とされ、どさりと崩れ落ちる。


九十九杠葉流つくもゆずりはりゅう――さざなみ・改」


 エステルさんが左脚を軸にして、くるりと一回転しカタナを振るう。

 ふわりとメイド服のスカートが舞い上がり、そして静かに静止しスカートが舞い下りる時、周囲のオークから一斉に血しぶきが上がる。崩れ落ちるオーク達。


「ふぅ……なんとかひと段落、かな?」

「そうですね……。ふぅ、しかし確かにこの数は異常です」


 まわりのオーク達が全滅したことを確認し、汗を拭いながらエステルさんに声をかける。

 エステルさんも流れ落ちる汗を取り出したハンカチで拭きつつ、答えた。


「リリアーヌも無事だった?」


 そう言い、すこし離れた場所で待機していたリリアーヌに声をかけるけど……


「妾のファイアボールなら、オークごときいくら来ようとも一網打尽にしてやるというのに!」


 森に足を踏み入れてからはリンドヴルムを使わず待機していたリリアーヌは、ふくれ顔でリンドヴルムをずいっと差し出してきた。


「いや、だって森の中だし……あんなにファイアボールを連発したらとんでもない事に……」

「そ、そうですよ、リリアーヌ様。森の中で炎の精霊術は基本的には使用禁止です」

「分かっておるわ! じゃから、こうして我慢しておるのじゃろうが!」


 ぶーっとふくれるリリアーヌ。

 街道ではファイアボールを連発し次々とオークを倒していきリリアーヌは上機嫌だったけど、森に入ってからは森が燃えちゃったらいけないからリンドヴルムの使用を控えてもらっていた。そのせいで、森に入ってからはご機嫌ななめ。


「とは言ったけど、正直このままじゃこっちがバテちゃうよ。街道に陣取ってリリアーヌに街道に出てくるオークを蹴散らしてもらいつつ、たまに森に入ってみる程度の方がいい気がするんだけど」


 そうなのだ。森に入ってからは、ひっきりなしに現れるオークに、正直疲労感が強くなってきた。ダンジョンでは基本的に狭い空間なので生息している魔物の数もたかがしれているし、ドラゴン戦でもドラゴンにのみ注意を払えばよかった。でも、オークだけとはいえ魔物が次から次へとどんどん現れるこの森は、あのダンジョンとは別の難しさを感じていた。


「確かにそうかもしれませんね……。いくらオークの繁殖力が強いとはいえ、この数は明らかに異常です。オークキングが誕生している可能性もありますし、安全策を取るべきかもしれません」


 考え込みつつ、エステルさんが言う。

 そうか、オークキングか。魔物にはたまにオークキング・ゴブリンキングみたいなキング種が誕生し、周囲の魔物を駆逐して大量発生することがある。このキング種が部下を率いて街を襲ったりしたら、防備の薄い街なら簡単に落としてしまうほどの大災害となってしまう。


 じゃあ、とりあえずいったん街道まで戻ろうか?


 そう口にしようとした時だった、森の少し奥で誰かがオークと戦う音が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る