第187話 野良猫ヨモちゃん観察

 我が家には三匹の猫がいる。一番上は福ちゃん。二番目はくうちゃん、三番目はマロンである。


 ところが最近我が家の庭にはもう一匹猫が住んでいる? 住んでいるというよりはご飯をもらいにくる。さらには縁側で思いっきりくつろいでいく。ゴロンゴロンと横になったり伸びたり毛繕いをしたり。そんでもってご飯が食べたくなったら窓際にやってきて、私の方を見つめる。ちゃんとかしこまって座って、「ご飯まだ?」と首を傾げる。


「よもや、うちの猫になりたいのかな? であるならば名前はヨモちゃん」


 ちょっと前に名前がついた、よもやうちの猫になりたいかもしれない、ヨモちゃん。


 最初は毛並みもいかにも野良猫で痩せていたヨモちゃんは、最近ではとても綺麗な銀色の毛並みをして、体つきもふっくらとしてきた。でも右目が猫風邪をひいているのか少し調子が悪そうである。


「病院に、は連れて行けないなぁ」


 窓際までやってきてご飯を頂戴とおねだりをする時の私との距離はわずか数センチ。ガラス一枚分の距離感。でもそこは野良猫。窓を開けるとさっと逃げていってしまう。それに、去勢をしていないから、私が病院に連れて行くとなるとおのずと去勢の話題になってしまうだろう。


 地域猫は去勢をして野に放つ。


 そういう決まりがあるような気がしている。だから私が病院に連れて行くとヨモちゃんは尻尾の下についている立派なタマタマを取らなくてはいけなくなってしまう。


 人間って勝手な生き物だな。


 そうは思いつつも、どうしていいのかがわからない私は、関川くんが忘れられずに毎日ご飯を作る涼子ちゃんではないけれど、毎日ヨモちゃんにご飯を差し出す。


「おお、ヨモちゃんまたきたの? てか、さっき食べてなかった?!」


 ヨモちゃんは結構食べる。ゆえ、我が家の猫のご飯代が増えた。猫三匹にヨモちゃんの分、合わせて四匹分である。猫のご飯代もバカにはならない。けれど、窓際まで来てかしこまってちょこんと座り、こちらをじっと見つめられるとどうにもこうにも。ご飯をあげないわけにはいかなくなってしまう。


 さっきもヨモちゃんはやってきた。


「ご飯? 入ってない? あ、入ってないね。後で入れてあげるね」


 ガラス越しに話しかけながら掃除機をかけていたら、いつの間にかいなくなっていた。でもきっと庭のどこかでこちらをみていて、私が椅子に座るのを見つけるとまたやってくる気がする。


 ヨモちゃんはうちに飼っている猫、特に三番目のマロンと仲がいい。よく二匹で一緒に縁側で寝ている。我が家の猫は三匹とも雌猫で、避妊手術をしているからそこは心配ないんだけど、変な病気をもらってきたら嫌だな、なんて思うこともある。でも、ヨモちゃんはもはや半分以上我が家の猫になっている。



「今日はご飯にゃいの?」


「今日ママさん四角い箱でなんかやってるからきっとご飯くれにゃいと思う」


「えー。そこはマロンが言ってきてよ。ご飯ちょうだいって言ってるにょって」


「ママさん、マロンのことめんどくさいって思ってるから多分伝わらにゃいよ」


「マロン、めんどくさいにょ?」


「外に出たいって言って、出してもらったらまたすぐに中に入れてっていうからにゃ」


「それはきっとママさんもめんどくさいにゃ」


「にゃろ? でも、外に行きたいし、またすぐに中に入りたいにゃ」


「かまってちゃんにも程があるにゃ」


「自分でもそう思うにゃ。だからご飯は今は無理だにゃ」


「マロンがいい子だったら僕もご飯がすぐにもらえたかもにゃのに」


「四角い箱から手を離したすきにゃ」


「その隙を庭から伺うにゃ」


「そうだにゃ。でも、水色の水がいっぱい入ったものがドドーンと置かれちゃって庭から家の中が見えないにゃ」


「あれは魔物だにゃ。こないだの夏にマロンはあれに落ちたことがあるにゃ。ほら、縁側の横に植えてある紅葉の枝から、あの青い水がいっぱい入ったものに落ちたにゃ」


「それは、よくぞご無事で。生きて帰ってこれてよかったにゃ」


「あの青い物は魔界へ通じているにゃ。落ちたら最後、びしょ濡れにゃ」


「にゃんと、魔界とな」


「絶対そうにゃ」


「でも昨日人間の子供たちが楽しそうに中に入っていたにゃ」


「この家の子供たちはみんな魔界からやってきているにゃ。だっていつもマロンを抱っこしてもみくちゃにするにゃ。その力が強いんだにゃ」


「魔法は使えるのかにゃ?」


「たまに」


「たまににゃ?」


「たまーに、無茶苦茶美味しいものを手から出すにゃ」


「美味しい物?」


「そう、チュールっていうにゃ。マロンこっちおいでって言って、何もないところからパッと出すにゃ」


「それはいい魔法だにゃ」


「だにゃ。でもあいつらは魔界から来たにゃ。ママさんはそう思ってるにゃ」


「ママさんも、魔界から?」


「ママさんはきっと魔女にゃ。スプーンを曲げたり、光回復魔法を使ったり、あるときは鬼のような顔になるにゃ。その辺でマーキングしたら多分瞬殺されるから気をつけにゃきゃいけないにゃ」


「わかったにゃ。マーキングはしないっと」


 そうそう、マーキングをしたら私は多分ブチ切れますよ。もうご飯はあげません。ヨモちゃんそこは頼みました。



 そんな本日は暑さに耐えながらこれから洗濯物を干さなくてはいけないので、この辺で。



「家中のタオルを一回のプールで使うとか正気の沙汰じゃねぇー!」


※水色の魔物=大型のビニールプール。今年で三年目の大活躍アイテム。コロナで外に行けない子供たちを癒し続けて早三年。今年も登場しました。早速仲のいい友達がやってきて昨日の夜はナイトプール。中学生の男子が三人泳いでも問題ナッシングです。後片付けが大変なんだよな。水質管理も大変です。井戸水なので、塩素系の消毒を入れると黄色い水になってしまう。おしっこしてもバレないじゃんってなります。猫が爪を立てるとプールに穴が開くので、私にしてみれば猫の方が魔物です。お願いだから穴を開けないで。結構そのプールお値段が高いからあと三年は使いたいのだよ。減価償却まであと三年。そう思いつつ、今年も壊れないで使えるようにのと祈るのでした。


「家中のタオルを一回のプールで使うとか正気の沙汰じゃねぇー!」


今年はこのセリフを何回叫ぶのだろうか。

のど飴を用意して大声で叫ぶ覚悟です。

まじで、家中のタオルが、ない!




 本日もお読みいただきまして、誠にありがとうございました。




***


田舎暮らし。

平和な日常。

愛する家族。


毎日普通の日々に感謝です。
























――黙祷。













世界中の子供たちが笑顔で過ごせる日が来ますように。

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