第163話 カラオケを楽しんだ、昨日。
今日は土曜日。またやってきた土曜日である。そりゃそうか、時はいつでも同じように流れているのだから。
そんなことを思った、本日。
「一週間ってあっという間だ!」
昨日は誕生日だった一番ちゃんと愛するパパと三人で深夜までカラオケを楽しんだ。ゲーム機でできる自宅カラオケは、とってもお値打ちだ。多少の音ズレはあるものの、かなり快適にカラオケができる。
そうそう、昨日の妄想日記で風鈴ちゃんの歌う曲がわからないくて、中途半端なラジオDJ風リクエスト曲紹介になってしまったと思っていたら、コメントに風鈴ちゃんが「さて、私の好きな曲だが、バックナンバーのヒロインだよ笑(๑˃̵ᴗ˂̵)」と教えてくれた。
なるほど。その曲は聞いたことがあっても歌ったことはないなと、スマホのプレイリストにその曲を追加した。私はバックナンバーの水平線を毎回歌う。きっと覚えれば歌うことができるだろう。
ゲーム機のカラオケは毎回点数が出るようにしてある。一番ちゃんは小さな頃からピアノを習っているおかげか、DNAなのか、歌がうまい。毎回90点を超える音程で若い子の歌を歌い上げてくる。
私は、まぁ、そこそこうまい、はず。昨日の妄想日記で書いた、ゲレンデDJをしていた時に働いていたイベント会社で、子供ショーのお姉さんもやっていたことがある。あの今考えるだけでも恐ろしいほどのブラック企業に、パワハラすぎる社長の記憶が蘇ってきてしまうのだが、ボイストレーニングや踊りの練習など、それはそれは血反吐を、まじで血反吐を吐きながら耐え抜いた三年間でそこそこ歌が上手くなったはずだからだ。
「うんと、上手く歌ってなかったら、ステージを見てくれた二十年前の良い子のみんな、ごめんね!」
そのブラックすぎるブラック企業は実家から近い場所にあった。車で十分。社員数2名。社長と、副社長のみである。私はそこの所属タレント、うん、タレントというよりは、人形のような感じで、いや、人形というよりは、小間使い。いや、奴隷かもしれない。まさに奴隷並みの扱いで、働いていた。
今でこそ感謝の気持ちがあるけれど、それはそれはヒステリックな女社長様は、自分の機嫌が悪いと、口を聞いてくれない。しかも、呼び方は「先生」である。
「先生、これ、どうしたらいいですか?」
「(無視)」
「あの、先生、これ次のステージの進行台本書いたんですけど……」
「(無視)」
狭い狭い事務所の中で、一生懸命書いた子供ショーの進行台本を機嫌が悪いと見てくれない。静まり返る事務所内。張り詰める空気。
――またか……。
この進行台本のオッケーがもらえないと、ステージの練習が進まないし、音源も作れない。そう、台本作成、音源作りも私の仕事だったのだ。もちろん、なのかどうかは知らないけれど、この会社では、ステージの出演料の半分(?)が私のお給料なので、台本作成や、音源作り、ステージの練習にかかる時間は無給である。一ヶ月、拘束時間がほぼ毎日で、三万円だったこともある。実家に住んでいたからできたけれど、今考えると恐ろしい話である。ちなみにワンステージの私のギャラは一万円である。
なんなら、その子供ショーのキャラも自分で考えたキャラだった。「ゆめちゃん(仮名)」は魔女の女の子で、相棒のぽんくん(仮名)というアヒルの着ぐるみと一緒にステージに立つ。
オープニングソングは社長の作曲で、歌詞は私が書いたものを歌いながら踊り、最後は手品を披露する。ステージに登場した魔女っ子ゆめちゃんは、お決まりのセリフを話す。
「みんなー! こんにちは〜!」
「こんにちは〜」
「あれあれ、声が小さいぞ? もっと元気に! さんはいっ!」
「「こんにちは〜!」」
「おっきな挨拶、ありがと〜! 今日はね、もう一人お友達が来ているよ。でも、あれれおかしいな。まだ来てないみたい。みんなで呼んでくれるかな?ぽんくんって言うんだよ。じゃあ、みんなで呼んでみようか。いい? ぽんくーん! って大きな声で言ってみてね! セーの!」
「「ぽんくーん!」」
「みんなー! こんにちは〜! 僕の名前はぽんくんです! 待たせてごめんごめん、あっちで美味しそうなたこ焼き屋さんがあったんだ」
「もう! ぽんくん、お祭りを楽しむのはみんなと遊んでからだって言ってたのに! しょうがないなぁ」
「僕もみんなと早く遊びたくってたこ焼き食べてから急いで走ってきたんだよぉ。ねね、じゃあさ、最初は何して遊ぶ?」
「そうだなぁ、じゃあまずはこの曲から行ってみよう! 大きな栗の木の下で!」
こんな感じの子供ショーだったはずだ。なんと、着ぐるみのぽんくんの声も私がやっていた。一人二役である。しかも歌って踊ってマジックもする。魔女っ子設定だからだ。我ながら、なかなか手の込んだことをしていた。若かったなぁ……。
そんなに大変な思いをしていても、実家暮らしだし、好きなことではあるしと三年間耐え抜いた。そのおかげで?そのブラックな会社で教えてもらったわけではないけど、動画編集とグラフィックデザインができるようになった。すべて独学だけど、なんとか簡単なものならばできるのは、必要を感じて自分で覚えたからだ。
何事も、人生に無駄なことはない。そのスキルはその後の人生でいろんな場面で役に立った。企画の仕事ができたのも、グラフィックや動画編集ができるからだと思うし、台本を書いていたおかげで、企画書の文章も意外と書けていた。
話をカラオケに戻そう。つまり、歌って踊っていた私は、きっとカラオケもそこそこうまいはずだ。いや、うまいと断言してもいいだろう。だって昨日のバックナンバーの水平線は92点だった。
だがしかーし!
飲みながらカラオケをすると、だんだん点数が下がっていく。ビブラートのお星様も音程を表示している譜面からキラキラ飛び出してこなくなる。顕著に現れる音程の狂いと、ビブラート。
結局久しぶりに一番ちゃんとカラオケをした私への評価は、
「お母さん、めっちゃ歌、……下手だったんだね」
で、あった。
そんな本日は土曜日。来週の火曜日が中間テスト初日の中学生は塾三昧である。がんばれー! と心の中で言いながら、本日の徒然すぎる妄想日記を終了したいと思います。
本日も、こんななんでもない妄想日記をお読みいただきまして、誠にありがとうございました。
*
なんでもない日常の幸せに感謝して。
なんでもない日常が全ての人にありますように。
戦争のない世界に、なりますように。
――黙祷
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