第91話  【KAC20229】 猫の手を借りた結果、世界は平和になりました

 今日という日は、普通の日だった。平和に一日が流れる日。我が家で平和で無いのは、なぜがか公募に出さなくっちゃあかんやーん! と思ってる私の心。でも、それもまぁ解決しました。公募に出す作品はまだできてないけれど、その事に思い悩んで頭を抱える私を見て、愛する夫は、


「頑張ってるんだね。応援するよ。でも、無理して書いても無理と思う。みんな君よりもずっと前から計画立ててやってるんだからさ」


と言って、私を、可愛いなぁ可愛いなぁと言いながらに撫でまわし、抱きしめてくれました。しめしめ、作戦成功! と、心の中で思った次第です。それを鉤括弧を使って表すならば!


「やったー! カクヨム生活をこのまま満喫して良いんだー!」


なんて裏腹な私。彼は私のいつか小説家になりたいを、純粋に応援してくれているのに、私はカクヨムをむっちゃ楽しんでいるとはつゆとも知らず!


そんなこんなでKACも順調にこなしております。そういうのはスラスラ書けるんだけどな。おかしいな。なんでだろう。マジで?とかいうくらいの文章の需要は、どこかの新人賞にあるだろうか……? なことをマジで考え、いいえ、本気で考えながら、本日も無謀な挑戦に行ってきます!


なので、またまたKACで書いたもの、こちらでもご紹介させてください。もう、て!手抜きでは決してないです! のくだりは省いておきましょう。って、あれ、書いちゃった。てへへ。では、よかったらお付き合いくださいませ。本日もお読みいただき、誠にありがとうございました。早く、平和な戦争のない世界になりますように。祈りを込めて。



***


「猫の手を借りた結果、世界は平和になりました  〜平和への祈り〜」




私の名前は平和愛ひらわまな。名前からして優しそうな人だねってよく言われるけれど、私自身は優しい人かどうかちょっとよくわかんない。だって、心の中には黒い感情もやっぱりあるし、嫌いな人だっている。


 黒魔術があったら呪い殺したいくらい憎い人もいるしね。本当に心の底からあの人だけは呪い殺してやりたい。私の大事な彼を奪っておいて、平気な顔していろんな男達をはべらかしているもの。私は絶対あいつだけは何があっても許さないって思ってる。絶対一生許せない。だから、そんな黒魔術でもあればいいなって毎日思っていたんだけど……そんな私にある日、不思議なことが起きた。



***


私はなんでかふと、会社帰りにちょっとオシャレなBarのカウンターで一人喉を潤してから帰るのもいいなって思って、電車を降りてから、自分の家の方向じゃ無い駅の出口へ向かった。


――こっちの街は思い出が多すぎて足が向かなかったのに、今日はなんだかいつも彼と行ってたBarへ行ってみたい気分なんだよね。どうせお一人様の一人暮らしだし家で待ってる人ももういないし、明日は土曜日だし。


そんなことを考えながら私は、飲食店が店を連ねる駅前通りを歩いていた。


――確かこの角を曲がったところだったはず……あれ? こんなところに新しいお店?


そこには以前来たときにはなかった、ガラス張りのカフェのようなお洒落なお店があった。私は思い出のBarに行くんじゃなくて、この新しくできたオーガニックな雰囲気漂うお店に入ってみようかなと思い、足先をそちらに向けようとしたのだけれど、ちょうどそのお店の手前にあった電柱に変な貼り紙が貼ってあるのを見つけた。


赤黒い小さな紙に灰色の文字で、こう記されている。


『 猫の手貸します

  あなたの呪い殺したい人は誰ですか? 』


――え? 何これ? 呪い殺したい人って、物騒な……


その小さな赤黒い紙に書かれた文字の最後には、猫の肉球が押されていた。まるで赤穂浪士の血判のように。私は、そんな悪戯を本当は無視するような現実的な人間のはずだと自分では思っていた。が、何故だか胸騒ぎがしてきてしまい、その小さな紙をまじまじと見つめた。


――猫の手貸しますって、なんの冗談なんだろう……? それに呪い殺したい人ってとこも、意味がわからない。でも、なんだろう、すごく気になっちゃうな。えっと、連絡先みたいなのは載ってないのかな?暗くてちょっと見えないや


そう思った私は、スマホを鞄から出してきて、右上から左下に指でスワイプして、懐中電灯のマークを触ろうとした。でも指が少しずれて、別のボタンをタップしてしまった。


――あ、間違えた。これQRコードだった。えっともっかい……


と、もう一度最初の画面にしようとしたその時、カシャ! と音をたてて、スマホがさっきの小さな怪しい貼り紙の写真を撮ってしまった。すると、勝手にスマホが動き始めて、私が自分で入れたこともないような地図アプリが起動しはじめ、私に向かってこう言った。


『 おお! ご興味を持たれたようで! 嬉しいです。さぁさぁ、このアプリにしたがって、こちらまでお越しくださいませ。徒歩五分で到着いたします 』


――は? いやいやいやいや、めちゃくちゃ怪しいじゃん! なんなのこれ?


私はすぐさま消そうとしたけれど、消しても消しても変な地図アプリの画面に戻ってしまう。


――ちょっとぉ。何これ!? 変なウィルスにでもかかっちゃったんかなぁ? 消しても消しても出てくる!


そんなことを繰り返し試していたら、またもや変な声がそのアプリから聞こえてきた。


『 お困りのようですが、そちらの地図アプリは一度起動してしまいますと、こちらに来ていただいてワタクシが解除しないことにはどうにもなりません。お早くお越しくださいませ 』


「はぁあ? 一体なんなのよ!」


私はそう言いながらも、もうしょうがないしなと観念して、その地図アプリが誘導する方向へと歩き始めた。


――もう絶対この店のやつにクレーム出してやる! クレーム対応は私にとって日常業務! 日々お客様コールセンターで磨き抜いたこの私の、最強クレームの数々を浴びせさせてやるんだから!


誘導に従いながら、今まで入ったこともないような裏露地のさらに裏露地の、さらにはビルの隙間なんかも通って、先月買ったばかりのパンプスを汚しながら進むうちに、私の中では怒りの炎が燃え上がっていった。そして、そんなことを脳内再生で何度も罵倒練習しながら考えてるうちに、指示された店の前へと着いた。


――へ? ここ?


その店はさっきの張り紙とは打って変わり、優しい桜色の屋根にガラス窓が解放的につけられている、一見すると小さなケーキ屋さんのようなところだった。猫の肉球マークの釣り看板が夜風に揺れている。


――ちょ、ちょっとイメージと違うわね……? でもいいわ! 私の脳内で再生されていた最強のクレームの数々をアプリ削除の時に浴びせ続けてやるんだから!


そう思いながら私はお店のドアを開けた。カランコロンとなんとも平和的なベルチャイムがなって、桜色のかわいい扉が開く。


「やぁ! いらっしゃい! 待ってましたよ!」


――は? なんだこれ?


なんと目の前には、猫の耳をつけ、ピンクのハートが大きく胸元を隠すエプロン姿のイケメンが立っていた。どれくらいイケメンかというと、乙女ゲームに出てくるキャラくらいのイケメンだ。一瞬私は目を疑い、さっきまでの罵倒練習したクレームワードを頭の中から一瞬デリートしかけたが、頭を横に振って、まともな意識を取り戻し、その店員とやらに怒りをぶつける。


「ちょ、ちょっと! 変なアプリでこんなところまで呼び出して! 一体どういうつもりなんですか! 早くこれ消してくださいよ!」


するとその猫耳をつけた、ピンクのハートが可愛いフリフリエプロンの彼は、ニッコリと笑い、


「すぐにでも! あなたが迷わないで来れるように入れただけのものですから! もうようはございませーん!」


と、変なテンションで返してきて、サッと私の手からスマホを抜き取ると、ささ、こちらにどうぞと言って、白い丸テーブルに私を誘った。なんだか狐にでも摘まれたかのような私はきっと間抜けに口が開いていたと思う。良かった。マスクをしてて……


――ん? そういえばこのイケメンなぜ今時マスクをしていない?


私がそう思っていると心の声でも聞こえたのだろうか、そのイケメンがスマホを私に手渡しながら、


「あぁ、コロナウィルスは僕には関係ないもんで。はいこれどうぞ、もう大丈夫、元どおりです」


と言った。そして、ちょっと待っててくださいねぇ、などと言いながら店の奥へと消えていき、フルートグラスに入ったシャンパンのようなものを持ってきた。そして、


「こちらシャンパンです。きっとお好きでしょ?」


と眩いばかりの王子様オーラを出しながら、一目で冷えていると分かるそのシャンパンをスッと私の前へと差し出したのだった。


「い、一体あなたは何者なんですか? そんな変な格好して、そ! そうだ! あのチラシ、あの、電柱に貼ってあったあれ、一体どういう意味なんですか?」


私が矢継ぎ早に猫耳の彼を見上げながら一気に聞くと、猫耳の彼は、私の目の前の席に座り、頬杖をつきながら私に、


「あなた、呪い殺したくなるほど憎い人がいるんでしょう? 僕にはわかります! さ、どうぞシャンパンがぬるくならないうちに」


と、なんともいえない美しい顔でいうのだった。


――うっ! ま、眩しい……。近くで見たら、すんごい美しい顔してる……。私がハマってる乙女ゲームのキャラみたい、ってか、そのまんまじゃん! って、違う違うそこじゃない……。そうじゃなくて、この人の言ってること、おかしいから! とりあえずもっと聞いてみるか、


と、気を取り直して目の前の冷えたシャンパンを一気に飲み干し、


「それは一体どういう意味なんですか?」


と私が聞くと、猫耳のイケメンは、優しく微笑みながら、


「あなたの呪い殺したいほど憎い相手を僕が殺してあげましょう」


といかにも爽やかにいうのだった。私はもう意味がわからず、そして先ほど飲んだシャンパンが空きっ腹に染みて少し酔いがまわったのか、ふわふわした声で、


「じゃぁ、お願いしたいかな。それは誰でもいいの?例えばそれはどこの国のどんな人でもいいの?」


と聞いた。彼は、「えぇ、もちろん。今すぐにでも」と微笑み、髪を耳にかけて、私の口元にそっと寄せ、「さぁ、早く。その人の名前は?」と聞いた。私は、まるで魔法にでもかかったかのような不思議な気分で、うっとりと彼の耳たぶすれすれに唇を近づけて、囁くように、


「プーチン」


と言った。



***


その後の記憶はよく覚えてない。気づくともう次の日の朝で、私は自分の住んでいるアパートで、いつものようにルームウエアを着て、ちゃんとメイクを落として睡眠したようだった。一体あれはなんだったんだろうか、それは今でもわからない。


でも、不思議なことに、その日のテレビのニュースでは、どのチャンネルのどのキャスターさんたちも、


『これは素晴らしいことです。もっと早ければこんなに犠牲はなかっただろうに』


を繰り返していた。



――日本時間本日未明、ロシアのプーチン大統領は自らの戦争犯罪責任を認め、この紛争を終結することに同意いたしました。これにより、事実上ロシアの大統領の職を失い、社会的には抹殺されたことに匹敵する刑罰が与えられることになりました……



テレビの声が聞こえる。私の愛するウクライナ人の彼を戦争に巻き込み殺したこいつだけは絶対に許せない。でも、命を奪われるよりもこいつにとってはもっと不幸な苦しみがこの先待ち受けているだろう。独裁者よ、無様な姿をさらけ出し、罪を一生償い続けろ。私はそう心で思いながら、いつの間にか流れていた涙を拭った。


あの日、不思議な張り紙を見つけて猫の手を借りた結果、かどうかはわからないが、ウクライナでの戦争は終わった。




――黙祷。



平和を祈り続けます。

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