第28話 引きこもりやめます!?
中学校の来年度PTA副会長、再来年度PTA会長になることが決まった本日。
五人も子供がいるのにも関わらず、幼稚園から今まで何一つその役員をやったことがなかった私は、今回のPTA役員選出の時もどうせならないしなどと安易に考えていた。
それでも来年度は高校受験の子供がいるので、出来る限り子供会などの役も当たらないように周囲に根回をし、万が一PTAなんかになったら本末転倒なので、今年度は人数の少ない子供の部活の保護者会会長を引き受け、満を辞して来年度に向けての準備をしていたわけだった。……のだが、
「あ、お母さんこれ、学校から手紙」
と二番に先週手紙を渡された。学費が口座から落ちてなかったのか? まさかと思いながらその封筒を開けると、中に、
《PTA役員に選ばれました。1月20日(木)19時 ××中学校コンピューター室集合、副会長、書記、会計を決める会議があります》
という趣旨の手紙が入っていた。
「は? 役員免除の書類出したのに、なんで??」
部活の保護者会会長をすると、次の年はPTA役員選出の投票名簿には名前が載らないはずだった。とても大切なことだから、慎重に免除の紙を書いて中学生たちに渡したはずなのに、一体なぜこんなものが届くのだ?
きっと手違いだと思った私はすぐさま中学校に連絡をして、その旨伝えたが、
「あれ? 二年生は大丈夫ですが、一年生の名簿に載ってますね。一年生のお子さん免除の紙を出してなかったということですね。どうしますか? これを辞退ということになると、役員選出会議のメンバーを今のPTA会長さんから改めて召集してもらい、話し合ってもらうことになるのですが」
と教頭先生に言われた。
それは多分20名くらいの保護者の方の迷惑になる。悪いのは、私が持たせた書類を出さなかった息子なのだから……
「それは大変ご迷惑だと思いますし、もう来週のことなので、うちのバカな息子のせいで皆様にご迷惑はかけれませんし、しょうがないから、行きます」
と私は言った。
マジ許すまじ二番よ。お母さんはもう去年から計算してPTA役員にならないようにしてきたのに! なぜプリントを提出し忘れたのだ!
副会長は大変だと聞くから、パソコンで文字を打つのは慣れているし、書記か、最悪会計でもいいかと仕方なく思って本日その会議に行ったのだが、
「あれ? 副会長しか空いてない?? なんで?!」
「あぁ、それは、それ以外の一年生の保護者の方は立候補ですから」
と、教頭先生。
「立候補!?」
「はい、役員立候補したら任期後は下のお子さんの代まで役員永久免除ですからね」
「ですよね、うち下の子がまだ二歳で、今やっとかなきゃ歳とってから役員は無理だと立候補したんですよ〜」
「うちもです」
「うちも」
ええ? 知らなかった! いや、うんと記憶を遡ればそういうことがプリントに書いてあったかも?? さらに教頭先生は続ける。
「はい、立候補でその他の方は役員になったので、希望の役職になってます。なので、空いているのは副会長。あ、ちなみに副会長をやった一年生の保護者の方は、その次の年、会長です」
チーン!
おわた。アホの二番の出し忘れたたった一枚の紙のせいで、来年度PTA副会長、再来年度PTA会長になることが決定してしまった。
マジ許すまじ超えて殺意までとは愛する息子にはいかないが、お年玉オール没収くらいの感情を二番に抱いた瞬間だった。
でもバカなプリントを出さなかった二番のしでかしたことはしょうがないので、私はそれを引き受けることにした。部下の失敗は上司の責任だ。
でも!!
これは、引きこもって人間関係を最小限にしようとここ数年生きてきた私に対する最高の暴虐だ! 二番目! 帰ったら覚えていろよ! もうお前の貯金通帳はお母さんのものだから!
その時、半ば怒りにぶっ飛んで放心状態の役員会議中の私の脳裏に脳内再生が話し始めた。
「めっちゃいいやん! PTA役員最高やん! 良かったやん!」
はぁ? 何を言ってるの? 最悪やん!? そのために準備してたのに!
「あんさんアホですか? 引きこもってたらいい小説書けませんで?」
は? 小説書けへん? 知らんしそんなこと! 関係ないやんPTAと!
「アホやなぁ、ほんま! あんた引きこもりやん。引きこもりちゅうことは人と会われへんやん。そんなんで、憧れのM先生のような大人なミステリー小説いつか書けるようになりたいと本気で言ってますねんか?」
え?!
確かに、ものすごく限られた人にしか今現在会ってないかも。それは本当確かに。家族と、実家の母と知的障害のある弟、あとガッチーズ中の人の片割れと、えっと、あと誰かな? うんと、あんまり思いつかないけど、多分数人?
「そうでっしゃろ! それでは大人なミステリーとか人間ドラマとかどうやて書きますねんいうてますねんよ!」
え? でも、ドラマとか映画見たり、漫画とか小説とか読んでますけど?
「は!? 本気で言うてます? それ誰かが作ったキャラクターですやん!」
え!? それだめですか?
「だめに決まってますやん! 誰かが書いた人生を生きるキャラクターを自分のお話の中に出してくるんですか? あんさんのお話は二番煎じなんですかってことですやん。そんなん魅力的なキャラになるわけないですやん!」
でも、ガッチーズは私の中でちゃんと一人一人キャラとして生きてますよ?
「ほんまバカですね、それはあんさんが生み出したリアルガッチーズをもとにしたからですやん! だから勝手に脳内再生で思いもよらんことやってくれて、あんさんはそれを書いてるんでっしゃろ?」
あ、そうかも。
「あんさんがいつか書きたい言ってる大人なミステリーは引きこもって見逃し配信ばっかり見てて生身の人間との関わりを極力減らそうとしていたら書けませんわ。リアリティがないですねん」
確かに!!! そういうことなのか!!!
私は脳内再生の言ってる意味を理解した。確かにドラマや映画や漫画や小説の中の人の人生を見たり読んだりで、いろいろ知ってる気がしたけど、それはその生みの親、つまりは作者さんの生み出したキャラクターだ! 私の生み出したキャラクターじゃない!
「チャンスやって言うてますねん。このPTAはリアル人間観察のチャンスですわ。大切なプリント出し忘れた二番に感謝ですわ。だって、いろんな人に出会えて、何よりいつか書きたいと思ってる中学生の葛藤や日常、保護者の思惑めぐるPTAや、学校の風景描写や、いろいろ役立つってことですやん」
おお! そういうことか!! 脳内再生天才か! 確かに引きこもっていてはそれはリアルに書けないわ。ガッチーズで最後のシーン、リアルにかけないからと強行で東京まで行った私としてはものすごく理解できるぞ!
「せやから、これ小説のために楽しまな損ですいうてますねん!」
脳内再生素晴らしい! 良いこと言うじゃないか!
めっちゃめんどくさいけど、そして引きこもりから表に出るの怖いけど、人間関係物議醸し出すのも怖いけど、怖いと思うことさえも書けるではないか!
「ちゅうわけで、プリント出し忘れた二番に感謝しといてください。ほなさいなら」
と言って、脳内再生は姿を消した。
人間観察しなきゃ自分独自のキャラを生み出せない。その通りだ。私はそう思った。
入学式や卒業式に必ずあるPTA会長の言葉。
三番の入学式、二番の卒業式、こうやってカクヨムで学んで書いた今よりも研ぎ澄まされるかはわからないが、きっと今よりも上手に書いた感動的な文章を、昔つちかったMC力で壇上から話す。まさにこんな日が来るとは!!
引きこもりだった私は、四月から引きこもらなくなる。
かも、しれない。
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