第29話 今日のおかずはハンバーグ

 今日の我が家の夕飯はハンバーグである。先ほど今日は何が食べたいかと子供たちに聞いたところ、二番がハンバーグとポテトサラダといったからだ。


 脳内がカクヨムを始めてからというもの、常に何かお話を考えたり、妄想したりしているので、献立を考える作業スペースがあまり残っていない。だから食べたいものをリクエストしてくれるのは大変ありがたいのだ。ただし、お高いメニューや時間がかかりすぎるメニューは大変ありがたくはない。そういう時は却下して大抵の場合は鉄板焼きナポリタンで落としこむ。卵が絵鉄板で焼かれている、よく喫茶店で見かけるやつだ。見た目も映えるし、材料費も安く手軽である。


 ところが今日のリクエストはハンバーグである。いつもは手間なし包み焼きハンバーグを既製品の材料などで組み合わせ作るが、今日は手ごねのハンバーグを久しぶりに作ろうと思った私は、無駄なく夕飯を作れるようにするため、脳内再生でハンバーグのレシピを確認し、作業手順を一通り確認することにした。


 まずは、玉ねぎをみじん切りにしてフライパンに油と共に入れ、じっくりじっくり飴色になるのを目指し、焦がさないように気をつけながら炒め始まる。


 ジジジジジジ。


 火が入りはじめ、玉ねぎがゆっくりと動き出してきた。小さな身体を小刻みに揺らし、なかなかいい動きをしている。これでちょうどいい時に火を止めればいい。


 炒めている玉ねぎを横目見にながら、次はお肉の部分を作り始める。


 おっと、その前に、小さめのボウルにパン粉を入れて、真っ白な牛乳に浸してやる。これで全ての材料の準備が整う頃には、ふにゃふにゃと、しっとり柔らかい身体になっているはずだ。美味しく作るコツは、パン粉は生を使うこと。生パン粉に乾燥してカサカサしたパン粉は到底勝てない。しっとりとした潤いが必要なのだ。


 さて、いよいよメイン食材、豚と牛肉のひき肉をパックからボウルに入れる。


 この場合冷たく冷えていた方がいいと、以前調理学校の先生に習ったので、できるだけ冷たい状態で入れてやる。私の手をひんやりとかすめてはらはらとボウルに落ちていく肉片たち。可愛らしい。なんてきれいなピンク色に赤みを帯びた

肉片たちなのだ。私はしばしその冷たい小さな肉たちを眺めるが、冷たいうちに混ぜなければいけないという先生の言葉を思い出し、ボウルに私の生暖かい指をゆっくりとを差し込む。


 ずぶっ…ずっ……ずぶっずぶっ……っ!


 ……はぁうっ! 


 思わず声が漏れる。なんと冷たいのだ。でも早くかき混ぜてやらねば、私の体温でこの可愛らしい肉たちが暖まってしまう。私は急いでその可愛らしい小さな身体たちが粘り気をおびてひとつにまとまるように、こねる。手首のスナップを使い、上下に動かし、そして時々ぐるりと優しく回しながら、ピンク色と赤色が交わっていくのを、掌で愛撫するかのように楽しむ。


 忘れてはいけない。ちょうどいい色に身体を染めてきた玉ねぎの火を止めて、冷たいバットに移動させ、平べったく広げて、その熱を冷ましてやることを。


 次に真っ白などろりとしたラードをボウルの中に絞りいれる。


 にゅ……るっ…とろぅっ……


 白いどろりとしたラードを、先ほど私の温かい手により粘り気を帯びた一塊の肉へと、挿入していく。よしこれでいい。これでもっと美味しくなるはずだ。


 次に生卵をふやかしておいたパン粉と牛乳に割り入れて、手でかき混ぜる。ふにゃふにゃした白いパン粉の肌に卵の黄身がマーブル模様で混ざり合い、白身がにゅるにゅると、まるで私の指を丁寧に舐め回しているかのようにまとわりついてくる。もう少しでみんなを一緒にしてあげるから待っててね、と私は声をかけ、もう熱は冷め生暖かくなった身体の玉ねぎちゃんたちをその中に入れる。


 こうしてパン粉と牛乳と卵と飴色の玉ねぎが合体した美味しい材料を、先ほどのお肉のボウルにいれて、その上から、香りをもっと引き立たせるためのスパイスと塩胡椒振り入れる。


 そしてさらに全てがひとつになるように練り込む行為を致したのち、いよいよ手に適量をとって、優しく手のひらでキャッチボールのように右へ左へと移動させ空気を抜く。


 ぺちんっ! あっはぅん、ぺちんっ! あっはっ! ぺちんっ! あぅんっぅん、ぺちんっ!


 まるで叱られてお尻でも叩かれているかのような艶かしい音を立てながら、ハンバーグは美しい楕円の形になっていく。思わず私も気合が入ってしまう。


 生で触る工程がもう少しで終わろうとしている。


 少し名残惜しいが、全ての材料を暖かな手で優しくかき混ぜ、一度ここで手を洗う。べとべとと手についたお肉たちのエキス。これはもう水だけでは落ちないほどにねっとりと私に絡みつき、離れていくのを拒んでいるようだ。でも、仕方がない。かわいそうだけれど、洗剤を使い手を洗う。ごめんよ、こんなに溶かしてしまって。流れていく油たちを見て私はそう声をかけた。


 さぁ、最終工程、焼きにはいろう。


 フライパンに油を引いて、空気を抜き形を作ったハンバーグを入れて焼く。ここでちゃんと焦げ目をつけてあげなければ、旨味を引き出すことができない。崩れないように慎重にハンバーグを両面焼き、表面が固まりはじめたら、オーブントレイにのせて、予熱してあったオーブンへ。これであとはガスオーブンがちょうどいい焼き加減で仕上げてくれる。


 あとは焼き上がりの確認に、ふっくらと膨らんだハンバーグに串をぷすっとさして、旨味を含んだ透明な肉汁がぶわっと溢れ出るのを確認すれば完成だ。


 ふう、脳内再生終了。


 はぁぁ。なんかものすごく満足した感がある。脳内再生だけで大満腹ではないか。もう手ごねのハンバーグを作る必要性を微塵も感じるとることができない。もう良いのではないか? こんなに手ごねのハンバーグを感じてしまったんだから。



 もう、もう、もう、手ごねでなくて良くね?


 手ごねでなければ、わざわざ着替えていつもいく大きなスーパーに行かずとも、今きているヒートテックにフリースベストの上にコートを羽織ればノーブラでも行けるご近所のドラッグストアで全ての材料が揃うではないか。着替えなくていいなんてマジ最高!


 と、いうわけで、我が家の今夜の晩ご飯は、チャチャッと包み焼きハンバーグになりました。チーズインのハンバーグを買ってきて、アルミホイルにハッシュドポテトを敷いて、その上にハンバーグをパックから出して乗せ、その横にブロッコリーやキノコを入れて、その上から缶で売っているデミグラスソースをかけて、オーブンで焼けばあら不思議。どこぞのファミレスの包み焼きハンバーグみたいになります。一番下のポテトがボリューミーでものすごく高級な美味しい味になります。ホイルで包んでるから洗い物も楽ちん♪


 オススメです♪



追記

このエッセイをさくっと30分くらいかけて書き上げたのち、買い物に出かけることにいたしました。そのままの格好でコートを羽織ろうとした私に子供たちがどこへ買い物に行くかと尋ねましたもので、近所のドラッグストアの名前を言いましたところ、それは手ごねハンバーグじゃない買い物だと気づかれてしまい、どうしても今日は手ごねハンバーグが食べたいと申しましたので、面倒くさいですが着替えて、いつもの大きなスーパーに行って買い物をし、ただいま塾に行く二人分をオーブンに入れました。


やはり私は妄想は好きですが、想像力が少し足りていないようです。


楽しい妄想の手ごねハンバーグ。どうやら四人前くらいの量だったようで、実際は約八人前。そうなのです。妄想の二倍の量だったのです。


無茶苦茶疲れるやん! こねこね工程!


ただいま右肩と両手がもう疲れたと悲鳴をあげています。パソコンで上手に文字を打つこともできません。


やはり、想像力は大事だとさらに思ったのでした。

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