第26話 まさかのミステリー小説か?

 妄想力を取り戻した本日。朝からゴロゴロ見逃し配信ドラマをみていた私は、本日のスケジュールを確認したく、夫に電話する。


 「今日お昼ご飯帰れる?」


 「いや、今日は忙しくって帰れんから、夜も無理やし、明日の昼かな」


 「そっか、了解」


 しめしめ。これでダラダラし続けていてもいいぞ。とりま週末見れなかった1月クールの新ドラマの一話をざっとみて、それから妄想日記を書こうじゃないかと思った矢先夫に言われた。


 「あのさ、執筆活動楽しいのわかるけど、やることはやらないかんでね。例えばお風呂掃除とか」


 「あ、はい。そうですね。そうですよね、専業主婦は職業だけど、趣味に走りすぎて趣味主婦になっちゃったら、それはもう職業じゃないですもんね、多分それは、小説家になりたい引きこもりニートかな?」


 そんな職業は存在していてもいいかもしれないが、とりあえず我が家には存在していないということで、お楽しみの時間はおしまい! 水回りの掃除とリビングを脅かす部屋がまだない四番五番の机とお布団の部屋を片付けることにした。


 すげー。どうしてこんなに物が溢れているんだろうという四番五番の机。


 もうね、昔かの有名な断捨離を生み出した大先生の直々三日間コースに参加して鍛えた私の断捨離力はパナイですよ。もうこうなったら!全部床にぶちまけているいらんいるいらんを徹底的にお母さん目線で断捨離だ!


 と、その前に、お風呂にカビキラーを振りまいてっと。


 床に飛び散ったプリントや小さなガチャガチャのおもちゃや鉛筆やクレヨンやシールたちに混じるノートや教科書、九九カード。


 BGMに1月クールのドラマをかけて、これはいるいらないいるいらないを繰り返す。おお! すごいスッキリ! でもここで注意しなくてはいけないのは、子供の持っている私にはいらんもんが、実は子供のとても大切だったりすることもあるので、毎回脳内のデータを検索し、これはどんなことを言って手にしていたかを確認する。


 うん、ほぼいらない。脳内データには彼女たちがこれを大事に見せてきた記憶は残っていない。そうだな、残っているとすればガチャするときだけ楽しそうだったけど、家に帰ったらほったらかしていたということだけだ。


 かろうじて集めているっぽい呪術を使う高校生が出てくるアニメのお菓子についているシールだけはまとめて箱に入れてやった。


 ふう完璧。これをここから汚し始めたらマジ許すまじ。そう言いながらその机の隣の窓際に置いてあるガラスケースの中の小さな砂漠に目を移す。


 なんて可愛いんだ三匹よ。今日も三匹でくっついて寝ていてたまらないではないか。つまらぬものを大量に断捨離した私はとてもとても癒されたぞ。


 癒される時間を満喫したのち、子供と寝ている布団の部屋を片付け、お風呂に入りながら風呂掃除をし、残すところトイレと洗面所とキッチンの床かというとこまできて、本日の夕方からの予定を思い出した。いかんいかん、銀行は三時までだと、残ったところは明日にまわして、銀行に向かった。


 銀行で呼ばれるのを待っていると帰宅したらしい三番から電話がかかってきた。


 「もしもし? お母さん?」


 「うん、何?」


 「あのね、今ね、どこにおる?」


 「え? 今銀行。なんで?」


 ここから先の彼女の電話の話がなかなか興味をそそるものだったので、いつか大好きなミステリー作家のM先生のように大人な心に染みるミステリーが書けるようになりたいと思いつつも、多分一生書けないだろう私は、脳内再生だけであればアリではないかと、せっかくなので本日起きたありのままをミステリー小説風に妄想をして記録しておくことにした。



題名【顔のない隣人】


「もしもし? お母さん? 今、どこにおる?あのね、さっきピンポンがなってね、それで、トイレに入ってたからすぐに行けなかったんだけどね、そしたらね、またね、ピンポンがなってね、それでね、それも間に合わなかったんだけどね、玄関の外に出てね、それでね外をのぞいてみたらね、そしたらね、警察の人が何人かいたの」


娘からの突然の電話、そして娘が言った警察の人。その言葉になぜか心がざわつき、私は急いで自宅に戻ることにした。車で三分の自宅に戻ると家の道路脇にある駐車スペースにパトカーが止まり、娘の言うとおり、確かに男性の警官が三人いる。


これはもしや、何かが起きたのではないかと不安がよぎるが、こんな田舎町にそんな新聞に載るようなたいそうな事件など起きるわけはないな、とやはり思いなおした私は、パトカーの手前にゆっくりと車を停めた。


 警官は突然目の前に現れた私の車に一瞬驚いたかのように見えた。なぜ自分たちに近づきわざわざ車を止めたんだろうと思いもでもしたのだろうか。ハザードランプを点灯させ、車を降りて警官のもとへと歩く私の髪を、今日の夕方から冷え込むという天気予報通りの冷たい空気を纏った風がヒューッとふいて乱していった。


 乱れた髪を整えながら、何かあったのだろうかと思った。こんな小さな街にと。誰がどこの学校に入っただとか、誰がいつ離婚して家を出て行っただとか、誰が有名な会社に入っただとか、死因は実は自殺だったとか、そして、誰と誰が浮気をしているとか。そんなささやかな他人の家庭内の情報を聞きたくもないのに聞く羽目になってしまうようなこんな田舎に、いったい何があったのだろうかと、私は思いながら、警官に話しかけた。


 「すいません、あそこの家のものですが、子供から電話をもらって、警察の人が家にきたと聞いたもので。何か、御用でしたか?」


 「あぁ、あそこの家の方ですか。それはそれは、わざわざ」


 「何かあったんですか?」


 「失礼ですが、道を挟んだお隣の方はよくご存知ですか?」


 お隣の家は三角地に建つこじんまりとした平屋で、もとはご夫婦で住んでいたのを知ってはいたが、面識はあまりなく、町内会で年に一度回ってくるゴミ当番の時に近所の渡井さんがその家のお父さんが病気で亡くなったということを数年前に聞いた、というくらいしか私は知らない。


 「奥様は自転車に乗っているところをたまにお見かけしましたけども、でも、それが何かあったんですか?」


 「いえね、家族の方から通報があったんですよ」


 「通報……?」


 「連絡が取れないから、調べて欲しいと」



 そして、ここまでで妄想脳内再生は終ることにした。この先起こりうるだろう何かや何か、きっと今年PTA本部役員になってしまう私は、引きこもりの今よりも他人に会う機会が増えるはずだ。本当はやりたくなかったPTA。絶対言いたいこと言っちゃって物議かもしちゃうから知らない人と関わりたくない私。


 組織とか、知らない人とか、そういうの絶対嫌と思い、家で引きこもって特定の人としか話したくないしと思っていたはずなのに、カクヨムで書き書きし始めてからもっといろんな世界が知りたいと思ってしまった貪欲な私は、今はPTAにだいぶ心惹かれている。


 会議のある夜の学校、先生との会話、PTAの親さんとの交流。


 めっちゃネタありそうやん!


 そういうの経験して、この続きをフィクションで書きたいと思った本日なのであった。



 そして、この妄想日記を書いているまさに今、ナウな今、ヘッドフォンをつけ懐かしいダンスミュージックで体を揺らせながらニヤニヤ書いている私をものすごく白い目で見て一番ちゃんは就寝するために部屋に向かった。


 「絶対いつか小説家になってお母さんすごいねって言わしたる!!」



 今日も妄想が過ぎたのでこのあたりでお開きに致しましょうかと。ご清読ありがとうございました。



でも、やはり、お隣さん、心配です。

何事もありませんように。

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