第16話 ピンポンダッシュプレゼントは突然に

 先日のクリスマス。昔一緒に働いていた友人より、毎年恒例のピンポンダッシュプレゼントが届いた。なぜ彼女は会う事なくピンポンダッシュで走り去っていくのだろう。私は久々に会いたいのに。多分厨二病なのである。


 《大好きな和響へ メリークリスマス! お酒はもういらないって言ってたので、今年は小説家になりたいと言う貴方が執筆活動を暖かくできるように、選びました。 今年もありがとう。 Mちゃんより》


 子どもたちへのお菓子と、なんと! ずっと欲しいけどお高いので買うことは一生ないだろうと思っていたフワフワモコモコのルームウェアが入っていた。超いいやつ! なんてグッドセレクト! 早速興奮しながら袖を通すと、まるで包み込まれるような暖かさではないか。


 すごいすごい超嬉しいとはしゃいでいると、三番以降の子どもたちがよってきて、


 「あ、これこないだ見ていた顔がいい先生のドラマで綺麗なお姉さんが着ていたやつだ。」


 と言う。そうそう、それなんですよ。冴えないサラリーマンの奥さんもきていたやつですよと伝えると、一緒に配信ドラマを見て知っている三番以降の子ども達が、口々に、いいないいなMちゃんさすがだね。などとMちゃんを褒めちぎる。


 「でも、なんでわざわざ遠くからやってきて、いつもお母さんに会って行かないの?」


 全くだ。なぜ毎年ピンポンダッシュなのだろう。数年前に二番がたまたまピンポンダッシュしようとした現場に遭遇した時は、買ったばかりのオープンカーでじゃあねー! と手をふり髪をなびかせて走り去ったそうだ。


 「Mちゃん、カッケー! オープンカーで走り去っていったよ! 寒くないのかな?」


 だよね。きっと寒いはずだよね、12月だもん。


 彼女は毎年、私の誕生日には大きなフラワーアレンジメントとワイン、クリスマスには子ども達へのお菓子とワインを届けてくれていたのだが、お酒が大好きすぎて一人で一本ぺろっと飲むのは流石にまずいと思った私は、今年の誕生日にお礼を伝えつつ、お酒は飲みすぎちゃうから大丈夫だよ、と伝えていたのである。きっとじゃぁ何がいいのだろうと、考えてくれたんだなと思うと、嬉しい気持ちでいっぱいである。


 でも、なぜいつもピンポンダッシュなのか。もう一度言うが多分厨二病なのである。私はいつも妄想する。きっと彼女は、


 「こっそりと、玄関にプレゼントを置いて、走り去る。かっこいい私。大好きだから、会わないほうがいいんだよ。会ってしまったら、もっと貴方を好きになってしまうから。」


 ん? どう言う関係なのだ?! 私のことが大好きすぎるのか? いや違う、きっと、


 「会って話すの超めんどくさいけど、毎年恒例になっちまってるからしゃあないからわざわざ30分もかけて行って、今年もプレゼント置いてくるか。」


 絶対ないな。こちらの妄想は。やはり、どちらかと言うと前者。そんなに私のことが大好きだったのね! 私もよ! Mちゃん!


 そんなこんなで感謝のメッセージをLINEに送ると、だいぶ経ってから返信が来る。これもきっと厨二病的なのかもしれない。


 「すぐに返信したらかっこ悪いだろ。こういうのは、クールに。時間を置いて、喜んでくれてよかったよ。メリークリスマス私の愛しい和響。」


 などときっと思っているのかもしれない。そんな彼氏のような彼女が私は大好きなのであるが、今年は一回も会ってない気がする。ピンポンダッシュだから。


 そういう私の今年の私の彼女へのプレゼントは確か・・・・

 

 誕生日は実家の魚屋の手巻き寿司セットと、Mちゃんのロゴマークを私がデザインしてオリジナル製作した水筒。クリスマスプレゼントは実家の魚屋の蟹五匹一箱。


 どちらも、私の家より、Mちゃんちのほうが実家の魚屋に近いので、申し訳ないが直接取りに行ってもらった。


 こうして書いていると、私の贈り物は大概ひどすぎることに、今、初めて気づく。


 彼女は毎年心を込めてプレゼントを選んでくれ、わざわざそれを買いに行き、メッセージカードを添え、片道30分以上かけて、ピンポンダッシュプレゼントしにきてくれると言うのに、私はというと、


 「Mちゃん今年も手巻きセットでいい? ごめん!仕事帰りに取りに行って〜」


 などと電話一本で実家の魚屋に手配をして、電話一本で本人に取りに行かせているのだ。ワオ。なんて心のこもってない私のプレゼント。もはやそれはプレゼントではない気さえしてくる。


 いやいや、でも、MちゃんオリジナルLINEスタンプを内緒で作って贈ったこともあったし、Mちゃんオリジナルロゴマーク入りパーカーや、水筒も作って贈ったことがあるではないか。まぁ、水筒は私がデザインで入れた英語のメッセージが恥ずかしくて、外では使えないとぼやいていた気がするが、心は込めたつもりである。ただ、実家に取りに行ってもらたり、オンラインで送ったり、私も会おうとはしてない気がしてきた。


 年末、実家に帰る時にはお茶くらいしてやるか。私が大好きな彼女のために。


 そんなことを、いつかこのエッセイを目にするかもしれない愛しいMちゃんを想いながら書きしたためておくことにする。



追記

 Mちゃんがくれたお高いフワフワが着心地良すぎて、ついつい密林で下のズボンも購入してしまいました。先ほど届きまして、ウキウキしながら履いてみると、とても暖かく、肌触り最高! これはノーパンで履くのはもったいないな、などと思いながら、鏡に向かいました。超気持ちいい! などと言いながら、上に着ていたフワフワモコモコのパーカーを持ち上げたその時。最近見たこともないようなまあるいお腹がバーンと出ているのが見えました。おう。これは、夫に見せたくないほど出ているではないか。これでは万年妊婦腹。そうだな、見たところ妊娠6ヶ月あたりのお腹の大きさだろうか。


 Mちゃん、ありがとう。私、気づいたよ。結構やばいとこまで来てるわ私のお腹。うん、よく見るとドラマの可愛い女優さんが来てるのと違う製品に見えてくるわ。Mちゃんのおかげだよ。このフワフワモコモコ毎日来て鏡を見るようにするね。年末年始だけど、食べるのに気をつけるようにするね。そしてやっぱり31日に会うのはやめようか。きっと誰だかわからないかもしれないからさ。Mちゃんと働いていたくらいに戻ったら、必ずデートに誘うからね。


 果たして、そんな日は来るのだろうかなどと思いながら、夕方にピザを注文する2021師走であった。


 


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