第17話 爬虫類ではなく両生類

 あけましておめでたい本日。昨晩、一個前に書いたピンポンダッシュプレゼントをしてくれる友人と雪が降る中行ったカラオケで、白い泡泡を楽しんだ私は、起きてきた実家のお母さんにこう言われた。


 「あんた、すごい顔腫れてるけど大丈夫?」


 え? まじ? と鏡を見に行くとそこには顔がパンパンになりまぶたが腫れて垂れ下がった私がいた。


 「カエルですか? もしかして?」


 脇肉さながらにまぶたの垂れ下がったお肉が語り出す。


 「あんた昨日飲みすぎやん。姫迎えにきましたと厨二病のやつに乗せてもらって楽しいのはわかるけど、そんでもって、姫迎えにきましたって言ってもらうこと前提のあんたの服装も真っ赤なチェックのロングワンピースっていうのもわかるけど、雪が降りしきる中、レンタカー屋さんのカラオケ行くのにコンビニで泡が出るワイン一本買って飲み干すとかどないやねん。あんだけ彼氏みたいな彼女な友達にプレゼントにワインはあかへんいうてたのに、自分でそれ買って飲み干して、アホやん。」


 と言われた。あ、確かにそうですね、私彼女に一本ぺろっと飲むからもういらへんって言ったんでしたわ。そんで彼女は今年のクリスマスプレゼントはお高いルームウェア送ってくれたんでした。


 「かなりのアホですやん。それ彼女からしたら、結局飲むなら今年もそれでよかったやんて話ですやん。」


 うん。その通りです。でも自制せねばと思ったわけでして。


 「ほんでなに? 実家に帰ってきてからさらにハイボールなるものを自作して飲んで、実家のお母さんが大晦日のお節のために働きまくって疲れてるのにも関わらず、そのお母さんよそにしてコタツでおおいびきだったなんて、マジ最悪ですやん。」


 え? おおいびきでオコタでしたか?


 「ええ。かなりのおおいびきであんたのお母さんドン引きで寝れませんでしたわ。さらには足でお母さんの顔を蹴るなんてこともあってほんまお母さん大迷惑ですわ。コタツの中に足があるのに出てきて蹴飛ばすとかどないな状況ですねん。あんたのお母さんがどんだけ年末頑張っていると思ってますねん? ほんま、バイト一日30人調達してお節二段重300個も作ってますねんで?」


 マジで? お母さんマジごめん。そういう私にまぶたのお肉はまだまだ言いたいことがあるようで。


 「ほんまあり得ませんわ。そんな感じやから私もエセ関西弁でこうして出てきてますねん。もう水分量パネェなんてもんじゃないですやん。垂れるしかない私の気持ち、全くわかってないですやん。そんな飲みまくりでしたら初夢も何も覚えてなくて人生損しまくりですよ。私でさえも初夢をなに見たか忘れてしまったですやん」


 確かに、何の夢を見たか思い出せない。


 「あんたの首のところか顎のところかの境目がよくわからん肉もさらに鬱々として膨れ上がって垂れてきてますやん。気づかへんのですか? もうこれは人間ちゃいますねん。見た目哺乳類通り越して、さらには爬虫類も通り越して、両生類に近い感じになってますやん」


 え? 両生類!?


 「そうですねん、両生類ですねん。水分量が多すぎてうるうるプルプルですねん」


 それはいいことでは?


 「あんた、鏡に映る自分見て果たして本当にそれでいいと思いまっか? まぶたの肉として言わせてもらうとするなら、かなりやばいと思いますねんけど、どう思いますねん? 早よもう一回見てください自分の顔を」


 ワオ。カエルちゃん。


 「カエルに失礼言うてますねん。カエル可愛いですやん。カエルちゃんはペットとしてもかなりな人気者ですわ。カエルに謝ってくださいよ。あんたの顔はカエルと言うよりは、大山椒魚」


 大山椒魚おおさんしょううお!? あの川に潜るとたまにいる岩みたいなやつ?!


 「それくらいぼったりとのっぺりと垂れてますやん。あんたの顔。もうこれはいけませんで。愛するパパさんもいつか限界が来るはずですねん」


 いいやパパは私自身を愛しているから見た目で判断しない! 決してそんなことはない!


 「もしやアホですか? じゃあ聞きますが、仕事で今ここにいないあんたのパパさんにこの顔堂々と見せられるんですか? そうだとしたらその神経が信じられへんのですが、もしやアホなんですか?」


 もううるさい! 脳内再生やめてくれ! と顔を洗った。きっと冷たい水で引き締められた私のまぶたは垂れ下がってないだろうと期待を込めて。


 うんと、うん、そうか、そうかもね。


 「ですよね、そんなことくらいじゃ私は小さくなりませんわ。」


 くぅ! くそう! おっとくそはうんこだ、そんな言葉はいけない。でも言いたい、何ならうんこと言ったしまった方が傷が浅いかもしれない。


 このうんこまぶため!


 「ひどいですやん! うんこにあやまったってくださいよ! 身体の中の不要物綺麗に毎日してくれてるのに!」


 

 私の身体の中の肉たちは、排泄物に至るまでどうやら意思があるらしい。そしてそれぞれ尊重しあって生きているようだ。



 平和な私の体の細胞たちに、不要で外に出すものさえも感謝だと教えてもらった2022お正月。爬虫類を通り越して両生類の私は、深夜に起きて芋焼酎お湯割りを飲みながらこれを書く。


 

 きっと明日は、ちゃんと哺乳類の人間になれることを信じて。



 芋焼酎お湯割り超うめぇ!


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