【完結】罰ゲームで無口なクール女子を惚れさせる事になった俺だが、ガン無視ってそれはない【短編1万文字以内】

天馬るき

第1話

「余った……」

「「「はい、翔太の負けー!」」」


お昼休み――。

一つの机を囲み、男四人でジジ抜きをやっていたら、最後の一枚のカードが俺の手元にあった。

ジジ抜きと言うのはババ抜きに少し似ているのだが、ジョーカーを抜き更に52枚のカードから一枚を抜く。

抜かれたカードは誰にも分からず、最後に余った一枚のカードを持っていた人が負けと言うトランプゲームだ。

本当はババ抜きをやるつもりだったのだが、友達の一人がそれだとつまらんから、ジジ抜きにしようと言い出したのが始まり。

俺は別にババ抜きでもジジ抜きでもどっちでも良かった。

そして、このゲームで負けた人はクラスの女子一人を選び、惚れさせる事に成功したらジュース一本を他の三人が奢ると言うルールだ。

俺、しょうはそのトランプゲームにあっさりと負けてしまい、今から女子ターゲットを誰にするか決めるとこだった。

しかし、この教室の女子の殆どが彼氏持ちで罰ゲームとは言え、なんて出来る訳もない。

もしそれで好きにでもなられたら、相手の彼氏から寝取る事になる。

そうなれば学校中から白い目で見られるのは間違いないだろう。だからなるべくなら彼氏が居なさそうな人を選びたいが……。


「お、来た。今日もクール美人だなぁ……」


友達の一人が廊下側を見てそうつぶやく。

ふと視線を廊下側に向けると、一人の女子生徒が教室の中へ入って来た。

彼女の名前は、ぐちあさ

端麗な顔立ちにスラーッとした足。

腰まである真っ直ぐに伸びた綺麗な黒髪が凄く似合っている。

実は彼女の隠れファンが結構居るらしい。

けど俺には彼女の良さなんて分からない。

話した事もないし、教室ではいつも一人で読書。

友達と一緒に居る所なんて一度も見た事がない。一人が好きなのか、他人と自分は住む世界が違うって思っていそうなクール女子だ。

だから俺は勝手に彼女の事を嫌っているし、話し掛けたくもない。

同じクラスになったのは二年に上がってから。去年の一年の時はクラスは離れていたが、廊下ですれ違ったり、放課後の図書室で見掛けたりしていたから既に知っている。

前々から思っていたが、俺と彼女の接点は殆ど無く、挨拶を交わした事すらない。

そう、罰ゲームでも無ければ彼女に話し掛ける事すら無かった―――。




「なぁなぁ、誰にするか決まったか?」

「さっきから言ってるじゃん。殆どの女子が彼氏持ちで無理があるって」


放課後の教室で友達からしつこく聞かれる。隣のクラスならフリーの女子は結構居るみたいだが、がターゲットって事で今回はダメと言われている。

前回は今俺と話している西辺にしべあらたが罰ゲームで女子一人を惚れさせる事に成功している。

しかし、こいつはバカだ。

相手に彼氏が居るか確認を取ってなかったせいで、その女子の彼氏から殴られる始末。

自業自得としか言いようがない。


「本当、お前は慎重だなぁ」

「お前だけには言われたくないね」


そろそろ帰るかと思い、机の横に掛けてあったスクールバッグを持って教室を出ようとした時だった。

あのクール女子とぶつかりそうになり、俺は咄嗟に謝った。


「わ、わりぃ……」

「……」


ぱちっと目は合ったものの、彼女は一言も喋らずに俺を横切り自分の席へと座った。

部活でも入ってない限り、下校時間は守らなければいけないと言うにも関わらず、彼女は静かに読書を始める。

その態度が俺にはムカついた。


(こっちは謝ったって言うのに!)


実は俺って以外とキレやすいタイプなのかもと、この時に感じた。


「新。俺、女子ターゲット決めたわ」

「もしかしてあのクール女子か?」

「あぁ……」


学年の中だと一番惚れさせるのは難しいと言われている、瀬戸口麻夏を俺に惚れさせる。

惚れさせた後は思いっきり振ってやれば良い。周りから最低だろうと何だろうと、俺には関係ない。

そもそも俺は、あいつの態度が気に喰わない。同じクラスになって漸くそれに気付けた。俺が謝ったら返事ぐらいはしてくれるだろうと思っていたが、完全にシカト。

だったら罰ゲームを与えてくれたこいつに、あの二人に感謝する。

俺が本気になればあのクール女子なんて、イチコロだ。

そして最終的には振ってやる。

覚悟しとけよ、瀬戸口麻夏!!


         ◇


とは言ったものの、どうすれば相手を惚れさせる事が出来るのだろうか。

翌日の朝、俺は学校へと向かっていた。

結局あの後ずっと俺達の事は眼中にないのか、ポーカーフェイスを維持したまま読書を楽しむ瀬戸口麻夏。

瀬戸口麻夏め。あれは絶対に俺の事をバカにしている。

無視無視無視!!!

俺が話し掛けても最後まで無視しやがって!

選んだ女子ターゲットが悪かったのか?

いや、俺を無視したあいつを、瀬戸口麻夏を許す訳にはいかない。

この短期間の間に彼女を俺に惚れさせる事。

それがこの罰ゲームのルールだ。

そして俺は今、校門をくぐり学校の中へと入った。そこであまり遭遇したくなかった瀬戸口麻夏が、上履きに履き替えてる所だった。

俺は彼女に近付き壁ドンをしてみる。

これは女子が男子からされて嬉しい事ナンバー1!!

10秒以内で惚れさせてやる。


「なぁ、何で俺の事無視してんの?」

「……」

「俺さ、せ……君と話がしたくて声を掛けたんだけど?(嘘だけどな)」


さぁ、赤面した顔を見せやがれ!!


「……」

「え?」


彼女は赤面すら見せずポーカーフェイスを維持したまま、俺の腕をするりとくぐり抜けると、一言も喋らずに自分の教室へと向かった。

周囲に居た生徒達から笑われ者にされ、皆の前で恥をかかされた気分だ。



「瀬戸口さんを惚れさせるのは諦めたら?」


お昼休み、教室でいつものメンバーとジジ抜きをやっていると、新からそう言われた。

今回の女子は厳しい事もあり、諦めも肝心だと言われる。

確かに他の女子を惚れさせるよりも、瀬戸口麻夏を惚れさせるのは厳しいようだ。

この先何ヶ月かかっても、彼女を惚れさせるのは無理な気がしてきた。


「でも悔しいんだよ。瀬戸口麻夏を惚れさせれないのは!罰ゲームは継続だ。俺は何としてでも、あいつを惚れさせる」

「お前さ、意地になってるだろ?」

「なってねーよ!!」

「「「やれやれ」」」


そして俺は放課後まで待ち、瀬戸口麻夏が教室から出る瞬間を狙った。

彼女の後をつけ、いつも利用していると言う図書室へ入ると彼女が座った席から少し離れた席に座る。

彼女の弱みでも握れないか少し様子見するが、弱み所かずっと静かに一人で読書を楽しんでいるだけのようだ。

見ているとだんだんと、眠たくなって来る。

暫く彼女を眺めていると、複数人の女子が図書室の中へ入り、瀬戸口麻夏を取り囲んだ。

見ているとやばそうな雰囲気だ。

此処だと聞こえづらいからもう少しだけ、近付いた。


「……」

「クールアピールでもしてるつもり?」

「うわ、こいつ。ラブコメ読んでるんだけど」

「何?瀬戸口さんってそういう人なの?」

「クール女子を装ってるだけじゃなく、ラブコメのヒロインにでもなりたいんじゃない?」

「……っ!無視してんじゃないわよっ!!」


相手の女子の手が彼女に降りかかろうとした時、気が付いたら俺は身体が勝手に動いていた。

そして、相手の女子の手首を掴んだ。


「え?久我君!?」

「間近で見るともっとカッコいいんだけど!」

「えっと、私に何か用かな?」


先程までこいつは、瀬戸口麻夏を殴ろうとしていたくせに今更可愛いアピールか。

見てるとイライラする。


「そいつは俺のだから手を出すな」

「え……?あはは、嫌だなぁ。久我君みたいなイケメンがこんな性格の悪そうな女が大事だなんて、嘘だよね?」

「そうだよ!久我君は寿みたいな人がお似合いだと思うよ!美人だし……」


そんな言い訳が俺に通用する訳がなく、近くにあった椅子をガンっと強く蹴っ飛ばした。

それにビビったのか、女子集団は慌てて図書室から出て行き扉を閉めた。


「ったく、女子のイジメって恐ろしいな。お前も何か言い返したら……」


彼女の顔を見た瞬間、何かの見間違いかと思った。普段クールを装ってる彼女が、瀬戸口麻夏が―――









涙を流し泣いていた。

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