泥の泡

金浦 樹

しんかい

「こんなところに来ないでほしい」

うそだ、ほんとはさみしいくせに

「寒いところは好きなの」

うそだ、だれかそばにいてほしいくせに

「手を離して、忘れてくれていいよ」

うそだ、ほんとはずっと

あきらめないでいてほしいくせに


ここは暗く暗く沈んでる

周りに誰もいないみたい

でもほんとは知ってる、

君にもたぶん海の底があるって

まるでここに僕しかいないみたいって思ってるけど、

僕が少しも声をあげないからだって


ほんとうのことを伝えて

分からなくても分からないってことが分かって

君と心を交わすことが素晴らしいと思ってる

それが正しいと思い込んでる

心を渡せる誰かを待ってる

僕はお姫様になるには醜い心をしてるのに


『地獄までついていくわ』

ほんとうに?一緒にいてくれるの?

嫌だよ、君には天国に行ってほしい

『あなたになら傷つけられたっていいわ』

なんて情熱的!

嫌だよ、好きな人が傷つくのなんて見たくないよ



こんなところに来ないでほしい


ほんとだよ、つよがりではあるけど


寒いところは好きなの


ほんとだよ、このさむさだって僕だから


手を離して、忘れてくれていいよ


ほんとだよ、一瞬でも君と笑い合えたから



そうして僕は今日も

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