第127話 魔王もゲットだ一段落!

 王子様ルックを風になびかせ、魔王キナッコーと相対する俺。

 今、勝負の時である。


 輝く虫取り網はゴッドキャプチャー。

 名前通りなら、相手がなんだろうと捕獲する。


『お前、その網はまさか……! わしに対抗しうる武器を手に入れたというのか、今、この瞬間に!』


「正しくは武器じゃないがな! こいつは生活のためのアイテムだ!」


『生活のために神を捕まえる人がいるのですかな?』


 今のラムザーのツッコミいらないよ!


「というかラムザーも並走するのか。大丈夫?」


『盾が必要でしょう。我とフランクリンが対衝ブロック塀を物干し竿に通して作った、伸ばせる盾がありますぞ。これで我らがタマル様を守り、魔王捕獲に専念してもらいますぞー!』


『YEARHHHH!! ミーたちにエントラストでーす!!』


 任せろってことか!

 頼れる奴らだ!


「じゃあ行ってきまーす」


「気をつけてねー!」


「行って帰ってくるまでがスローライフだぞ」


 ポタルに出発の意を告げ、こうして魔王に突撃なんである。

 馬車は色々危なそうなので、キャタピラ疾走するフランクリンの後ろにラムザーが乗り、ラムザーに俺が肩車している。


『ピピー』


 あっ、頭上にポルポルが!

 これはスローライフ的なブレーメンの音楽隊ではないか。

 平和的に事態を解決するフォーメーションということだな。


『な、なんだその異形の形態は!! おぞましいっ! 消えてなくなれーっ!!』


 キナッコーが闇色に染まった砂を放った。

 説明もなしに新しい攻撃をしてくるな。


 だが、なんか分からない攻撃も、盾を使って回避なのだ。


「これ、俺たちが縦に積み重なってるの、不安定になっているし的を増やしているだけなのでは?」


『しかし一度に移動できて効率的ですぞ。的が増えた分は盾で防いでいますからな!』


「力押し!」


 時々、頭上のポルポルが挑発するようにバキューンバキューンとぶっ放している。

 汚れを掃除するくらいの力しか無い砲撃だが、砂嵐にぶつかるとその辺りをゴッソリ削り落とすのだな。

 あれ? なにげにキナッコーの力へのカウンターなんじゃない?


「よし、ポルポルが削った方向に走れフランクリン!」


『オーイェー! ダッシュエンドダッシュエンドダッシュでーす!』


 砂嵐をポルポルが打ち払い、余計な砂は盾で防ぎ、比較的自由に走れるスペースを確保してからフランクリンが突っ込む。

 俺たちの勢いはもう止まらないのだ。


『ぬうおおおおーっ!! 来るな来るな来るなーっ!!』


 キナッコーが焦って叫んでいる。

 だが、こいつが逃げないのはキナッコーにも後がないからだ。


 ヘルズテーブルに降りて俺と接触した時点で、スローライフの法則に囚われたキナッコー。

 信者も減ってパワーも落ちて、砂漠もオアシスに侵食されて……。

 俺を倒して一発逆転するしかなくなったのだろう。


「わはははは! だが残念だったなキナッコー! スローライフとは! コツコツ積み重ねていくもの! 俺が積み重ねたスローな力で、今お前は破れるのだ! オラアっ、ゲットーっ!」


 かなり近くまで来たので、体を伸ばして網を振った。

 ラムザーもちょっと前傾姿勢になってリーチを確保してくれる。


 お陰で、網の端っこがキナッコーにぺちっと当たった。


『ウッ、ウグワーッ!?』


 巨大な姿を晒していた魔王キナッコーは、一声叫ぶと……ピョインッ。

 消滅した。

 アイテムボックスに、可愛いアイコンになって表示される。


『ウグワーッ! 神を捕獲しました! 5000ptゲット!』


「おっ、凄いポイント! 神を三柱くらい捕まえると底引き網と交換できるな」


『ワオ! コンペアするものがスローアイテムでゴッドがリーズナブルに聞こえますねー!』


「比較って意味か。そう言われるとそうだな! はっはっは!」


 キナッコーが捕獲されたことで、砂は止んだ。

 そして俺の目の前に、新しい画面が表示される。


『キナッコーが倒されたため、彼の権能を停止します。あなたはキナッコーの力を引き継ぎ、砂漠を維持することが可能です。権能を引き継ぎますか? Y/N』


「イエスだ!」


『おっ、即答ですな!』


「仲良くなった眷属どもが死んじゃうだろ。せっかくヘルズテーブルに降りてきたんだから、砂漠とオアシスで面白おかしく暮らせた方がいいだろ」


『オー! ユーアーキングオブキングス!』


「うむ、スローライフ界のチャンピオンだ」


 ということで、くるりと方向転換するスローライフ的ブレーメンの音楽隊な俺たち。

 ポタルとキャロルとシェフを始め、眷属たちがうわーっと大盛りあがりで出迎えてくれるのだった。


 こうして、攻めてきた外なる神を一つ下した俺。

 神は魔人商店ではなく、ヌキチータが預かるらしい。


『神は存在が大きいので消滅させるのは難しいんだなもし。特に外なる神は兄弟神よりも強大なので、基本的には精神的に凹んでもらってから外に放り出すんだなもし。どこそこで敗れた神様という噂は広まるので、一万年くらいは肩身が狭い状態が続くんだなもしー』


「思ったよりも平和的な世界だった」


『そんなことよりもタマル様!』


 ファンがやって来る。

 ここは、俺が一旦、キナッコーを預けるために帰ってきたタマル村。


 ファンが指差すのは、いつもどおりの夜空だ。

 そこに、たくさんの流星雨が!


 ……流星雨がこっちに落ちてくるんだが?


『あれ、いいんですか!? ちょっとまずそうなんですけど!』


『ああ、あれは僕が頼んでいた、バイトの小邪神群なんだなもし。いよいよヘルズテーブルのリゾート化計画が始まるんだなもしー!』


「あれだけのドタバタ騒ぎも、ヌキチータにとってはスタート地点だったのか」


『うんうん、道は長いんだなもし。そしてタマルさん、ここにリゾート地造成の計画書があるんだけど、土地の持ち主として承認の拇印を押して欲しいんだなもし』


「ほうほう、どれどれ……」


 キナッコーは下したが、まだまだやることはどんどんやってくるのであった。

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