第115話 たそがれの創造神

 昼過ぎころに浮遊島を見上げると、シーツおばけとファンが並んでぼーっと座り込んでいた。

 珍しいメンツである。


「どうしたの」


 気になったので話を聞きに行った。

 スローライフは忙しいが、それはそれとして暇もたくさんあるものなのである。


 設置した縄梯子で、すぐに浮遊島に行けるから便利だなあ。


『おお……ちょっと感慨にふけっていたのだ。余を主神の座から追い落とした兄弟神たちは、もうただの一柱も残ってはおらぬのだなと思ってな……』


「そうだな。全部ヌキチータがやっつけてしまった」


 どうやってやっつけてるんだろうな。

 いつも事務所に座ってパソコンカタカタやってるようにしか見えないんだが。


『だが、これから外の世界より、ヘルズテーブルを手中に収めんとする神々が降りてくると言う……。ヒィーッ、考えただけで恐怖に震える! 地獄に終わりは無いのかーっ』


「何柱かの神をこてんぱんにしてだな、あそこは割に合わないって周知させるまでは続くんじゃないか?」


『タマルよ、そなたは戦い続けるというのか』


「俺は戦わない。スローライフを丁寧にやっていくだけだ……。一見して雑に見えると言われることがあるが気のせいだ」


 ヌキチータ曰く、悪しき外なる神々は、己の世界観をこちらに展開することで侵略してくるそうだ。

 つまり、テラフォーミングをかましてくるというわけだな。


 そうされたら、どう返せばいいのか。

 テラフォーミングし返せばいい。

 奴らの世界観を、俺のスローライフしやすい環境に作り変えるのだ。


「より一層、スローライフするためのスキルやアイテムが必要になってくるだろう。これから忙しいぞ。あ、それと」


『あっ、忘れていた。創造神レシピの3つ目を手渡そう』


▶DIYレシピ

 ※創造神ねんど

 素材:星の欠片+生命の欠片+土


「粘土ですか。創造神レシピ、どれも小学生の工作で使われそうなものばかりだな」


『余の本来の権能は、そなたのスキルとして搭載されつつあるだろう。なのでこういう味付けみたいなところがレシピになる』


「ははあ、なるほど」


 早速創造神ねんどを作って試してみた。

 グニャグニャと色々な形にできるようだ。


 どーれ、俺の彫像を……できた!

 ロックスターの衣装を身に着けて、空に向かって人差し指を突き立てているかっこいいポーズの俺だ。

 これを創造神ペンキでビャっと色を塗り、創造神えんぴつで細かいディテールを書き込む。


「俺になった」


『自分を作る辺りがタマルらしい』


 俺と創造神で並んで感心する。

 これはつまり、動力を持たない調度品なら何でも作ることができる粘土なのである。

 ただし、美観は俺の実力に比例するので、既製品の方が見た目はいいかもしれない。


「それはそうと、ファンはなんで創造神と並んで黄昏れていたんだ」


『わたくしは空を見ていたのです。それが仕事ですから』


「ほうほう」


『外なる神は空から来るでしょう?』


「言われてみればそうだ」


『あとはタマルさんがあの鳥女と進展してしまったので、ショックを受けていたのです』


「それはご愁傷さまでした……」


 これに関してはポタルの押せ押せ作戦が功を奏したのだ。

 俺は押せば簡単に落ちるからな。


 ファンのような恋の駆け引きみたいな高等技術は、俺相手にはあまりにもオーバースペックだったのである。

 むしろキャロルくらい雑に接された方が落ちるぞ。


「話は変わるが、外なる神は流星群みたいにやって来るの?」


『ちょっと違います。例えば直近ですと、ヌキチータさんと彼の友朋たる神々が降り立った時ですが。こう、斜めに落ちていく星ではなく、まっすぐに落下してくる星が出現します。それが外なる神の来訪です。わたくしは繭の中にいたので、うっすらと認識できるだけだったのですけれど、タマルさんも』


 どうやら俺もまた、まっすぐ落ちてくる星として認識されたようだ。

 そうして、ガイコツがたくさんいる場所に落ちてきたのだな。


 ちなみにあそこ、人類軍最後となる戦いが行われた場所で、羅刹侯爵によって全滅させられていたらしい。

 つまり骨次郎や他の骨たちは、羅刹侯爵が仇だったのだ。


 骨次郎は全く覚えてないそうだが。


『ということで、傷心を慰めつつ、それはそれとしてお仕事をしていたら創造神様が隣にやって来たのです』


『ここはちょっと高いところにあるし、誰か来たら縄梯子のきしみで分かるし、いいところだ……。花畑なのもポイントが高い』


「だろ? 俺が植えた」


『タマルが!? アヒーッ、意外な美観!!』


「失敬な! いや、確かに埋めればすぐに花畑になるタイプの舗装路なんだけどな。タマル村周辺も花で舗装しとくか?」


『花に満ちた世界……。いい……』


「よし、じゃあやるか! 創造神もついてきてくれ。あんたの美的センスでやってみよう」


『アヒーッ! 久しぶりの創造的作業! 余の神的センスを見せつけるしかない!』


『何それ面白そうです。わたくしも混ぜて下さい!』


 ちょっと珍しい三人で、村の周りを花畑で覆う作業を開始するのである。


▶DIYレシピ

 創造神ねんど


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