第106話 お出迎えドラゴン

 デッドランドマウンテンが見えてきましたな。

 すると、向こうの森がざわざわと騒がしくなってきた。


 飛び立つ巨大な影が幾つか。

 デッドランドマウンテン名物、ドラゴンである。


「レッサーが三匹! 迎え撃つぞー!」


「おー! 花火マシーン用意してあるよ!」


『物干し竿も準備万端ですぞー!』


『ジャイアントクラッカー、スタンバイでーす!』


『ラジカセ最大音量、いつでもいけるわよ!』


『ピピー!』


『カタカタ!』


 ポルポルはドローンと合体し、骨たちは星の砂をいつでもばらまけるようになっている。

 以前の俺たちとは違うぞ。

 今の飛空艇は装甲を対衝ブロック塀で強化もし、まさに飛行要塞なのだ。


 まず、一匹目のドラゴンが突っかかってきた。

 空は俺の領域だ、とでも言いたげな増長の見える動きである。


 真正面から何の工夫もない突撃。


「ツアーッ!」


 俺は鼻先に向かって、お鍋からおたまで掬った濃厚シチューをぶっかける。


『!?』


 突如襲う芳醇な香りと、鼻の穴に入り込むシチュー!

 ドラゴンの軌道が乱れ、飛空艇のブロック塀に衝突だ!


 ボイーンっとドラゴンが跳ね飛ばされた。

 その翼を、ラムザーが物干し竿で突っつく。


『ギャイーッ!?』


 翼をめくられて、上手く飛べなくなったドラゴンがひゅるひゅると落下していった。

 すぐに戻ってくるだろうが、かなりの時間を稼げるぞ。


 次のドラゴンは、ちょっと警戒した感じで飛空艇の周囲を回り始める。

 そして口を開いてブレスを……。


『ジャイアントクラッカーでーす!! ファイアー! イエー!!』


 ハイテンションのフランクリンが、両肩のキャノンに装備したクラッカーをぶっ放した。

 飛んでいくのは、くるくるに巻かれていたカラフルな紙テープ。

 これがドラゴンに絡みついた。


『ギャオオオッ!?』


 慌ててブレスを吐くドラゴン。

 だが甘いな!

 その紙テープは破壊不能オブジェクトなので燃えないのだ!


 炎のブレスが紙テープで邪魔されて、ろくに伸びないという状況が発生した。


『カタカター!』


 ここで骨次郎が飛空艇を操り、ドラゴンに体当たりをかます。

 そしてラムザーが物干し竿でドラゴンの鼻の穴をゴスゴスつっつく。

 俺も物干し竿で、ドラゴンの脇のあたりをこちょこちょする。


『ギョ、ギョ、ギョエーッ!?』


 またドラゴンが落下していった。


『すっごいわね……。意味の分からない戦い方で、複数のドラゴンとやりあってる……。こんなの初めてだわ』


「そりゃあ、日用品だけで勝負してるからな……!! 最後の一匹がくるぞ!」


「おりゃー! 花火あげるよー! ターマヤー!」


 ポタルが、俺の教えた掛け声とともにボタンを押した。

 放たれる花火!

 轟く破裂音と撒き散らされる光!


『!?』


 一瞬軌道が曲がったドラゴン。

 飛空艇はここに肉薄しつつ、そのタイミングでキャロルがラジカセのボタンを押した。


 ドクトルロックが大音量で放たれる!

 心の準備がなければ、相当驚くことであろう。


 案の定、ドラゴンは動揺して体勢を崩した。

 ここにポルポルが接近し、ドラゴンの背中にちょこんと乗っかった。


「天地創造ーっ! ご安全に!」


『ピピーッ!』


 既に俺も、壺のおっさんを召喚して飛び乗っている。

 ドラゴンの背中ちょっと上辺りの空気をピッケルで叩き……。


『ピピ!』


 アスファルトを流し込む!

 ドラゴンの翼の付け根の十センチ上空あたりを舗装してやった。


『ギエーッ!?』


 羽ばたきに異常を来し、ドラゴンが落下を始める。

 俺は壺のおっさんに乗り込んで脱出だ。

 後は、慌てて飛び上がってきた最初のドラゴンを、飛空艇備え付けのでっかい槍でポカっと叩くだけである。


 得意な戦場であるはずの空で、俺たちに散々やられたドラゴンたち。

 慌ててデッドランドマウンテンに戻っていく。


『オー! あれはベリーコンフュージョンになって、ランナウェイしてますねー!』


『意味の分からない攻撃で空から落とされ掛けましたからなー。それにこの槍、タマル様が作る物の中で珍しく武器ですからな』


「うむ。実はでっかい槍、使い道がちゃんとあるらしいことを知ってな」


『なんと!』


「これ、地面に穴を掘ったりする道具らしい。回転するだろ。これで穴を開けて、柱を立てて家を作ったりする……。あと石油を掘る」


『ははあ。こんな物騒に見えるものでも日常用の道具なのですなあ』


「なんだって戦いに用いれば武器になるし、日常に用いれば日用品になるもんだからな。これもまたスローライフだよ」


『いつもながら奥深い』


 スローライフは今、レッサードラゴンにも勝利してしまったわけである。

 これでまた一つ、世界にスローライフの有用性を伝えられたことと思う。


 俺は満足感とともに、デッドランドマウンテンへの降下を始めるのだった。


 着地した飛空艇は、パタパタと折りたたまれて馬車の中に格納される。

 御者台には骨次郎。

 引くのはホネノサンダーとホネノライジング。


 そろそろ骨たちとの付き合いも長くなってきた。

 だが、今はちょっと寄り道中で、これが終わると羅刹侯爵をゲットしに行くミッションが待っている。

 それでヘルズテーブルを巡る、スローライフ探訪の旅はおしまいである。


 終わりが近いなあと思うとしんみりするものだ。


「いやいや。スローライフとは日常の繰り返しが始まりなのだ。さようなら非日常! そしてこんにちは日常!」


「どうしたのタマル?」


 御者台の横に座る俺だが、骨次郎との間にポタルがぎゅうぎゅう入ってきた。


「最近すごくスキンシップが激しくないですか」


「もっと激しいスキンシップを狙ってるもん」


「もっと激しいスキンシップを!?」


 なるほど……。 

 つまり平和になれば、昨夜はお楽しみでしたね、ということになれるということか!

 モチベーションが爆上がりである。


 さあ、さっさと非日常を片付けねばなるまい!!

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