第63話 テイクオフ!

 でっかい槍を装備した飛空艇。

 前後左右に巨大な槍が突き出しており、スイッチひとつで高速で回転する。

 さらに左右の槍はスイッチひとつで位置が変わるので、襲撃されても柔軟に対処できるぞ。


 なお、飛空艇で気付いた意外な事実がある。

 船で使用できるスペースは甲板だけなのだ。

 船内は動力機関とかがみっしりと詰まっているので、内部に入ることができない。


 雨風を避けるなら、馬車の中に籠もらねばならんな。


 いざ旅立つぞ、という前に腹ごしらえだ。

 キングイトウのソテーをガツガツ食う。

 美味い。


 向こうでは、ポタルとキャロルが並んで飯を食っている。

 あの細長い魚は、ストローフィッシュとか言うこの辺り独自の魚だったらしい。

 これを細かくぶつ切りにしたものを甘辛く味付けた、ストローフィッシュのひつまぶしみたいなものが完成したのだ。


『うっま……! この男、何作ってもめちゃくちゃ美味いんだけど』


 キャロルがガツガツひつまぶしを食う。


「ねー。タマルは凄いんだよ。たまに私たちが真似できそうなのとかあるから、そういうのも作っていかないとね」


『うっそ、これ再現できるの? 教えて』


「これは分かんないけど、色々やれるかなーって試してるとこなの。後で一緒にやる?」


『やるわ』


 グルメのためなら努力を惜しまない女、キャロル。

 俺とラムザーが食べているソテーに気づき、空っぽになった器を持ってやって来た。


『ところであんた何食べてんの? ちょうだいよ』


「ほい、ソテー」


『うっま』


 美味いしか言わんな!

 そしてもらった分を残さず全部食う。


 これは強烈なキャラクターが仲間に加わったものだ。

 満腹になった後、いよいよテイクオフとなった。


 ヌキチータがこの光景を見にやって来て、大層感心している。


『いやあー、この世界で転生者がここまでやるの、初めて見たんだなもし。陸と海を征服して、つぎに空に飛び立つんだなもし。あちこちに槍を装備したり、ミスリルで補強されたりして喧嘩する気まんまんなんだなもし』


「スローライフとは平和主義なのだ。戦いはしないぞ。スローライフを維持するために闘争が必要になるなら、それは狩りだ」


『タマルさんの目がマジなんだなもし』


「神様がドン引きするなよ」


 見送りのヌキチータを眼下に、飛空艇のプロペラが回り始める。

 そうすると、このでかい船体がふわーっと浮かび上がるのだ。


 浮かんだのを、後ろについたプロペラで前進させていく。


「やっぱり、自分の羽以外で空を飛ぶのって不思議ねー。翼で飛ぶのとはまた違っててね、すごくまっすぐ、風の中を無理やり飛ぶ感じなの」


「そうなのか! 飛空艇、これでも風に乗ってる感じなんだが」


「翼を使うとね、もっとふわーっと風の中で逆らわない感じで飛ぶ感じなのよ」


「ほえー」


 飛空艇では味わえない感覚だ。

 そのうち、グライダーとかをDIYしてポタルと並んで飛ぶか。

 そのために、ヘルズテーブルの空の環境を整備しないとな!


 スローライフとは完全に管理された自然の中で行われるのだ!


『タマル様、邪悪な笑みを浮かべているところに恐縮ですが、敵襲ですぞ』


「なんだと、身の程知らずな」


『邪悪なセリフが板についてきましたなあ。廻天将軍の手下でしょうな。翼を持つ魔人の軍勢ですぞ』


 指し示された方向を見ると、黒い雲みたいなのがこっちに向かってくるところだった。

 それは黒い翼と鎧を持つ魔人の群れではないか。

 百人ちょっとくらいいるのではないか。


『空は廻天将軍の領域なるぞ! 身の程知らずめ、地に落としてくれよう!!』


 生意気なことを言うので、俺は舳先に出てきて叫んだ。


「地に落としてくれようだと!? 空がいつまでもお前たちの領域だと思うな! いつかはお前たちの時代も終わるのだ。それがいつか? 今でしょ!! やれえ!」


 俺の号令とともに、槍が猛烈な回転を始めた。

 近づいてきていた魔人たちは大層びっくりしたようである。

 何匹かが回転する槍に巻き込まれて大変なことになる。


『ウグワーッ!』


 落ちていく落ちていく。


『な、なんたる非人道的兵器!! 貴様に人の心は無いのか!』


「バカめ! 魔人は捕まえて売り払うくらいしか使用価値が無いので、基本的には流れ作業でこうやって倒すのだ! 分かったらどけえ!」


「タマルが悪い顔してる!」


『楽しんでこういう発言してるわけでなく、これキレてますな』


「キレてないですよ」


『だって空の迷宮に行くのが目的なのに、邪魔されてイライラしてるでしょう』


「うん」


 ラムザーには勝てんな。

 まるで俺の女房役みたいなやつだ。

 俺とこいつでバッテリーだな。


『ウグワーッ! これは堪らん! 退却、退却ー!! 地上から恐ろしい魔人侯が攻め上がってきたぞ! これは地上からの侵略だーっ!!』


 空飛ぶ魔人たちは逃げていってしまった。

 よしよし、平和になった。


『オー、魔人のアーミーを正面からブレイクしました! 大胆ノーエネミーでーす』


「おう。だが油断ビッグエネミーだ。向こうは逃げ帰ったからな。絶対にこっちへの対策を考えてくる。舐めてきた相手を一網打尽にして全滅させて、情報を漏らさないのが鉄則だ。しかし空はあいつらのホームだからな」


『この油断しない辺りがタマル様の強みですな』


「空を飛ぶ破壊不能オブジェクトなどを発見しておきたいところだ。よし、奴らが戻ってくる前に空の島に突撃するぞ!」


 空の迷宮編、開始なのである!

 

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