第5話 オブジェクトは砕けない

 狩りに来て、一つ発見したことがある。


 俺がアイテムボックスから取り出した、大型のアイテム。

 例えばふわふわベッドとかだが……。


 これは破壊することができないようなのだ。

 荷馬車ごとアイテムボックスに入れて持ち運んでいた俺だが、狩りの最中に間違ってふわふわベッドを取り出してしまったのである。

 そこに、武器を構えたトロルみたいな怪人が襲いかかってきた。


「ウグワー! やられるー!」


 俺は死を覚悟したね。

 だが、トロルはまごまごするばかりで、ベッドを乗り越えてやってこない。

 それどころか、ベッドに攻撃しようとして、ぼいーんと跳ね返されている。


 ふわふわベッドが武器を跳ね返す!?

 ここで俺はピンと来た。

 DIYで作ったり、ポイントで購入した大型アイテムは破壊できないのだ。


 つまり、俺と俺のアイテムだけが理想的スローライフな存在で、戦いとか荒事とかそういうものの介入をうけつけないのである。

 これをオブジェクトと呼称しよう……。


『タマル様! 奴らの数が多いですな! 時間を掛ければ敵ではありませんが、タマル様ご自身は避難されていたほうが!』


「ああ。だが忘れたかラムザー。俺には虫取り網がある!」


 ピョインッと音がして、俺の手に虫網が装備された。

 そして、忍び足でまごまごするトロルに近づく。


 おお、忍び足をしていると気付かれないぞ!

 俺は虫取り網を振り上げると、トロル目掛けて叩きつけた。


 すると。

 トロルの巨体が、ピョインッと音を立てて虫取り網に吸い込まれたのである。

 アイテムボックスに、トロルの顔のアイコンができる。


『ウグワーッ! 初めての虫取りを達成しました! 150ptゲットです!』


 うわあ、面白い。

 せっかくなので取り出してみると、檻に閉じ込められ、むーむー唸っているトロルが出てきた。

 これでトロルは、オブジェクト化したみたいだ。


 回収回収。


『そ、それがタマル様の魔人侯としての力……!! 恐ろしいお方だ……!! どれほど強大なモンスターでも、「こんなもんすた」っと捕まえてしまうのですな!』


「ん!? 今ダジャレ言わなかった?」


『言ってませんぞ』


 ダジャレ言ってボコられて俺の仲間になったというのに。

 魂に染み付いてるんだな。


 さて、簡単にゲットできたトロルだが、大したことのないモンスターというわけではない。

 木々の合間をのしのし走り回りながら、突然大跳躍して間合いを詰め、必殺の一撃を叩き込んでくる。


 それはベッドでぼいーんと跳ね返すがな。


『むおーっ!?』


 戸惑うトロルを、後ろから四本腕に持った剣を連続で振り回し、切り刻むラムザー。

 俺だけだったら、この狩りは無理だっただろう。


 トロルは斬られた端から再生していくのだが、ラムザーが切り刻む方が速い。

 トロルのHPゲージがみるみる減っていき、ついになくなった。

 ばったり倒れるトロル。


 俺は死体の上で、骨の斧を使って採集してみた。

 おっ、素材が剥げるじゃん。


『トロルの皮を手に入れた!』

『トロルの骨を手に入れた!』

『トロルの再生袋を手に入れた!』

『新しいレシピが生まれた!』

『ウグワーッ! 初めての剥ぎ取りを達成しました! 150ptゲットです!』


「おっ! どれどれ……」


『タマル様! トロルが行きますぞ!』


 真横から、肉の弾丸みたいになったトロルが回転しながら突っ込んでくるところだった。


「あひー」


 俺は悲鳴を上げてベッドに転がり込む。

 すると、トロルがぼいーんと弾かれた。


『むおーっ!?』


 危ない危ない……。


 だが、このオブジェクト配置作戦はかなり有効だな。

 アイテムボックスに限界があるからたくさんのオブジェクトは持ち歩けないが、もしアイテムボックスを拡張できれば、戦場をオブジェクトで埋め尽くして敵の動きを止め、虫取り網でゲットする狩りもできるようになることだろう。


 俺はベッドの反対側から降りて、まごまごするトロルに近づいた。

 よっしゃ、虫取り網でゲットだ!


 トロルアイコンが一つ増えた。

 おっと、これで持ち物はいっぱいだ。


「ラムザー、撤退、撤退だ! 魔人商店にトロル売りに行くぞ!」


『了解了解』


 ラムザーが全力疾走して戻ってきた。

 後からは、殺意満点のトロルたちが全力で追いかけてくる。


 俺はアイテムボックスから荷馬車を出し、骨の鐘を鳴らした。

 すぐ横にホネノサンダーが出現する。


『カタカタ?』


「ラムザーが乗り込んだら全力ダッシュだ!」


『カタカタ!』


 よく考えたら、荷馬車もオブジェクト化しているのではないかとか考えたが、こいつは拠点だし、万一壊されたら目も当てられない。

 危険なテストはしないでおこう。


『タマル様ーっ』


「よっしゃー!」


 ラムザーが伸ばした手を引っ張り、ついでに呼び出した骨次郎にもう片手を引っ張らせ。

 既に走り出した荷馬車はトロルよりも速い。


 森を抜けて街道まで一直線だ。

 雲間からちょっと日差しが降り注いできており、俺たちを追って森を出たトロルに降り注ぐ。


『ギャーッ』

『グワーッ』


 日差しが当たったところから、トロルが石になっていっているな。

 あいつらは、陽の光の下で活動ができないのだ。


「ああくそ、アイテムボックスがもうちょっと広かったら取り尽くしてやるんだが」


『恐ろしいお方だ』


「神に言ってアイテムボックス拡張させるよ」


『恐ろしいお方だ』


 そんなやり取りをしつつ、ゴッドモジュールを起動するのである。

 メニュー欄に、魔人商店が増えている。


「いらっしゃいませ~」

「ませ~」


 双子の姉妹が、今回も俺を出迎えてくれた。


「売り来たよ。はい、トロル二匹」


「は~い。トロル二匹だと……500ptになりまぁす」


「おおっ、でかい! コツコツポイント稼ぐのと、モンスターとかを捕まえて売り払うのを同時進行すると、すぐにエーテルバスターキャノンに手が届きそうだな」


 ニヤニヤする俺である。

 だが、俺の目が店内に置かれたとある商品に止まる。


「あれは……」


「はーい! そちらはラジカセで~す! 400ptとなっておりまあす」


「娯楽の無い地獄めいた世界に舞い降りた癒やし……。買います」


「ありがとうございまあす!」

「まあす!」


 こうしてトロルはラジカセになった。

 最初はおまけで、環境音楽をつけてくれた。


「音楽テープは世界中に散逸していまぁす。その土地を守護する獣神や、封印された祟り神を討伐すると、音楽テープが増えていきまあす」


「音楽のバリエーション増やすの難易度高いなあ。スローライフへの道は険しいぜ」



▶レシピ

 トロル装備一式

 素材:トロルの皮+トロルの骨+トロルの再生袋

 トロルのじゅうたん

 素材:トロルの皮


 UGWポイント

 700pt

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