第38話お菓子作り2

オーブンが無いこの時代、だったらかまどで焼けばいいじゃない!

ということで、今回はかまどで焼いてみようと思っている。


テレビか映画かは忘れたけどピザ窯で焼いているのを見たときある。

かまどの中の火が消えるか消えないかの薪を脇に寄せてクッキーを置く場所を作る。


分厚い木の上にクッキーを並べるが、枚数が余り入らない。

地道に何度も焼くしかない。


しゃがみ込みながらかまどの中のクッキーの様子を見る。

与一君も気になるのか私の隣にしゃがみ、かまどの中のクッキーを見つめる。


少し焼き色が付いた所で取り出し、荒熱を取って味見してみる。

焼き色が付いていても中が生焼けだったら困るからね。

私が食べたかったからでは断じてない。


中を割って確認すると、生な感じはない。

まだほんのり温かいプレーンクッキーを口に放り込むと優しい甘さが口の中に広がった。

ちゃんとクッキーになっている…。


「与一君も食べてみる?」


「うん。」


片割れのクッキーを与一君に渡す。

クッキーをパクリと食べた。


「さくさく…甘い…!!」


与一君の瞳がキラキラと輝く。

子供のこういう素直な反応はとても嬉しい。


無事成功したのでクッキーを次々と焼き、三種類のクッキーを焼き上げた。

最後にプレーンクッキーのへこみの中に梅ジャムを入れて完成。

与一君と作ったクッキーをさそっく食べてみる。


「さ、食べてみようか。」


私は先程食べたプレーンクッキーから食べてみる。

うん、さっきよりサクサク感が増したような気がする。

荒熱がしっかりとれたからかもね。


与一君はくるみのクッキーから食べているみたい。

ただ黙々とくるみクッキーを食べ続けてている。


プレーンクッキーよりかは反応が薄い。

好みではなかったのかな…。


でも、食べる手を止めない。

私もくるみクッキーを食べてみる。

食べてみて与一君が黙々と食べている理由が分かったような気がした。


一言で言うなら優しい味…。

クッキーに埋め込まれた大きめのくるみを嚙み砕くと、くるみのまろやかさとくるみの風味がクッキーの甘さを包み込む。

これは…ゆっくり食べたいな…。

私がくるみに魅了されていると隣から感心した声が聞こえた。


「へぇー…。」


与一君の手には梅クッキーが握られていた。

天井を見つめながらゆっくり咀嚼を繰り返す。


梅ジャムクッキーは思い付きで作ったものなので美味しさに自信は無い。

イチゴジャムクッキーみたいな感じを目指したけどどうだろう。

見た目はイチゴジャムクッキーみたいなんだけど味は如何ほどに…。

一口かじりゆっくり味わう。


梅ジャムの甘酸っぱい味がクッキーの甘さと絡み合い、最後に梅の酸っぱさが口の中で主張して消えていった。

イチゴジャムクッキーに最初の味は似てるけど違う。

ちゃんと梅がいい仕事をしていてさっぱり頂ける。


「うん、面白いね…これ…。」


私も与一君と一緒に天井を見上げながら口の中の新しい味を堪能する。


「面白い…。」


私の言葉に与一君も同意した。

最後の梅ジャムの欠片を味わいながらある一人の男の人を思い浮かべていた。

この味、りゅうさん好きそうだなぁ。


まぁ、なんたって梅を使ってるしね。

梅料理を食べた時のりゅうさんを思い出し、噴き出すように笑うと与一君が不思議そうに私を見た。


与一君の皿にはプレーンクッキーだけ残っている。

もじもじして一向に食べない。

与一君が食べない理由が分かってしまった。

なぜなら、私もそうだったから。


「クッキー…持って帰る?」


「っうん。」


与一君が作ったプレーンクッキーを全部とくるみと梅ジャムのクッキーも少しあげた。


「はい、どうぞ。手伝ってくれてありがとう。」


「いいの?」


きっと誰かにあげたいのだろう。

私も上手く出来た料理は自分で食べるよりは誰かに食べて欲しい気持ちの方が強かった。

このクッキーの型は与一君の思いが詰まっている。

そのクッキーを奪うような事はしたくなかったのでプレーンクッキーだけは全部あげた。


きっと食べさせてあげたい人がいるんだろうな……お父さんとかね。

与一君は大切そうにクッキーの入った布袋を持つ。


「いいよ。また手伝ってくれると嬉しいな。」


「わかった。手伝う。」


与一君はそう言ってその場を去った。

また、一緒に作る日が来るといいなぁ。


日が暮れる少し前にとらさんがやって来た。


「饂飩粉は足りてるか?」


「はい、まだ大丈夫です。えーと、七日後ぐらいにお願いすると思います。」


どうやら、饂飩粉の仕入れの件を確かめに来たみたい。

お世話になっていることだしクッキーを渡す事にした。


「あの、お菓子作ってみたんですけどよかったら受け取って下さい。いつもお世話になっているお礼です。これも饂飩粉使ってるんですよ。」


くるみと梅ジャムのクッキーが入っている布袋を渡す。


「お嬢さんはお菓子も作れるのか。たいしたもんだ。」


私から布袋を受け取ると中を早速見て、梅ジャムクッキーを取り出した。


「ふむ…。綺麗だ…初めて見る菓子だな。頂いても?」


「ええ、どうぞお召し上がりください。」


赤い梅ジャム部分をクンクンと嗅いでから一口でクッキーを食べてしまう。

よく噛みゴクリと飲み込んでから感想を言ってくれた。


「ほう、これは梅か…この菓子と合うな。見目もいいし、貴族らも好きそうだ。」


意外と梅ジャムクッキー好評だ。

確かに真ん中に赤いジャムって可愛いくて綺麗だよね。

とらさんは布袋からくるみクッキーを取り出し、これもまた一口でパクリと食べた。


「これはまた、先程の菓子と似ているようで違う味だな。懐かしさを覚える味だ。どちらも美味だな。」


「それは良かったです。」


くるみのクッキーも気に入ってくれたみたいだ。

クッキーが入った布袋を見てとらさんがぼそりと呟く。


「兵糧に使えるかもな…。」


「ん?今何て…。」


今兵糧って言ったような気がした。

学校の教科書で確か習った、兵糧って戦の食糧だったはずだよね。


「あぁ、すまない。気にしないでくれ。それよりもこれどうやって作ったんだ?」


クッキーの作り方を簡単に教え、雑談した後とらさんは帰って行った。


数分後にはりゅうさんが来て、りゅうさんにもクッキーを渡した。

両方のクッキーを美味しいと言って食べてくれた。

特に梅ジャムクッキーは目がキラキラ輝いていてまるで子供みたいだった。

帰り際にりゅうさんがぼそりと呟く。


「兵糧に使えるかな…。」


二人とも仲悪いのに一緒の事考えてる。

ちょっと面白くて笑ってしまった。


「ふふっ、先程来たとらさんも同じ事言っていましたよ。」


りゅうさんはあからさまに嫌そうな顔をした。

その後、クッキーの作り方もしっかり聞いて帰って行った。


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