第12話大根と卵の煮付けと玄米甘酒

二つ大皿を用意して温めた大根と卵の煮付けを盛る。

大根と卵が茶色に染まっている、いい色だ。

台所で一人納得して頷く、この色を見ると何だか嬉しくなっちゃう。


先に大根と卵の煮付けを皆の所に持って行き、急いで玄米甘酒を井戸に取りに行く。

お酒とか飲むおちょことかあれば良かったんだけど、この時代では平民がお酒を飲むということは滅多にないのでお酒用の容器が無い。

無い物は仕方ないので湯飲みの中に玄米甘酒を入れ持って行った。


「お待たせしました~。大根と卵の煮付けと玄米の甘酒です。」


やすさんが驚き、湯飲みの中を覗き匂いを嗅ぐ。


「酒だって!これどこから持ってきたんだ?まさか作ったとか言わねぇよな…。」


やすさんご名答、私が作りました。

私が作ったと言う前によしさんに言われてしまう。


「この子が朝から作ってたよ、私も少し手伝ったけど…。恐れいるよ、まったく。」


よしさんなんか呆れていませんか…。

お酒とかってやっぱり作らない方が良かったかな。

この時代お酒とか滅多に飲めないから余計に飲みたくなったんだよね。

やすさんが首をひねる。


「でもよう、材料はどうしたんだよ。」


「それが…よしさんが朝に井戸の所に置いてあるのを見つけたらしくて…。そこに置いてあっても悪くなるので使うことにしました。」


一人心あたりがあるけど…。

よしさんとやすさんで一体置いたのは誰だろうかと考えていると時次さんが悩ましげに話した。


「あの…もしかしたら、私の友人かもしれません。最近ここの料理を食べてとても気に入ったらしく、何かお礼をしたいと話していたので…。私の友人が勝手にすいません。」


時次さんが私に向かって深くお辞儀をした。


「頭を上げてください!ちょっとびっくりしましたけど嬉しかったですし、逆にありがとうございます。」


私も時次さんにつられて深くお辞儀してしまった。

その様子を見ていたやすさんとよしさんが笑い出す。


「何やってるんだい二人して。良かったじゃないか、誰からかわかって。」


「菜ちゃんも罪な女だねぇ~。酒の材料をくれるところからしていいとこの家のやつとみたね。」


やすさんがニヤニヤしながら私を見るので、私も負けずにやすさんを睨んだ。


「菜ちゃんは睨んだ顔もべっぴんさんだ。わははっ!」


悔しいけどこれ以上やっても意味がないと思い諦めた。

早く飲まないとせっかく冷やした玄米甘酒がぬるくなってしまう。


「さぁ、早く飲んで見てください。冷たいのがぬるくなってしまいますよ。」


玄米甘酒を皆にすすめる。

やすさんが慌てて玄米甘酒が入った湯飲みを手にする。


「おっと、それはいかん。」


皆に飲ませる冷やした甘酒は粒なしの甘酒にした。

理由は単に私が冷やした甘酒は粒なしが好きだから、冷やしてると一気に飲みたくなるのでつぶが少し邪魔になってしまう。


温かい甘酒はもちろん粒ありが好き、この甘酒の粒あり、粒なしは好みがわかれるけど今日は私の我がままに付き合ってもらうことにした。

皆が玄米甘酒に口をつけ、私も様子を伺いながら飲む。


やすさんまた一気飲みしてる。

時次さんとよしさんは一口飲んで止まってるし、誰か一人くらい感想言って欲しいんだけどな。


皆の感想を待ちながらまた一口飲む。

口の中で優しい甘さが広がる、米麹で作ってるからお酒ではないけどこれはこれでいい。

先に口を開いたのは時次さんだった。


「…これは……れいしゅ?…ですか…?」


れいしゅ…現代にも同じ言葉はあるが、あくまで現代での話なので頷けずにいた。

なので、材料だけ説明をすると時次さんはなるほどと言ってゆっくり口に含みながら飲み始めた。


やすさんは早くもおかわりをよしさんに所望していた。

よしさんはやすさんにおかわりをつぎなが少しづつ飲んでいる。

皆さん玄米甘酒に夢中だ、私もなんだけどね。

時次さんが一杯目を飲み終わり私に体を向ける。


「あの、このお酒少し頂きたいのですが宜しいでしょうか。私の友人はお酒に目がなくて渡したいと思いまして…。このとおり…。」


深々と頭をさげた。

別にいいんだけど、これお酒じゃないからなぁ。

その友人って梅おにぎりの人じゃないよね?


「あげるのはかまいませんけど、先ほども言いましたが米麹と玄米で作っているのでお酒ではないですよ…。友人の方がお好きなのはお酒ですよね?」


酒好きの人に渡していいものか不安になる。


「お酒には目がないからこそこちらを紹介したいのです!お酒ではないならなおさらいいです。菜さんが作ったこのお酒本当に美味しいのできっと私の友人も気に入ってくれるはずです!!」


その友人のことすごく大事なことはわかった。

こんなに褒められるとあげるしかない。

帰りに玄米甘酒を渡すことを時次さんと約束した。


皆、玄米甘酒に夢中だけどそろそろ大根と卵の煮物を食べてもらおう。

つまみにもできると思ってたんだけどこの分だと甘酒の方が先に無くなってしまう。

意識を大根と卵の煮付けに向けなければ…。


「皆さん、この大根と卵の煮付けも一緒に食べるともっとこの甘酒が美味しいですよ。」


もっと美味しいという言葉に皆つばを飲む。

先ほどの卵の味が忘れられないのか三人とも卵からはしをつけ、ためらいもなく卵を口に入れる。

その様子を見て口元がほころぶ。

どうやら私の親子丼作戦は成功したみたい、時次さんがいなければ失敗に終わっていたかもしれないけど。

心の中で時次さんに感謝した。

私は大根から食べる、しみしみ大根がさっきから気になって仕方がないのだ。

大根を一口くらいにはしで割り口に放り込む。

やっぱり…しみしみだ…お味噌が染みてる。

そこに玄米甘酒を流し込む。


「…っはぁ~。しあわせだ……。」


んっ、いつの間にか皆に見られてる…。

やすさんが悔しそうに言う。


「卵様の方が味噌がしみててうまい!大根の肩をもつきかい。」


一体何で争ってるの、大根の肩を持つって何ですか。

やすさんは大根なんてと言いながら大根を一口で頬張る。


「……っっ大根…っくぅ…。」


大根をかみしめながら下を向き、うなっていた。

どうやら大根も気に入ってくれたみたい。

よしさんは大根が気に入ったのか大根をずっと食べている。

少し話しかけてみる。


「よしさん、大根美味しいですか。」


大根だけなくなりそうな勢いだ、つい自分の好きな具だけ取ってしまうのはとてもよくわかる。

はしを止めて照れくさそうによしさんが答えた。


「卵も好きだけどどちらかっていうと大根かねぇ。味噌がしっかり染みていて美味しくて、ついつい大根だけ手に取ってしまってたよ。」


卵は貰った分しかないけど大根は少し多めに作ったから余裕がある。

よしさんにはいつもお世話になっているからいっぱい食べて欲しい。


「まだまだ鍋に大根入ってるのでいっぱい食べても大丈夫ですよ。ちなみに明日になるともっと染みていて美味しいです。」


「あら…、明日の分を残さないといけないねぇ。」


眉をよせ深刻そうな顔をしている。

明日の分残ると思うけど…たぶん…。


時次さんがとても静かなので忘れるところだった。

時次さんを見ると大根と卵の煮付けをつまんだ後に甘酒を飲み星空を見上げてほぅと息をはいていた。


すごく絵になるなっと、ついじっと見てしまう。

私の視線に気づき時次さんの目線が星空から私に変わる。

目が合い少し焦りながら料理の感想を聞いた。


「あっ…え~と、大根と卵の煮付けどうですか?」


時次さんの目が細目になり微笑する。

時次さんから普段ない色気がでているような気がするんだけど…。

これ玄米甘酒のせいじゃないよね?


自分が作った玄米甘酒がお酒じゃないか不安になり、一口飲む。

うん、お酒ではないな。

ではなぜだろうかと考えていると時次さんからさっきの質問の返答が返って来た。


「普通、お酒といったら味噌や塩などと一緒に飲むものだと思っていましたが…この料理の方が合う気がしますね。味噌味だからでしょうかこの甘いお酒がよくすすみます。」


時次さん結構お酒好きなのでは…。

米麹で作ってるからお酒ではないけど、玄米甘酒出してからすごく嬉しそうなんだよね。

なんか飲み慣れているオーラがすごい。




そんなこんなしていたらお開きの時間になった。

時次さんに頼まれていた玄米甘酒と三色おにぎり二つを渡す。

実は少し材料が残っていたのでもう一つ同じおにぎりを作っておいたのだ。

自分で食べようかとも思っていたが、今日とても助けられたのでそのお返しに時次さんに渡すことにした。


「材料が余って同じものが二つできたんですが、一つの方は時次さんが食べてください。後、今日はありがとうございました、とても助かりました。」


心から感謝し、頭を下げる。


「私の方こそとてもいい経験ができました。このおにぎりありがたく頂戴いたします、あまり無理をしないように…。」


時次さんに頭を優しくなでられた。

24歳にもなって頭をなでられるとは…少し恥ずかしい反面なんだか懐かしいようが気がした。

その後、時次さんとやすさんはそれぞれの帰る場所に帰って行った。



時次さんこれから友人のところに行って渡すって言ってたけどそろそろ渡した頃かな。

片付けが終わるまで時次さんとその友人のことを考えるのだった。




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