第47話 全員集合
「おいっ。それよりも詳しく話せ」
そこまで黙って場の成り行きを見守っていた庄司だが、ついに我慢の限界だと怒鳴った。
犯人は神田で、今日の夜に岩瀬を狙うはずだというから付き合ったが、何一つ解らない状況に、イライラが限界に達してしまう。それが神田の動揺を誘ったが、すぐに青龍がパンパンっと手を鳴らしてその気勢を削いだ。
「そうですね。では、場を移して皆さんに真相を披露しましょうか。夜明けまで時間がありますし、いいですね。神田さん」
すでにこの場は青龍の独壇場となっているのだ。それに気づき、雅人は思わず舌打ちしてしまう。
しかし、トリックを完全に見破っているのは青龍しかいない。それに、控えているように言われている他のメンバーも、真相を知りたいところだろう。
「食堂に移動してやろう。その方が全員落ち着いて話が聞けるだろうさ」
雅人はそう言って承諾を示し、場所は食堂へと移されることになったのだった。
「まさか本当に神田さんだったなんて」
「面目ない」
その移動した食堂にて。
桑田の呆れたという一言に、神田は縮こまっていた。改めて全員にこいつが犯人ですと紹介され、いたたまれなくなっているのだろう。
しかし、不可解な犯行を起こした奴が悪い。雅人はこれから報道されさらに裁判される過程で、もっと好奇の目に晒されるんだぞと、手錠を掛けられ椅子に小さく座る神田に呆れてしまう。
だが、その反応を見ていると、普段のお調子者はかなり頑張ったキャラだったということが解り、何とも言えない気分にもなる。そうやって自分を大きく見せることで足りない部分をカバーしていたのだろう。
そこに、何一つ飾ることなく自分の実力を発揮し、あっさりと周囲に認められる野々村が疎ましかった、というのは解らないでもない心情だ。とはいえ、犯行そのものには同情の余地はない。
説明するから集まってくれとやって来た面々も、どう神田に対応していいのか困っているという顔だ。特に、お手伝いとしてやって来ただけの女性三人は、困惑の表情を浮かべるしかない。
そんな中でも反応が違うのは航介くらいか。当初よりこの会社で何らかの事件が起こるだろうと読んでいただけに、この結末は驚きでも何でもないというわけだ。
とはいえ、そうと解っていて止めず、さらには青龍を呼び寄せるという性格の悪さは、刑事としては嫌な印象しかない。
狙われた岩瀬は困惑顔で神田を見ているし、庄司に至っては不快感を露わにしている。だが、しっかり岩瀬の手を握っているあたりに抜け目のなさを感じた。
きっと、今回の事件でのダメージさえ乗り越え、新規事業でも立ち上げるのだろうな。雅人はそう感じていた。
「しかし、どうしてこんな事件を」
そう訊ねるのは梶田だ。こちらも、まさか本当に冷蔵庫の中に死体が紛れ込んでいるとは思っていなかったから、不快感を隠そうとはしなかった。
青龍もあの段階ではまさか紛れ込んでいるとは思わず見落としたほどだから、大丈夫だと信じ込んでいた梶田に見抜けるはずもなかった。
「それについて、神田さんはこの状態ですので、私が代わりに説明しましょう」
その青龍が説明しましょうと立ち上がった。全員が揃っていることを確認し、にこりと笑ってみせる様子は、さながら今からマジックショーを始めるかのようだ。
「神田さんとしても、ラストの入れ替わりは腑に落ちていないでしょうしね」
「うっ、はい」
殺そうとナイフを振り上げるまで気づかなかったのだ。それまで完全に岩瀬だと思い込んでいなのになぜ。その思いは確かにある。
「では、順を追って説明しましょう。まず、この一連の事件において神田さんがやっていないことがあります。それがタイヤのパンクです」
「何だって」
これには全員がぎょっとしてしまう。なぜなら、あのパンクがあったからこそ、この計画は完璧だったのではないか。
「ええ。驚くのも無理はありません。実際、それがなくても神田さんは私に罪を擦り付けることで犯行がスムーズに行えるはずだ。そう踏んでいただけですからね」
「えっ」
しかし、次に示された言葉に、事情を知らないメンバーはぽかんとした顔をする。ここに呼ぶことを承知した庄司さえ、あの噂は知らなかったらしい。
「実は、私にはよからぬ噂があるんですよ。それはマジシャンとして活躍する裏側で、犯罪計画を立てて授けているのではというものです。
今回の事件のようにトリックを用いて殺害するというのは、存外難しいものなんですよ。そもそも、一般人が簡単にこうすれば誤魔化せるはずだと考えることは、他の人もやっているようなことばかり。すぐに警察ならば見破れるようなことなんです。それ以外の犯行というのは、いわば騙すことに慣れた人が考えているはずだ。というのが警察の推論でしてね」
そこで青龍は雅人の方を見てにやりと笑ってみせる。
まさにそういう筋書きで、多くの警察官は考えているから否定できない。それに対して雅人は、事実だろうと睨んでみせるのが精一杯だ。
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