第37話 ギリギリだ!?

「キリがねぇ……」


 次々と現れる魔物に嫌気が差す。


 隊長もステラとの戦闘で手が離せねぇ。というか──あっちはもう人外の戦闘だな。この場にいる奴らじゃ手が出せねぇ。


 リリアがいてくれるお陰で、魔物もシャーリー様には近づけねぇ。ロイがとリリアは言っていたらしいが、確かにリリアが抜けていたらかなりヤバかったかもしれん。


 それと助っ人の精霊の女──リリアがエレノアと言っていたな……こいつがを出して攻撃してくれているお陰でなんとか戦線は維持出来ている。


『火の精霊』『水の精霊』『土の精霊』の人型の精霊がどんどん魔法を放ちながら殲滅してくれている。


 こいつらがいなかったらユラはとっくに魔力切れになっていただろう。


 だが、ロイ達が気掛かりだ。危険な魔剣の使い手を相手にまだ子供のあいつらが勝てるとは思えん……やはりなんとかしねぇと拙いな。


 そう思いながら空から襲ってくるワイバーンの炎弾を防いでいると──『風の精霊』らしき者がフィアとレラを連れてやってきた。


「フィアっ! レラちゃんっ!」


 シャーリー様は安堵の表情で2人に話しかける。


「お母様っ! ロイ君が逃してくれました!」


「……ロイド君は?」


「後で合流するって言って足止めを……」


「そう……」


 シャーリー様もロイが気掛かりなんだろう。その顔は浮かない。


「主は大丈夫……今の所問題ない……微精霊がそう言ってる」


 エレノアの言葉にその場にいる者は安堵の表情を浮かべる。



 しかし、こいつは本当に何者なんだ?


 まぁ、今は何者でもいい──俺は俺の役割を全うするだけだッ!


「ゾルさんッ! 空からブレスですッ!」


 ブレスって事は──ドラゴンか!?


 俺は即座に『挑発』『物質硬化』『身体強化』『魔力操作』『魔力硬化』『見切り』『予測』『剛腕』『受け流し(極)』『攻撃挑発』『誘導』『金剛』などのスキルを次々と使用する──


【ガスタール流盾術】を舐めるなよッ!!!


 普通のドラゴンのブレス如き──


 俺にとったら屁でもねぇッ!


 それに空から降りて来ない以上は対処出来ん。この距離だと精霊であっても難しいだろう。


 ここは俺がどうにかするしかねぇな。



「──ぐぬぬぅ──うおぉぉッ!」


 ブレスが俺に直撃する──


 攻撃が重すぎる……ドラゴンの姿を確認すると属性竜だった。


 受け流しは被害が大きすぎる──あれを使うしかねぇ。


 師範代にのみ習得可能な奥義の一つ──


「──【盾反射シールドリフレクション】──」


 これならこの攻撃も問題ねぇはずだッ!


 案の定、ブレスは反射し属性竜の方へと向かうが──


「ちっ、外したか──」


 属性竜は空高く舞い上がり見えなくなる。


 ──『直感』スキルが危険だと告げる──


 視線を下げると──


「──カイルがいないから余裕だと思ったが──やるじゃないか。少し遊んでやる──」


「ぐはっ」


 目の前に突如ステラが現れ、拳を放ち俺を吹き飛ばす。


 ちっ、肋骨が3本ほどやられたな……身体を硬化、強化させるスキル使ってるっていうのに──どんな威力してやがる!


 即座に起き上がり防御体勢を取って状況確認をすると隊長は片膝をついていた。


 やはりブランクのある隊長ではキツいのか!?


 ステラは隊長を無視して俺を攻撃していく──


「お前が雑魚の中で1番厄介そうだな──【乱撃】──」


「──そう簡単にやられねぇよッ! ユラッ!」


 連続で放たれる拳の嵐を防いでいくが、速度が速く捌き切れずに盾が歪んでいく。


「任せなさいッ! 『炎弾ファイヤーバレット』──20連──」


「ちっ、面倒臭い──」


 高速の炎弾を素手で弾き飛ばし余裕の表情を見せるステラ。


 やはり隊長以外に相手をするのは難しい。


 ステラはシャーリー様目掛けて特攻する。


 シャーリー様だけは必ず守らなければならん。


 今結界が解けたら全滅だ。


「──『攻撃挑発』」


 行かせねぇよッ!


 俺は拳を盾で逸らす──


「鬱陶しいッ!」


 激しい連打だが、それぐらいは承知──


「その程度じゃ突破はできねぇぜ?」


「なら──お前らから倒すッ!」


 ステラは再度特攻する──


 ──この攻撃──こっちじゃねぇ!?


 ユラか!?


「『風壁ウインドウォール』──!? 魔力切れ!?」


 ユラの魔法は魔力切れで不発に終わる。


 俺は即座に特殊スキル『身代わり』を使う──


「ガハッ……──ユラから離れろッ!」


 特殊スキルである『身代わり』は対象のダメージ分を使い手に変換する。ユラの受けたダメージは俺に激痛をもたらす。


 俺は根性でステラを盾を使い弾き飛ばすとリリアが攻撃を仕掛ける。その間にユラとシャーリー様の前に立つ。


「ユラ、無事か!?」


「えぇ、まさかこのタイミングで魔力切れなんて……最悪だわ……」


「仕方ねぇよ。俺が守ってやる」


「ふふ、さすが頼りになる夫ね? でも私も『聖天』の1人──魔力が切れても戦えるわッ!」


 ユラは『アイテムボックス』から弓を取り出し、ステラ目掛けて放ち出す──


 本当、うちの嫁さんは負けん気が強いな。さすが俺の嫁だ!


「私にそんなもんは効かない──」


 ユラの弓矢を難なく回避するステラ──


「ゾルさんッ! また上ですッ! きゃっ」


 リリアはこちらに注意を向けた為、隙をつかれてステラに弾き飛ばされる。


 またブレスか──さっきと違うドラゴンか……ドラゴンの上に誰か乗っているな。


 あいつは──!?


 ちっ、今はそれどころじゃねぇ──


「──【盾反射シールドリフレクション】」


 攻撃を反射させると目の前にステラが雷を纏った渾身の一撃を俺達目掛けて放ってきていた──


 今【盾反射シールドリフレクション】を解いたら全滅するかもしれんな……。


 こりゃーステラの攻撃は回避出来ねぇな。


 隊長もこっちに向かって来ているが──間に合わん。


 俺はスキル『仁王立ち』を発動する──


 このスキルは例え死んでもしばらく意識を保って動いていられるスキルだ。


 最悪はブレスだけでも防ぐッ!


「──『多重結界』」


 シャーリー様が間に複数結界を張って防御してくれるが──障害物など無かったように簡単に突破して来るステラ。


 ──死ぬ。


 そう思った瞬間、背中に温もりを感じた──


「ユラ?」


「一人で逝かせないわ──」


 馬鹿野郎……娘どうすんだよ……。


 あー死にたくねぇな……。


 でも、好きな女と死ねるなら──それもいいか。


「お前は最高の女だな」


「当たり前でしょ?」


 皆すまん、俺達はここでリタイアだ。


 カイルきっとお前ならこんな状況でもなんとかするんだろうな……俺はお前のようには守れん。


 さぁ、最後ぐらい『聖天』として夫婦で職務を全うするか──


 シャーリー様だけでも死んでも俺達夫婦が守ってやるッ!


 迫るステラの拳──


 俺は自然と笑みを浮かべていた。


 たぶん、ユラが側にいてくれるからだろう。最愛の妻にして──最高のパートナー。死ぬというのに心強いなッ!


 ははっ、ただで死んでたまるかッ!


「これでも喰らえやッ!」


 ステラから見て盾で死角になっている部分──ふとももに向けて──


「ちっ、見事だッ! だが──甘いッ!」


 剣はふとももに擦っただけでステラの勢いは変わらない──


 スローモーションのその拳を見ながら終わりを迎えるのを待つ──



「──【盾具現化シールドリアリゼイション】──」


 聞き慣れた声と共に一枚の盾が目の前に出現する──


 盾とステラの拳は衝突すると盾がひび割れる。


「まだまだぁぁッ! ──【盾の舞シールドダンス】──」


「ちっ」


 ステラは勝手に動く盾をバックステップで捌きながら一度下がる。


 その頃にはブレスも止んだ。


「──師匠ッ! 無事ですか!?」


 盾を構えて俺の前に立つロイはかつて一緒にシャーリー様を守った親友カイルの面影を見た気がした。


「あぁ、お前のお陰でな」


 こいつならきっと立派な盾使いになるだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る