第35話 乱戦!?

「ゾルっ!」


「任せろッ! シャーリー様には指一本触れさせねぇッ!」


 隊長の掛け声と共に俺は巨人の魔物──サイクロプスの拳を逸らすと間髪入れずに隊長の一閃が首を目掛けて放たれ絶命する。


 街を守るシャーリー様に近寄らせるわけにはいかねぇッ!


「キリがないわねッ! 火炎嵐ファイヤーストーム!」


 目の前にいる雑魚はユラにより一掃される。


 全く、何が起こっているんだ……いくら屠っても次々出てきやがる──


 エレンが報告してくれたお陰で街から冒険者や兵士もこの事態に気付いて駆けつけてくれているが200人もいない。


 こんな人数で籠城戦なんて無理だ。シャーリー様の結界がなけりゃ、とっくに詰んでる。


 今も全員が奮闘しているが、いつ突破されてもおかしくねぇ。


 街の方を見ながらそんな事を考えているとリリアと以前見た精霊の女が見えた──


「シャーリー様ッ!」


「リリア!? ロイド君は? それにその人は?」


 シャーリー様が驚きつつも聞く。


 この異常事態にロイを置いて救援に来たんだろう。


「ロイド君は襲われている2人の救援に向かいました。私達はこちらの救援に──「馬鹿野郎ッ!」──!?」


 その言葉に思わず俺は声を荒げる。


 マンティコアの毒は致死性の毒だ。一命を取り留めた者はどんな屈強な奴でも絶対安静──こいつが知らないわけないだろうがッ!


 そもそも動くのもかなり辛いはず──


「何でお前がそっちに行かねぇ!?」


 俺は怒気を出しながら言う。


 フィア達が襲われてるならそっちに行けよッ!


「……すいません。わかってはいたんです……だけど……──っ!? ゾルさんッ!」


「──ちっ」


 リリアが話している途中に背後から攻撃され、盾で逸らす。


「ほう、よく防いだな?」


「てめぇは──【】……何でこんな所に!?」


【拳聖】ステラ──


 拳一つでどんな敵でも粉砕するし、元【剣聖】である隊長並に強い。なんせ昔に隊長とやりあって引き分けている。


 それにこいつは傭兵のはず──


「当然、依頼を受けたからだが?」


 やっぱりか……このタイミングでこいつが現れるという事は黒幕がいるな。


 更に拙い事になった。疲弊したロイ達が心配だ──


「隊長ッ!」


「えぇ、リリアは直ぐに戻ってロイ達を連れてこっちに合流しなさいッ! ここは私達でなんとかするわっ!」


「──嫌ですッ! 私はロイド君の覚悟に──カイルさんを重ねましたッ! それにロイド君が言った事が本当なら──全滅しますッ! その為に私は来ましたッ!」


 寝てたロイが何を知ってんだよ!?


「何意味のわからねぇ事言ってやがるッ! ロイ達はまだ子供なんだぞ!? シャーリー様ッ! リリアが行かないなら、今すぐ俺かユラをロイの所へ向かわせて下さいっ!」


「行かせるわけないだろ? 私がいる以上、ここから抜ける事は叶わない。全盛期から遠ざかったライラと雑魚が私相手に逃げれるわけないだろ?」


 ちっ、この圧迫感──昔より強くなってやがるな。


 シャーリー様が口を開く──


「……なりません……今この状況で抜ける事は許しません。私達の誰かが抜ければ街は全滅します。ここはロイド君を信じましょう……ライラ──ステラの相手を頼みます」


「──わかりました。リリア」


「はい」


「ロイは何て言ってた?」


 隊長は真剣な眼差しで問う。


「皆の笑顔を守りたいと──そして、私の前でカイルさんのように盾を好きな場所に出していました……それに──この人が風の精霊様をロイド君に付き添いを」


 風の精霊? この女が? この女も精霊じゃなかったか? ──それに精霊に言う事を聞かせるのは精霊使いだけのはず。何者なんだ!?


「そう……──なら、問題無いわね。私達は目の前のこいつらを蹴散らすだけよ」


「そうだ。お前らはここで足止めさせてもらう──さぁかかってこいッ!!!」


 口元を吊り上げるステラが構えると同時に魔物が更に増える──


「ステラ──昔の借りを返すわよッ! こいつは私が引き受けるッ! 皆は魔物をッ!」



 俺達は戦闘を開始する──




 ◆



 まさかここでステラと戦う事になるとは……ロイド君達は大丈夫かしら……。


 マンティコアの毒は治療後でも普通なら動くのも辛いはずなのに……。


 リリアの報告を聞くに──


 敵は吸魂剣ソウルイーターの使い手とロイド君が言っていたそうです。


 吸魂剣ソウルイーターはかつて【勇者】フランが呪いを無効にして使っていた剣。失われたと聞いていたのに……。


 あんな危険な呪われた魔剣を使っている者がいるなんて……出来れば早く助けに行きたい……だけど、ここで戦力が減るのは危険過ぎる……。


 リリア曰く、風の精霊様がついていてくれているのがせめての救いです。そうでなければリリアを無理矢理向かわせていたところだったでしょう。


 目の前で鉄甲をガンガンと鳴らし、口元を吊り上げながらライラを見据えているステラを見ながら思う。


 魔物も近寄って来ましたね……。


「ゾルは私の護衛──ユラとリリアは冒険者や兵士のサポートをお願いします」


「「「はっ」」」


 皆、行動に移すと、目の前にいるライラはステラに話しかけます。


「ステラ──堕ちるところまで堕ちたか?」


「ふん、私は金さえ積まれればどんな事だってする。例えと敵対してもな?」


 私とライラはステラの戦友であり、昔はよく仕事の手伝いもしてくれた記憶があります。


 豪快で乱暴な性格のステラですが、分別ぐらいついたはずなのに何故こんな事を……。


「そう……変わったわね? 昔からお金ばっかりだったけど、信念は曲げなかったのにね? その腐った根性叩き直してあげるわッ!」


「何も私は変わっていない──さぁ、やろうぜッ!」


「「──『限界突破』──」」


 2人はプレッシャーを放ちながら戦闘を開始する──



 目の前で繰り広げられるライラとステラの激しい戦闘と大量の魔物を見ながら、最悪の事態を想像してしまう……。


 この先の見えない戦い……私の魔力は持たないかもしれない──


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