第33話 これしか方法が無いんだ!?

 2人共、笑顔で母さん達の所へ向かってくれた。


 物欲というのは恐ろしいぐらいに人を素直にしてくれるんだな……。


 去り際にエレノアのさんが僕に『眷属……私の代わりに……』って言いながら頬にキスしてくれた。


 母さん以外にキスされたのは初めてでドキッとしたな!


 ちなみにエレノアさんの代わりとは精霊さんだ。


『鑑定』すると──


[風の精霊シルフ]


 と記載されていた。なんと! エメラルドグリーン髪色で薄着のセクシーなお姉さんだ!


 エレノアさんの眷属らしいし協力してくれるみたいだ。シャーリーさんの講義では風の精霊シルフと言えば、中位精霊のはず。戦力的に大分ありがたい。僕も毒を受けた後遺症のせいか、身体が凄く怠いしね……。


 でも、なんかこの精霊さん……息遣いが荒い……絡みつくように纏わりついて魔力吸ってくるから、取り憑かれたと言った方がしっくりくるような……お陰で『魔素還元』使いっぱなしだよ!?



 夢ではリリアさんが助けに来てくれたけど、今回は来ないように念押ししている。おそらく、予想だけど強化された結界の時にリリアさんは向こうに行って、こっち側に救援に行くように言われたのかもしれない。


 だから、精霊さんの存在は逃げるにしてもとても助かる。



 そんな事を考えながら僕は走っている。


 向かう先はレラとフィアが襲われた現場だ。


 しばらくすると──近くで戦闘音が聞こえてきた。



 僕は近くに寄って行く。


 そこにはかつて戦ったBランク冒険者がいた。


 丁度、フィアの魔法が直撃し、胸元に穴が空いた瞬間にレラが首を斬り飛ばしていた。


「「やったっ!」」


 そして、2人はハイタッチを交わす。


 ……全然余裕そうなんだけど?


「レラ、早くこの事をお母様に──」


「まだだ──これぐらいじゃ俺は倒れねぇぜ?」


 男の首は繋がり、傷は回復されていた。


 やはり、僕が介入しなければ2人が傷付く──


「……何故?」


 フィアの呟きが聞こえてくる。死なない事が疑問のようだ。


 一応リリアさんに確認した所──


 吸魂剣ソウルイーターはスキルと命を増やし、異形の化け物にすると言っていたし夢でも僕の力が通用しなかったのもこれが関係してるのかもしれない。


 ここからきっと何度も復活してあの状況になるのだろう。見た感じ、2人は相当疲弊しているし──


 何より、最近の切り裂き魔がこいつなのであればかなりの人が死んでいる……下手したらスラムとかでも殺しているかもしれない。このまま続けても夢のようになるだけだ。


「んあ? 別に俺はアンデットじゃねぇよ。人ではなくなったがなぁ? まずは鬱憤を晴らさせてもらう──その後にロイだったか? あいつをやればいいだろ」


 ん? もしかして僕が狙われているのか?


「──良い顔だな。もっと俺に見せてくれよ? さぁ宴の時間だ──」


 男は以前よりも速い速度で斬りかかるが、レラは問題なく捌いていく。


 この猛攻の中、出辛い……レラはまだ余裕がありそうだし、魔力切れを起こしてそうなフィアの所へ行くか。


「フィア」


 ソッと後ろから声をかける。


「え?! ロイ君!? 何でここに!?」


 フィアは僕の方を見ると驚いた表情をしている。


「いや、そんな驚かなくて良いと思うんだけど?! 助けに来たに決まってるじゃないか」


「……ロイ……君……」


 涙を流し始めるフィアに僕はあたふたする。


「ちょ、な、泣きやもうか!?」


「……うん……ロイ君──ここは私達が時間稼ぎするからお母様達の所へ逃げて」


「え? 何で?」


 助けに来たのにいきなり逃げろと言われたんだけど!?


「何でロイがここにいるのよ!」


 戦っているレラからも僕に気付き──叱咤された!?


「くははっ、こりゃ手間が省けたぜっ!」


 男は喜んでいるな!


 反応を見るに──


 やっぱり、僕が狙われてる感じ?


 でも、放っておいたら2人が危ないし……うん、僕が逃げるのは無いな。


 リリアさんは夢の時のようにここに来る事はない。僕がそうなるようにしたからね。


 だから僕と精霊さんで2人を連れて逃げる。


 今ならまだ酷い怪我もしていない。十分可能のはずだし、僕が狙われてるなら追いかけて来るでしょ! たぶん!


「何故、僕がここにいるか? それは──「御宅はどうでもいい──」──いや、台詞ぐらい言わせてくれません!? ──おわっ、盾が!? って剣も!?」


 僕は襲い来る剣戟を盾で防ぐと──


 ラウンドシールドは真っ二つになる。


 そのまま剣で攻撃するも、簡単に切断されてしまった。


 拙い──やっぱり武器の性能が全く違う。僕の武器って量産品だからな……。


 僕は即座に腕輪に魔力を込めて自分用の盾を出現させてバックステップで距離を取る。


「レラっ! 少し時間稼ぎしてっ!」


「何でよ!?」


「敵は既に人じゃない! ここから逃げる為に準備をする!」


「しかし、このまま放っておいたら被害が……それにロイ君を狙ってる……」


 フィアから僕を狙っている──その言葉を聞いて少し安心する。


 なら、このまま放置しても問題ないだろう。どうせこいつはある程度時間が経てばここから去るはず。


 ただ、その時は既に手遅れだ──


 それまでに確実に離脱するッ!


「このまま戦えば──間違いなく2人は傷付く。それに……狙っているなら尚更好都合だよ。母さん達に引き合わそう」


 母さん達も気掛かりだし、早く向かいたい。


 こんな所で時間を潰していると、本当に手遅れになってしまう。


 既に街はな結界で覆われている。おそらく危機が迫り、シャーリーさんが張り直した証拠だろう。


 とりあえず、僕の第一の目的は2事だ。


 だからその為に手段は選んでられない。


「──わかった。どれぐらい時間稼ぎすればいいの?!」


「レラありがとう! 5分頼む──」


 僕の言葉を聞いてレラは駆け出し斬り込んで行く──


 僕はフィアの肩に手を当てる。


「??」


 フィアは疑問符を浮かべているので説明する。


「フィアは魔力がほとんど無いでしょ? 回復させるね?」


「えっ!? ロイ君、そんな事出来るんですか?」


「そうだね。出来るようになったみたいだよ──って事で回復させるね──」


 僕は『魔素還元』しながら『魔力譲渡』を使う。


「わ、確かに少し回復してる? でも前に受けた時と違う? 何かふわっとした感じがしますね……頭がボーっとして気持ち良いです……」


 ん? フィアは前にも『魔力譲渡』された事があるのか?


 それにやっぱり『魔素還元』した魔力は何か違うのかな?


 まぁ、今はそれより回復が先だ。レラも頑張ってるんだ、僕も頑張らないと……でも、少しずつしか回復しないな……。


 これ……自分で5分って言ったけど──5分で回復するの無理じゃね?


「ごめん、フィア──」


 僕は接触部位を広くする為に


「ふぇ? ロ、ロイ君??」


 まだ、これでも回復が遅いな……間に合わないな。


 仕方ない──


 ──使か。このままだとレラが危ないし。


「……行くよフィア──」


 大先生頼みました! これなら疲労も回復するしね!


「へ? ──ふぇぇぇぇぇぇんっ!?」


 ハグをしている為、顔は全く見えない──


 だけど──


 凄くフィアが熱くなっているのはわかる!


 可愛い声で萌えそうだ! 何この可愛い子は!?


 そして、何より良い匂いだっ! このフローラルな匂いは荒んだ僕の心が癒されるッ!


 しかし、今この状況でふざけている場合じゃない!


 魔力は──うん、回復してるっぽいな!


「こらぁぁぁっ! 何してるのよっ!」


 戦っているレラから怒声が聞こえてきた。


 うん、ごめん。ふざけてるわけじゃないんだ! 魔力の回復をしてたんだよ!


「よそ見してる場合か? あいつがいるならお前は用無しだ──さっさと死ね」


「──レラ危ないっ!」


 男は注意が僕に向いてるレラに首目掛けて剣を振るう。


 僕はレラに当たる前に咄嗟に盾を出現させる。


「──っ!?」


 鈍い音と同時に盾は斬られるが、それによって剣の速度が遅くなり、レラは避ける事に成功する。


 なんとか成功した。


「レラっ! こっちに戻ってっ!」


 咄嗟な掛け声にもレラは反応し、僕の隣りにやってくる。


「──あんた、こんな時に何してんのよっ!」


「いや、魔力を回復させてたんだって! やましい気持ちは一切無いよ?! それに今は目の前の奴をなんとかしないと!」


「……私もしてっ!」


「なにを!?」


「ハグよっ!」


「えぇっ!? 今!?」


 ぷいっと顔を背けて言うレラ。


 ここで機嫌を損なわれると困る……仕方ないか……大先生なら『疲労回復』効果もある……。


「わかったよ……精霊さん足止めしてもらっていいかな?」


 シルフさんはコクリと頷き男に風圧を放って近寄らせないようにする。


 僕はレラを抱きしめて【性感度】の『疲労回復』を使用する。時間無いからレベルは3だ! これ以上は良くないと【直感】が言っているからね!


「──!? ふぉぉぉあぁぁぁぁぁっ」


 レラをハグから解放すると顔を真っ赤にさせて、うっとり僕を見ていた……。


 良しッ! これで僕達は万全だっ!



「てめぇぇぇ、ぶっ殺してやるっ!」


 男は風の圧力を剣で薙ぎ払う。


 確かにシリアスな場面なのに喘ぎ声が聞こえてくるのはどうかと思うけど……これしか方法が無いんだよ!



 僕達は戦闘を開始する──

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