第25話 これが実戦か!?

「ちょ、ちょっと待ってよ母さん! まさかこれで終わりじゃないんでしょ?! 僕はまだ戦えるよ!」


「……まぁ、確かに終わりじゃないけど……」


「今日だけ揉みほぐし25分だ! もちろんシャーリーさんも!」


 最近人数が増えたから時間を15分にしてもらっていた。10分は貴重だろう。


 シャーリーさんも強く頷いている事から許可は降りるはず──


「──わかったわ……その言葉忘れないでね? ちなみに次もダメならわかってるわね?」


 僕はガッツポーズをする。


 よしっ! なんとか『マン汁』を回避したぞ!



 さて、早く次のゴブリン探さないと……。


 ──!?


『気配察知』に反応あり! 1匹だ!


 ……しかし、この魔物大きいな……。


 目視出来る距離に現れると──


 オークという魔物だった。二足歩行の大きな豚で顔はゴブリンと同様醜い。


 こ、これは勝てるのか?


 僕の『危機察知』がびんびん反応してるんだけど!?


 僕は2人を見る。


「気持ち悪い顔ね……」


「あれは……ゴブリンと同じく女の敵です……」


 2人とも嫌悪感はあるようだけど恐怖とかはなさそうだ。


 それより女の敵?


 そういえば、ゴブリンとオークは異種族と子供が作れるんだったな……女の人は拐われると最悪な事になると聞いた事がある。


 ここは僕が男として率先して倒しに行くべきだろう。


 レラの速度に勝てる気がしないし一言言っておくか。


「今度は僕から行く──2人は援護を──!?」


 そう言いながら走り出そうとした時、後ろから光線が突き抜ける──


 こ、これはフィアの閃光シャイニングレーザー!?


 しかも前より光線が太くなってる……。


 そして、光線を横にずらす事により、一瞬にしてオークの首は切断されて転がっていく。


「…………」


 まさか……終わったのか? また出番なかったんだけど……。


「オークなんて死んでしまえばいいんです!」


 フィアの怒りが伝わってきた。


「フィアまた腕を上げたわね〜」


 レラの呟きに僕も頷き同意する。


 あんな物、僕に撃たれたら即死だろうな……。


 しかし……今の所、僕は全く必要ないな!


 まぁ、元々盾役だし──魔物も弱いから皆を守るような場面が来ない!


「ロイ……」


 ──!? しまった、母さんの声……これは『マン汁』確定だ……。


 なんとかならないだろうか?


 交渉だ! なんとしても『マン汁』を回避するんだ!


 最近の『マン汁』は僕の『感度操作』を超えてダメージを与える……早く『無臭』と『味音痴』を習得せねば……。


「母さん……もう5分追加するからラストチャンスを……」


「短いわね……」


「母さん……実は僕の揉みほぐしはね……更に気持ち良く出来るんだ! 今までより更にパワーアップした揉みほぐしを受けたくない!? 疲労なんて吹っ飛ぶよ!」


「──!? あれより!? それは興味があるわね……合計30分をそれでやってくれるのね?」


「も、もちろんさ! 大好きな母さんに心を込めて揉んであげる!」


「……わかったわ。だけど、次が最後よ?」


「ありがとう、母さん!」


 次こそは確実に僕の実力を出してやる! せめて僕も戦うんだ!



 もう僕に失敗は許されない。


「レラ、フィア……次は僕に行かせてくれないかな?」


「「いいよ」」


 よし、これで次こそは必ずや戦える。


 そう意気込んでいると──


 全身に悪寒が走る。


 今まで感じた事が無いぐらいだ。


 先生達が直ぐに逃げろと告げている。


 母さんを見ると真剣な表情だ。


 母さんからの指示が出ないという事は大丈夫という事だろうか?


 僕は──いや僕達は間違いなく勝てないのはひしひしと伝わってくる。


 甘んじてお仕置きは受けよう……逃げよう……。


「──撤退の準備! 母さん達の所まで走るよ!」


「「え?」」


「かなりヤバい感じがする。僕達だと危険だ」


 さっさと後退しないと──


 ──動きが速い!? しかも何匹か後ろにも反応!?


 間に合わない──


 目の前に猿のような顔、ライオンの胴体、蠍の尾を持つ姿が見えた。


 1匹? 他にも反応あったのにな。


「悪いけど──」


 僕1人じゃ無理だ──そう言おうと2人に視線を送ると──


「な、なにあれ? 足が動かない……」


 レラは怯え──


「マンティコア? こんな辺境に?」


 フィアはあり得ないと言い、震えていた。


 あれはマンティコアという魔物なのか……前世の記憶にもゲームとかでそんな魔物がいた気がするな。


 しかし、ゲームじゃないんだよね……実物は見ているだけで寒気がする。


 2人とも動け無さそうだな……僕も『威圧耐性』があってもキツいぞ?


 図体も大きいし、これが本物の殺意か……これが実戦……。


「ロイっ! 死なないように時間稼ぎをしなさいっ! まともに動けるのは貴方だけよ! ロイなら出来るっ!」


 時間稼ぎ? どういう事だ??


 視線を向けると母さんの目の前にもマンティコアが4匹いた。


 他の反応があった魔物は母さん達に行ったのか!?


 それに母さんとシャーリーさんの格好が、いつの間にか変わっている。


 母さんは剣を2本、そして白い鎧を身に纏い──


 シャーリーさんは白い装束でモーニングスターを構えていた。




 ──『気配察知』を広げてみると複数の反応がある……マジか……マンティコアっぽい反応がたくさんあるじゃないか……。


 師匠達の間引きからもれてる? いや、師匠達もマンティコアの相手で動けない感じか。



 確かに討伐任務は予想外のトラブルが起こると聞いてはいたが、討伐訓練初日に経験する事になるとは……フラグの回収早すぎないですかね?!


 母さんが時間稼ぎをするように指示を出して来たという事は4匹ならシャーリーさんと何とか出来るのかもしれない。


 そして、僕達が足止めぐらい出来ると信じているのだろう……たぶん……。


 まさかこの状況で僕達を試してないよね?


「ロイ、守りながら一斉に相手をするのは無理だわ。当然ながら逃げるのも無理ね」


 僕は頷く。


 やっぱりそうだよね! 信じてた!


 しかし──僕なんかで時間稼ぎ出来るのか?


 いや、しなければならない。レラとフィアがまともに動けない以上は僕がなんとかしないとダメだ。


 それに母さんなら、さっさと他の4匹を倒してこっちに来てくれるだろう。


 なんたってワイバーンを一撃で殺すぐらいだしね!


 僕は待ってるよ!


「なるべく──早く来てね?」


「お母さんに任せなさい! だから生き残ってね?」


 母さんは戦闘を開始する──


 離れた場所で母さん、シャーリーさんがマンティコアと凄まじい攻撃の応酬が繰り出される。


 ……見た感じ直ぐには来てくれなさそうだな……。


 僕は目の前でにやにや笑うマンティコアを見据える。


 攻撃をして来ない事から、どう食おうか考えているのかもしれない。


 それに何かぶつぶつ言っている……。


【聴覚】を上げられる最大まで上げてみよう。


『くひひ……子供の脳みそは美味い……』


 聞くんじゃなかった……。


 それより、喋れるのか……人語を理解して話すって事はそれだけ賢い……絶対強い魔物じゃないか……。


 僕は両頬を叩き気合を入れる。


「……やるか……2人は下がってて」


「「で、でも!」」


「いや、僕の番でしょ? 後で僕も凄いんだーって2人に言ってもらえるように頑張るから応援しててね?」


 僕は2人に笑顔でそう告げる。


 僕1人の方が時間稼ぎだけならまだなんとかなる。


 僕の盾を使った回避力だけは師匠からもお墨付きだ。


 レラも動きが速いし、避けれない事はないけど──波がある。今の状態じゃ無理だろう。フィアはそもそも前衛ではない。僕だけの方がだけならなんとかなる。


 さぁ──集中だ。


 まだぶつぶつと言っているし時間はあるな……。


 まずは『鑑定』っと──


 ふむふむ、名前はマンティコアね……うん、さっき聞いたから知ってる。


 スキルは──『威圧』『咆哮』『毒針』『爪波斬』……まだあるのか……多すぎだろ……。


 やっぱり『威圧』を使ってるっぽいな……。


 そういえば『マン汁』飲む前はよく『威圧』されてたなぁ……って、僕の『威圧耐性』って母さんのお陰で習得してたのか!?


 まぁ、今動けるのは母さんのお陰というのは理解した。


 僕もいつでも動けるようにスキルを使う──


 ──『直感』『気配察知』『危機察知』を使用し。


『感度操作』も使う──【直感】【視覚】【聴覚】の感覚を上げれる最大にし、【痛覚】は最低にした。


 構えたら僕の準備は終わりだ。


 これでどこから攻撃が来ても使いこなせば回避ぐらい出来るはずだ。


「きしゃしゃしゃ、やる気か……お前から食おうかのう」


 気持ち悪い声と喋り方だな……。


「殺せればね? その前にお前が死ぬだろうけどね」


 僕の言葉が理解出来ているのだろう。


 顔付きが変わり──その直後に目の前から消える。


 母さんよりは遅いんだろうけど見えないな……僕の周りは速い人ばっかだな!


 胸辺りがぴりぴりと感じる。方向は──右!


 咄嗟に剣をしっかり握りながら右側に添えるように置くと、爪が現れ衝突する。


「ちっ」


 速く、力が違い過ぎる為、逸らす事も出来ずにそのまま僕は拮抗する事なく空を舞うが難なく着地する。


 よく吹き飛ばされたからか着地は上手くなっている。


 何事も無駄な事は無いな……。


 それに不思議と【聴覚】を最大にしているのにそこまで雑音を感じない。集中していると聞きたい情報だけが聞けるようだ。


 僕に出来る事──


 それは母さんが来るまでひたすら回避する事だ。


 どんなに間抜けでも良い。生き残れば勝ち──


 さぁ、始めよう──


 僕自身の初陣をっ!

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