第26話 童貞のまま死ねるか!?

「きししし……」


 不気味な笑い声を発しながらマンティコアは僕に攻撃をしてくるが、剣と盾を使って難なく回避している。


 相手は格上だ。それなのに母さんや師匠達のお陰でスキルを使いこなせて来ている為か紙一重でなんとかなっている。


 自分の動きも以前と違う気がするし、よくやれているな思う。


「……はぁ……はぁ……」


 ──ただ、まだ短時間しか経っていないのに息切れが酷い。


 緊張しているせいもあるのかもしれない……訓練と実戦ではまるで違う。


 根比べだな……攻撃当たらないし……。


 そう思っているとマンティコアは大きく息を吸う──


「ぐがぁぁああぁぁぁっ!!!!」


 ──!?


 衝撃波と共に声による攻撃が僕を襲う。これは──『咆哮』!?


 何かマンティコアは話しているが……全く聞こえない……。【聴覚】を上げた弊害か……まさかこんな落とし穴があるとは……。


 しかも何故か視界が歪んで立っていられない。三半規管がやられたのか?!


 揺れながら、剣を支えになんとか立ち上がる。


 体が思うように動かない。


 ──攻撃が来る。今度は左方向から攻撃が腹部か。


 避ける事が出来ないので、その場で防御するが──


 その瞬間に体に凄い衝撃が走り、吹き飛ばされ、そのまま転がる。


 立ち上がれない……。


 目の前まで近付くマンティコアは声は聞こえないけど、おそらく笑っているのだろう。


 醜い顔が歪んでいる。


 剣と盾を持とうとすると、軽かった……。


 剣の刃が粉々になり、盾は爪攻撃により根こそぎ無くなっていた。


 使い方をミスったな……。



 ふと、前を見るとマンティコアは右前足を横殴りに攻撃してくる──


 このままだと──死ぬ。


 なんとかしないと──


 ──父さんの形見の腕輪を使うしかない!


 瞬時にありったけの魔力を腕輪に込めると、ラウンドシールドが腕輪を中心に出来上がる。


 ガギンっと金属音が鳴り響き、僕は宙を舞うが致命傷は避けれた。


 衝撃で体が痺れる──


 空中だというのに『危機察知』と『直感』がまだ危険だと告げる。


 視線をマンティコアに移すと既に左前足がこちらに向かって襲いかかってきていた──


 僕は空中で身動きがとれない。


 今度こそ死ぬ──


 そう思った時──


 光線がマンティコアの顔面に直撃する。


 僕は光線が来た方向に視線を向けるとフィアが震えながらも攻撃をしてくれていた。


 叫び声を上げているであろうマンティコアに今度はレラが高速の斬撃を浴びせる。


 少し動きが硬いせいか、傷はそこまで深くはない。


 だけど、お陰で助かった。


 武器が無い以上──僕に出来る事は盾役として立ち回る事しか出来ない。


 幸い、耳も聞こえ始めているし、体も動くようになって来ている。きっと【平衡感覚】が機能してくれているんだろう。


 だけど、このまま戦って勝てるとは思えない。


 母さん達はまだ来ない。


 マンティコアを見ると尻尾の先がレラに向かって行く。


 レラは攻撃に集中していて気付いていない。


『予測(極)』が発動する──


 間違いなくレラは串刺しになる。


 助けなければ──


 今、僕が出来る事──


 


 だけど、間に合わない──


「レラっ! こっちに来いっ!」


 レラは素直に僕の方に向かって飛び退く──


 背後には尻尾の棘が追いかけて来ている。


 僕はレラの腕を掴み勢い良く後ろへ引っ張り盾で防御しようとするが──


「ちっ」


 尻尾は盾に当たらずに軌道を変えて腹部に尻尾が刺さる。


 多少痛いけど『痛覚耐性』と【痛覚】の重ね掛けの効果で全然我慢出来る。


 だけど、体に力が入らない。


 これがマンティコアのスキル『毒針』の効果だと理解する。


 僕の体は空中で尻尾に刺されたままの状態で脱力する。


 マンティコアの醜い顔がにやにやしながら近づいて来た……。


 このまま何も出来ずに僕は──食われるのか?


 迫るマンティコア──


 痛覚が鈍い為か──思考はクリアだ。


 あぁ、死にたくないなぁ……。


 やっと──


 スキルの使い方もわかってきて楽しくなってきたのに……。


 母さん達にも認めてもらえたのに──


 あー、クソッ!


 童貞のまま死ねるかっ!


 母さんが来たらお前なんか瞬殺だからなっ!


 せめて、まだ試してないを使って最後の時間稼ぎだ!




 ◆




 私はロイの掛け声で直ぐに後ろに下がった瞬間に引っ張られ、フィアの近くに投げられる。


 マンティコアの方向に視線を向けると──


「──ロ、ロイっ!?」


「ロイ君っ!」


 私とフィアが見た光景はロイがマンティコアの尻尾により、腹部を貫通され、宙吊りにされた姿だった。


 ロイは脱力しているけど──まだ死んでない。


 私とフィアは助け出そうと動き出すけど──


「グガアァァァッ」


 再度、マンティコアの雄叫びにより、さっきと同じく足が止まる。


 何で、何で動かないのよ!


「はあぁぁぁっ! こんなもので止まらないっ! フィア行くわよっ!」


 私は気合いを入れ直して奮起する。


「はいっ! 私達は誓ったんです! こんな事で負けはしません!」


 私達は訓練だってたくさんした──


 この前みたいに守られるだけじゃダメ──ロイだけに戦わせはしないっ!


 今度こそ私は足手まといになんかならないっ!


 約束を果たす為に──必ず守るんだ!


閃光シャイニングレーザー──」


 マンティコアはロイに夢中でこちらには気付かず、フィアの魔法は胴体に当たる──


「──ロイを離しなさいっ!」


 私も死角から連撃を入れるけど──


 硬い──


 ダメージが与えられている気がしない。


 だけど、無駄ではないはず。私が攻撃している間はこいつもロイに手出しは出来ない──


 そう思いながら攻撃を避けながら続ける。



「今行くわっ!」


 ──!?


 ライラさんの声だ。視線を向けるとどうやらあっちは残り1匹でシャーリーさんが相手をしている。ライラさんはこっちに向かい走る──


 これならなんとかなる。そう思った瞬間──


 マンティコアはを発し、風圧で私達を吹き飛ばした後、を殺そうと爪を振り上げる──


「「ロイ(君)っ!」」


「ロイぃぃぃぃっ!!」


 必死に走り寄るライラさんと私達は振り下ろされる爪を死刑宣告の瞬間のような気持ちでただ見る事しか出来なかった。


 だけど、ロイは私達を見て笑っていた──

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