New Year's Eve Thanks!(大晦日にありがとう!)
なめなめ
第1話
あと数時間で年が明けるという大晦日の夜。アラフォーのシングルファザーであるオレは、リビングから聞こえるテレビの音声をラジオ代わりに、台所で元旦に出すための御節料理を作り続けていた。
ただ、“御節”といっても我が家では数の子や昆布巻きみたい大層なものは用意しない。何故なら……
「お父さ~ん、御節まだぁ~?」
妻の忘れ形見である十歳の一人娘の
「まだだ雫。それにできたとしても、食べるのは明日の元旦だぞ?」
「え~!そうなの~?」
自分の目的が先延ばしになったと残念がる娘は、ガッカリと肩を落としてリビングへ戻る。
「まったく、まだまだ子供だな……」
そう、あの子はまだ十歳の子供だ。それだからこそ、我が家の御節は娘の好きな物しか入れてない。わかりやすく言えば、中身は運動会や遠足の時と同じままで外側の弁当箱が重箱へ変わるだけの誤魔化し御節だ。
まぁ、娘にしてみれば最高の御節にはなるんだけど……
「――――さぁ、最後にエビフライをここに詰めて……よし、完成だ!」
これでようやく御節作りから解放されたオレは、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して娘がいるリビングへ向う。
「お疲れ~」
「おう!」
コタツに入って背中を向けたまま労う雫。どうやら、テレビのバラエティー番組に夢中になってるみたいだ。
「さぁてと……オレも楽しみますか」
冷えた足をコタツに入れ、さっそくビールを開ける。
プシュ!
心地よい音共に飛び散った泡を気にすることもなく、一気に喉へ流し込む!
「ゴクゴク……ぷふぁ~! 一仕事終えた後のビールは格別だな!」
そんな
「ねぇ、お父さん?」
「ん? ゴクゴク……どうした、愛しい娘よ?」
声のトーンはどこか真剣そうだ。もしや、お年玉の増額でも狙ってるのか?
「再婚しないの?」
「ぶはぁ! ごほっ!ごほっ! な、何を言って……お前……ごほっ!」
予想もつかない質問に驚き、口に含んだビールを全て吹き出してしまう。
「もう汚いなぁ。そんなんだから、出世できないんだよ?」
「ほ、ほっとけ! これでも一応は課長なんだぞ!」
大惨事が起きてるにも関わらず、娘は冷静にティッシュで飛び散ったビールを拭き取る。
「あ、サンキュー……っで、何でまた再婚なんて話を持ち出したんだ?」
不思議に思い訊いてみた。
「だって、お母さんが亡くなってからもう四年でしょ? そろそろ、そんな話とかないのかなぁ~って……」
もしや母親という存在が恋しいのか? けど、オレは……
「悪いな雫。父さんは今でも母さんを愛してるんだ。だから、その……再婚なんてものは……」
そこまで言いかけた時だ。娘が言い出したのは。
「そういえば今日さぁ、A町のコンビニの前を通ったでしょ?」
「何だいきなり? 確かに蕎麦の材料を買った帰りで通ったが……それがどうしたんだ?」
再びビールを口にするオレ。
「その時、髪の短い眼鏡の
「ぶはぁ! な、ななな何を言ってるんだお前は!?」
「とぼけても無駄よ。私、あのコンビニでお菓子を買った時にバッチリ見たんだからね!」
「うっ!」
こ、これは反抗期ってヤツ……いや違うな。ただの尋問だな……うん。などと考えてる間も娘は続ける!
「で、どうなのよ?」
「ど……どうとは?」
どう言えばいいんだろ?
「あの人とはどういう関係なの!?」
「あ、そのぉ……」
刑事ドラマ顔負けの迫力に押され、もはやビールの味がまるでしない。
「ねぇ、お父さん?」
「…………」
「聞いてるの! お父さん!?」
「うぉ、あ、聞いてる! 雫の言うことは、父さんよぉ~く聞いてるぞぉ!」
嘘だ。本当は上の空でぜんぜん聞いてなかった。
「じゃあ、あの人との関係は!? さっさと白状しなさい!!」
追求の手を緩めない娘。ついには仁王立ちで指まで差してくるので仕方なく……
「……ふぅ、わかったよ。話せばいいんだろ?」
何も言わないままだと、このまま年を越しそうだしな。
「それじゃあ聞きましょうか」
雫はちょこんと正座。これを娘なりに『真面目に話を聞こう』とする態度の表れなんだろうと解釈するオレは、同じように向き合って正座する。
「あ~コホン! では、始めさせてもらいます」
「はい、よろしくお願いします!」
妙なやり取りを交わし、いよいよ本題へ。
「え~と、お父さんと彼女の関係だがな……彼女は同じ部署の部下であって、一年前のひょんなキッカケから何となく話す機会が増えて仲良くなったんだ。そして……」
「ストップ!」
「え?」
急に話を止める娘。どこか不満そうだ。
「そういうまどろっこしいのはいいから、お父さんがその人とどうなりたいかを聞かせてよ!」
「ど、どどどうって……何をだよ!?」
いきなりのド直球な質問に、オレは大いに困惑するしかない!
「再婚……するつもりなの?」
「さささ再婚!?」
またしてもド直球! しかも、今度は内角高めにビシッと決められた!!
「い、いや……それは……」
『オレはどうしたい?』
娘に言われたからじゃないが、彼女には少なからず好意を抱いて……いる。
正直、『この
もしそれをしてしまえば、娘である雫……ひいては亡き妻への裏切りに繋がってしまうからだ!
「ねぇ、お父さん? もしかして、私とお母さんに気を使ってるの?」
「うぐっ!」
ど真ん中に決まる百マイル! オレの本心と苦悩は完全に十歳の
「お父さん、いいかな?」
娘は再び真剣な表情で尋ねる。
「な、何かな?」
「お父さん……お願いだから、私とお母さんをお父さんが幸せになれない言い訳にしないで!」
「え、お前……ハッ!?」
気がつくと、娘は涙を懸命に堪えながらオレを見ていた。
そうか、コイツは自分がオレの幸せを邪魔してかもしれないと考えて……ハハハ、ダメだな。父親が娘にこんな想いをさせては……
「わかったよ……」
「え?」
娘の頬に伝う涙をやさしく拭って言う。
「父さん……前に進んでみるよ」
「お父さん!」
誰かを言い訳に使うのはやめよう。これからはオレ自身の幸せ……娘に負い目を負わせない人生を選択をするのもアリなのかも知れない。
オレは自分にそう言い聞かせる……が!
「雫、じつはその父さんの幸せのことで重大な問題が一つあるんだけど……いいかな?」
「重大な問題?」
そう、まったくもって重大な問題である。それは……
「お父さん……彼女がお父さんをどう思っているかが、まったくわからないんだ」
当たり前の話だ。彼女がオレのことを何とも思っていなかったら、今までの会話はただの茶番。そう思っていたら?
「それ、本人に聞いてみればいいじゃないの?」
「本人って……ん、何やってんだ雫?」
「え、電話してるんだけど?」
娘は先月の誕生日に買ってやったばかりのスマホで誰かへ連絡をし始める。
「あ、もしもし……大丈夫。うん、今から……」
今から? 今から何かあるのか?
「じゃ、お願いね♪」
ピッ!
「オ、オイ、誰と電話して……」
「あっ、もうこんな時間だ~! そろそろお蕎麦の準備をするから、お父さんはコタツでごゆっくりしていて♪」
「オイ、雫……ったく、何だよ」
娘はこちらの呼びかけにも応じることなく台所へ。オレはその行動を不可解に思いつつ、何となく妻の仏壇に視線を合わせた。
「なぁ、お前? あの娘が何を考えているかわかるか?」
飾ってある妻の写真に語りかけるが、満面の笑みを浮かべているだけで何も答えてくれない……
ピンポーン!
そして、そうこうしてる内に突然我が家のチャイムが鳴っる。
「何だ? 年の瀬のこんな遅い時間になって……」
「ま、まさか! 待て、今開けてやるから!!」
急いでロックを外してドアを開ければ、そこには……
「こ、こここんばんわ……か、課長……」
凍えそうになっている例の彼女が立っていたのだった!
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